Maker's Made

Maker’s Made 7th Story
「へぇ…かすみさんとあすみさんって、双子なんですか。」
「そうなんですよぉ。全然似てないって言われますけどねぇ…へへぇ…」
「確かに、雰囲気が違うからそういわれるのかも知れませんね。でも、顔のパーツはやっぱり双子って感じですよ。」
「うんうん、やっぱりそう思いますよねぇ!」
「……あの…レイ……」
「何ですか?」
「…この状況分かってる?」
「十分に。承知の上ですが。」
「…なんでそんなに余裕なの?」
 黒幕メイカーを確保したレイ達、“フォローウィンド”という集団は3組に分かれて黒幕と人質を出口まで連れて行くということで合意した。で、あたし達を含めた誘拐された10人はレイに守られながらこの薄暗い施設を進んでいる…という状態だった。
 まぁ、当然といえば当然だが、主人のコントロールを失ったイミテイターたちが暴走し始め、その集団にあたし達が出会ってしまったというのがそのこれ。しかし、あすみとの会話を楽しみながらレイは迫り来る敵をザクザクと切り倒して進んでいた。『気違い』と『規格違い』の差はほとんどないのかも知れないと感じさせるのには十分だった。
「いや、これぐらいの雑魚を相手に練習するようなことは精凝器行使者の基本ですよ。」
「…でも、ちゃんと前向いて戦わないと…」
「お姉ちゃん、固いこと言わないの。みんな面白がってるじゃないですかぁ。」
 確かに、今さっきまで被害者たちは今まで生気を失っていた。それはそうだ、自分がただの家畜として飼われるだけの存在になってしまったということを実感するのは重症になりやすい。あたしもそれの痛みがどれほど深いかを身をもって知っている。でも、今、この会話を聞いて笑顔が戻ってきていた。くすくすという声が微かに聞こえるし、表情もだんだんと明るくなってきている。本当にレイという人物は人の心を開く一種の魔術みたいなものを持っているのではないかと思ったりもしたほどだ。
「さて、これでフィニッシュ!」
 レイが得物を横に一薙ぎして、最後に残り、逃げ出した3体が真っ二つになって砂に変わった。
「ふぅ…」
「おつかれですぅ」
「お疲れ様。」
あすみに遅れてあたしも声をかける。後ろからもねぎらいの言葉が小さいながらもあがった。
「…こんなに多くの美女に言われるとやっぱり照れますね。」
 レイは顔を伏せながらほほを人差し指で掻いた。その一言で周りからどっと笑いが起こった。あたしも大分久しぶりに笑ったような気がした。辺りは安堵の笑い声と嗚咽が入り混じっていた。

・・・・・・・・・・・

「さて、出口です。私はここで見張っておくので、梯子は一人ずつ順番に登ってください。もし、登れないならスタッフを呼びますのでその人に確保してもらってください。」
 レイは手際よくそういうと手前の人から順番に梯子へと誘導していく。あたし達もそれを手伝った。一応、退魔師として仕事をこなさないといけないからだ。他の退魔師も参加しようとしてくれたのだがレイが断った。
「ねぇ、レイ……」
「…何ですか?」
「あなたがこの仕事を始めたのは…いつからなの?」
「…正直、あまり話したくないですねぇ。僕も聞きませんので許してください。」
「じゃぁ、今の年齢は?」
「16。」
「えええええぇぇぇっ!?信じられないですぅ!」
 ……あすみと同じく正直に驚いた。あれほどの戦いに手慣れているし、状況判断や指示も的確に出来ている。更に言うとあの………時の上手さ。はっきり言って…
「…普通ならサバ読んでるって思いませんか?」
 その通りである。明らかに年不相応に精神年齢などが老けていると思うはずだ。だが、顔や体格を見ると確かにそのあたりの年齢だと思えてきた。暗がりでよく分からなかったのだが、上にいる救助からの光でよく見える今、確かに色々と若さが漂っていた。
「あすみよりも3つ下ですか!?」
 妹は信じきっているようだが、あたしも正直それぐらいの年齢が妥当じゃないかなと思っている。
 その台詞を聞いたときにレイの顔は一瞬驚きを隠せずに眉が上がったが、すぐに朗らかな笑顔に戻った。
「……お互い、苦労してきたっていう事ですよ。」
 その台詞の重さを知ったのは後のことなのだけど…
ブルブルブルブル・・・・
 イヤリングが振動した。今日連れ去られたばかりのあたしの装備はすべて戻ってきたので接続することが出来た。今までに拉致された人たちの衣服などは施設内のものを適当に扱うしかなかったのだが。
「はい、こちらかすみ。どうぞ。」
<よかったぁ…今、何処にいるんですか?>
深帆の声が返ってきた。
「出口の手前よ。向こうの署のスタッフが守ってくれてるわ。」
<でも、注意してください…SRMC値反応検出です。しかも…>
SRMC値というのは退魔師一人の戦力を1とした場合に魔物の妖気の反応を検出して戦力を測る数値のこと。これが2以上になれば退魔師一人では対処できないので、相応の手段を取らねばならないということになる。
<100超クラスです・・・しかも、けっこう近いですよ>
「なんですって!?」
 傍にいた全員が驚いたほどに大声を上げてしまった。どれほど高くても20以上の数値を弾き出す魔物はよほどでないと居ない。その上での3桁クラス。下手すれば都市はおろか、国一つ壊滅させられるほどの戦力値であるのは間違いないだろう。
<ですから、すぐに脱出してください。どうも、この地下に居るようです。>
「うん、わかったわ。それじゃ。」
<無事に帰ってきてくださいね。>
 通話を切った。
「……どうしました?」
 さっきの大声もあってか、レイはすぐさま声を掛けてきた。
「うん…かなり強い魔物が地下に居るって。」
「強さとか分かるんですか?」
「まぁね、でも、退魔師が100人かかっても勝てないようなかなりの強さの奴が…」
「ホントですかぁ…ピンチですよぉ」
「それじゃ、先に出てください。私が残りますよ。」
 今までの活躍ゆえにレイは信用に値する人物であると分かっているし、確実に時間を稼いでくれるだろうとあたし達は判断した。すぐさま梯子を掴み、一段をすばやく登って行った。

・・・・・・・・・・

 あたし達が梯子を上りきり、外へ出た。今までおろされていたシャッターが開かれており、もう夕方なのか斜陽が眩しかった。目の前には駆除会社の同胞が待っていた。
「かすみ!あすみ!心配したのよ。」
そういって抱きついてきたのは母の那由だった。
「…ただいま。」
「ただいまですぅ。」
「ごめんなさいね。私もてっきり退魔師協会からの指示だと勘違いしてて…これからはあの協会にもっと文句をつけておくから安心しなさい。」
 正直、母の過保護ぶりには少々迷惑しているがたまにはまんざらでもないと思った。後ろからは最後の一人、レイが登り終えたとこだった。そこに…
「SRMC反応接近!あの男です!気をつけてください!」
 その深帆の台詞は一瞬何のことかと思ったが有無言わさずにあたしの母は二人を抱えたまま後方へと飛んだ。
「ああ、そちらの皆様が西野怪物駆除会社の…」
「…目標確認。…補足完了、殲滅を実行する…」
 耳元でそう聞こえた直後、白い髪をなびかせた女性がレイに突進していた。
「ぐあっ!?」
 激しい金属音が炸裂した。レイは5mも引きずられつつ吹き飛びながらもその女性の攻撃を瞬間的に展開した精凝器によって受け止めていた。
「…痛ぅ…」
「……反応速度及び、防御能力、想定以上。」
 その女性は誰か…ふと横を見ると今まで私たちを肩から抱いていた母の姿が消えていた…まさか!
「なろっ!」
レイが密着してきたその女性を同じだけの距離吹き飛ばす。
「………」
 あの姿、服装…そう、あたしの母が“Far East Witch(東極魔女)”の能力を開放したのだ。この姿を見るのは正直初めてで、その迫力にはいつもの母が程遠く感じる。
「何で攻撃してくる…!」
「…数値修正完了。再度攻撃開始…」
 母は地を蹴ってレイに再び突進する。レイもそれに応じて剣を構えた。母はレイの手前に来て姿勢を低くし、足を薙ぐ回し蹴りを放った。しかし、レイはそれを何も触れさせることなく空中で止めた。攻撃が失敗したことを判断した母は体術の構えか拳を突き出した。ジャブとはいえ、体重を乗せたからには一撃でノックアウトできるほどの威力を有する。それもまたレイに届くことなく止められる。
「処理班!」
 レイが半ば悲鳴のように叫んだ。
「はい!」
 5人ぐらいのスタッフが答えた。
「ごめん、天井吹っ飛んじゃうかも…わりぃ。」
 向こうの所属のスタッフを含め、あたし達全員が「はぁ?」といった形で首を傾げた直後、当たらない攻撃を重ねる母が真上に吹き飛んだ。
「行きますよ…」
 そういってレイの姿はその場から一瞬消えた後、轟音と共に着地体勢のレイが立っていた。手は剣を振り下ろした形で止まっている。まさか…空で母は…引き裂かれたのか!?
 が、その直後に母はレイの後ろに居た。その左手が上に振り上げ降ろされた。もしあれが人に当たっていれば心臓が丸ごと抉られていただろう。しかし、レイも母の後ろに瞬間移動のような形で立っていた。母の首に剣を突きつけた状態で。
「ちょっと良いですか、こんな戦いは止めましょう。黒幕もちゃんと捕まったし、お互い恨みとかなく終わりましょうよ。」
 レイは首筋に向けていた刃を下に下ろした。母はそれを見計らってあたし達の後ろまで一気に跳躍してきた。着地後、髪の色はすぅっと白から黒へと戻っていった。
「一応人語は解すようね。今までこの娘たちに何をしたの?」
 母は今までに無い凄みの利いた口調でレイを責めていた。
「救助ですよ。スタッフから聞かなかったのですか?」
「このグループは妖怪も仲間として扱うのかしら?」
「…どういうことですか…」
レイも真剣である。もう一触即発の状況であるとは一目で分かる。回りには二人の殺気が静電気のように張り詰めている。
「あなたは妖怪である可能性がある。もしそうなら、退魔しなければならないわ。退魔師、西野那由としてね。」
「ダメッ!」
 あたし達二人は同時に叫んでいた。
「あの人はちゃんとあすみ達を守ってくれてたんですよぉ!」
「そうよ。彼が居なかったらあたし達…帰ってきてないわ。」
「あなた達は黙ってなさい!私情に流されるわけにはいかないの。」
 もうそれ以上あたし達は反論できなかった。もし、あたし達が部外者なら更に説得を続けていただろう。だけど、あたし達は退魔師。魔を狩るものだから…
「……ふむ、かすみさん!」
 レイがいきなりにもあたしを呼んだ。
「オペレーターの人に、その魔物の反応を見ておくように言って下さい。」
 最初は何のことかさっぱり分からなかった。が、反応を見る装置を付けたパソコンの画面を見ていた友紀があたしを見て頷いた。その直後、目が大きく見開かれた。
「マジかよ…おばちゃん!SRMC反応が消滅した!」
「何ですって!?」
 全員が驚くのは無理もないだろう。SRMC値2桁以上を示す魔物は妖気を隠すものも多い、しかし、完全に隠すことは出来ず、その反応が残ってしまうためSRMC反応が出てしまう。しかし、画面を見ると周囲の反応は一切無かった。100をも超える数値を持つ存在の妖気を完全に消滅させるだなんて…
「………」
「どういうこと…」
 全員がそういった眼で彼を見た。
「かすみさん、さきほどの質問に答えますよ。私がこの業界で戦い始めたのは半年前からです。」
 それに驚いたのはあたしとあすみ、それと母の二人だけだった。
「敵は毎日僕達を付けねらい、首をはねる気で掛かってくる。そんな中で僕は何も知らないで生きている人たちを助けようと足掻いていました。それで、一つ、大きな失態をした時に僕は望みました…『力を…望みを遂げるためのより巨大な力を』とね。そしたら、この力に目覚めてしまいました…この銀に光る左目と共に!」
 レイはあの家族の話を持ちかけられたときのように少し俯き気味で寂しそうな顔を浮かべた。
「それから僕は『世界中のエネルギーを完全に使役する』という能力を得ました。それで今までに何人もの敵や…僕達を裏切った脅威を…この手で葬ってきました…自分の信念を通すために…」
 誰も掛ける言葉を失っていた。罵る言葉も…慰める言葉も無く、ただ彼を見つめているだけだった。
 彼が歩みを始めた。あたし達に近づいてきた…
「かすみさん、一つ…覚えておいてください。“強さ”というものは対価を払って得るものです。その対価は時間と努力を持って支払うのが一般的です。ですが、僕はそんな猶予も無くこれほどまでに力を手に入れました。つまり…」
あたしの横を通り過ぎる。
「様々なものを…失ってきたんです…大切な人や…信頼や…人間である証明も…」
 あたしの視野から彼が消えた後、母が進み出て彼を止めたようだ。
「………」
「………」
 二人とも沈黙。そして…
「…あなたの信念は…何なの?」
「僕の信念は…誰も殺さないことです。もう、これ以上犠牲になる人は自分の前に居て欲しくないんです。たとえ…敵であっても。」
「………」
 再びの沈黙。そして
「…わかったわ。行きなさい。」
「僕を殺す絶好のチャンスですよ?」
「眼を見れば分かるわ。」
「ふっ…経験には勝てませんねぇ…」
 再び足音が離れていく。
「待って!」
あたしは彼を呼び止めたもののそこから先の言葉が無かった。
「………」
「一つ…言わせてもらいます。かすみさんは…強いです。少なくとも…僕よりもね。」
 彼は進むのを止めてくれた。だが、振り向かない…
「何で、あたしなんて…あなたの足手まといだったじゃない!」
「そういった強さじゃないです。僕が言いたいのは…」
 踵を返してこちらへと近づいてきた。あたしは立ったまま。
「かすみさんは僕を信用してくれました。あなたを信用しない僕を…」
 彼はあたしの髪をかきあげ、耳に唇が触れさせて、離れた。
「ありがとう…ございました。そして、さようなら。」
 それを最後に、彼はその仲間と一緒に夕日の中に消えていくようにして去って行った。最後の彼の顔は逆光の中でもはっきりとわかる優しい笑顔だった。
 あたしは涙が止まらなかった。別に咽び泣くようなことは無かったものの心の中から静かに溢れる感情により涙腺が緩み続けた。
「……お姉ちゃん」
あすみが駆け寄ってきた。
「たぶん…また会えます…きっと…」
「………」
「良かったんじゃねぇかよ。すっぱり別れたんだから後味も悪くねーじゃん、気取り直してさぁ……今日はおごってやるから、美味い店行こう、な。」
友紀も必死に元気付けてくれたが、結局日が沈むまであたしはそこに立っていて、皆はあたしが泣くのを止めるまで待っててくれた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

………あれが最後だと思ったのにね、結局今こうやって電話できるなんて………そうね、神様も悪戯が過ぎわね………うん………ふふふ……うん………うん、そうだね。あのときは全然気付かなかったんだもの。本当に!………だって、あのときよりも格段に大人にな雰囲気で………あ、そ。悪かったわね………分かってるわ………うん、それじゃ。

ピッ

「誰に電話してたんですかぁ?」
「友達よ。」
「絶対うそですぅ。子機から男の人の声が聞こえてきたのは何故ですかぁ?ねぇ〜お姉ちゃぁ〜ん、教えてくださいですぅ〜」
「だから友達。あすみも会ったことがあるはずよ。」
「へ!?誰ですかぁ?」
「教えない。さて、依頼の仕事、片付けなくっちゃ。」
「あぁ〜〜気になるですぅ〜…一生のお願いですぅ〜」
「ダメ、帰ってきてからしてあげるから。我慢しなさい。」
「えぇ〜…」

ふふふ…あなたのおかげで毎日も変わったような気がする。今まで悲惨な日々が延々と続いていくような気がしてたけど、今は毎日のなかに嬉しいことがあるかもしれないという希望が持てるようになったわ。レイ…

今も続いている退魔師としての戦いの日々、あたしは事務所の扉を開けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜Last Story End〜〜〜


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜『Maker’s Made』 Fin….〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

了>>
[ インデックスへ ]

Maker's Made