Maker’s Made Another Story

Maker’s Made Another Story 2nd

「あすみちゃん、あすみちゃん…」
ここはある施設の一つのようでした。足首ほどまで浸水した何かを水から引き上げるような場所でした。水かさの浅いところに一人の女性が横たわっており、傍には白い猫が、しかしその猫は普通のものではありません。尾が2つ。そう、妖怪“猫又”です。その猫又が僕。真沙羅という名の使い魔です。

〜地下施設大捕り物 あすみと真沙羅の物語〜

 でっかい触手の化け物にここまで連れ去られた僕の主人の西野あすみは今この部屋で気を失っていました。一応顔が水面から出てるし、息もあるので大丈夫のはずでしたが、もうすでに此処に連れて来られてから3の刻(6時間)は刻んでいました。
「あすみちゃん…」
 もう駄目かもしれないと思ったそのときに。
「ん…う〜ぅ…」
 寝そべっていた体勢からゆっくりとあすみちゃんは体を起こしました。
「ふぁぁ…よく寝たですぅ〜あ、おはよ〜真沙羅く〜ん」
 …どうもただ眠っていただけのようです。まぁ仕方が無いのですがね、双子の姉のかすみさんと一緒にこの施設に来たのですが、二人の睡眠時間は前の仕事もあって3時間も無かったのです。今までかなりの睡魔に襲われていたに違いありません。
「あれぇ?ここあすみの部屋じゃないですぅ!真沙羅君!ここどこですかぁ?」
「……かすみさんと一緒に仕事に来てここにいるんですよ。何かに襲われたからこの部屋に居て…」
「あ、そうそう!思い出しました!ありがとうですぅ!」
 …はっきりいいましょう。僕の主人は天然ボケです。しかし、これでも優秀な退魔師の一人です。IQとかいう頭の良さを量る数値も200近くあるとも聞いたことがありますが僕は良く知りません。
「あすみちゃん、早く此処から出ましょう。」
 今は状況判断が先決だと思いました。僕達は敵の罠にはまってしまったようです。だから、此処から安全に出るためには敵が何を考えているかを知る必要があります。
「ふ〜ん…でも、ここ、出口の扉も窓も無いですねぇ…どうしよう?」
 そうなんです。ここは密室。入ってきた水路も鉄の扉が下りてしまってあすみちゃんではとてもあけることは出来ないはずです。
「…………」
「う〜ん…」
 二人で必死に考えます。三人居れば文殊の知恵といいますけど、二人ではそうそういい知恵はなかなか出ません。そして…
「そーだぁ!ここの壁を壊せば出口が出てくるかもしれないですぅ!」
「でも、そんなちからは無いでしょ…あ!」
「ふふふ…下がっててくださいよ真沙羅君…今日のビックリドッキリですぅ!」
 そういってあすみちゃんはウェストポーチから札を5枚出すと水辺から一番遠い壁にそれを☆の頂点を示すようにして貼り付けます。これはあすみちゃんの得意技である『符術』です。札のなかに封じ込まれた魔法を術者が呪文によって起動させる呪術で、今回はそれぞれの発動に時間がかかるけど効果の高い“複符”術を使うようです。札は1つのときと2つ以上使うときの二つの使い方があって、1つだと出せるのが速い分弱いという特徴があります。今、敵が居ないので時間をかけられる。つまり、威力の高い方法が安全に使えるのです。
 そしてあすみちゃんは呪文を詠唱し始め、そして
「砕!」
 その一言でコンクリートの壁にひびが入ってガラガラと崩れてしまいました。奥は通路みたいに細長くなったところが見える以外は広くて何も無い部屋でした。
「むはははは!見たか!あすみの力を!」
「あすみちゃん、だれも見てないって…」
 するとその崩れた壁の奥のほうから何かが群れを成してちかづいてきます。
「あれはなんでしょうかね?」
「さぁ?」
 しかし、怒号の声を張り上げて近づいてくるそれらは人の形も獣の形もしていません。つまり…
「魔物ですよあすみちゃん!!!」
「えええええですぅ!」
「早く呪符を!!」
「え〜っと…これですぅ!」
 そういって取り出したのはオレンジ色をした3枚の札です。取り出す前から詠唱を始めた呪文はその札をかざすときには完了していました。ふつうならこうはいきません。あすみちゃんの裏技の『圧縮言語呪文』が成せる技です。ふつうに呪文を言う場合では呪文を起動させる命令である“言霊(ことだま)”は一人分しか出ません。しかし、その言霊を事前に術者の中に圧縮をかけて保存しておいて、必要に合わせてそれを解凍しながら外に出すことにより五人分もの言霊を発生させてかなりの速さで魔法が使えるというわけです。まるでパソコンとかいう機械みたいだとあすみちゃんが言っていたお母さん譲りの必殺技です。
「炎撫!」
 最後にそう叫ぶと札から業火が飛び出した。列を成して迫ってきた敵は有無言わさずに焦がされててしまいました。



「いっちょあがりぃ!」
 その一回で敵の集団は全滅してしまいました。相変わらずあすみちゃんは凄いです。
「それじゃぁ、行きましょう。」
 敵が来た方向に何らかの出口があるかもしれないと踏んだ僕達はそちらのほうへと進みます。
「oh~ 渋滞のタクシーもぉ〜♪」
 それから曲がりくねった通路が続き、度々敵に出くわしたもののあすみちゃんはしっかりと対応しているためあんまり手ごたえが無く、半分遠足気分で進んでいくとまた大きな部屋に出ました。
「暗いですねぇ…」
「あすみさん!こっち!」
 あすみさんに告げた理由は一つです。大きな緑をしたブヨブヨの壁がそこにで〜んとあったからです。しかも、そこから生えてきた触手が僕達に迫ってきていました!
「うわ!?大きいブヨブヨですねぇ!」
「感心してないで反撃してください!」
 私にせかされてまたまた札を出したあすみちゃんはさっきとおなじ魔法をそのブヨブヨにむかって使いました。
ブルン…
「げ!?マジですかぁ…」
 その壁は魔法の炎に直撃しても焦げることもなく迫ってきます。
「あすみちゃん!僕の力を使って!」
 そういって前に出ると以前、あすみちゃんと出会ったときと同じ猫又の姿になりました。普通の猫の3倍近い体躯になり、前身に妖気がみなぎってきます。
「『妖喰牙(ようしょくが)』を!早く!」
 この呪文はあすみちゃんはなかなか使わないけどたぶんあすみちゃんのもっている符術のなかでは一番妖怪に対して効果のあるものだと思います。あたりにある妖気を吸い取ってそれに応じた規模の破壊力が出る呪術です。僕の妖気を重ねれば戦車だって吹っ飛ばす威力はあると計算した上での選択です。
「あ、うん!」
 そういってウェストポーチの中に一つしかない青紫の札を引き出すと1枚しかないのに大量の言霊を放ち始めます。この呪術はかなり時間をかけなければならない複雑なものなのかもしれませんがあすみちゃんにかかればそんなに長くはなりません。
 緑の壁が直前にまで迫ったときに…
「急々如律令…目覚めよ、牙!」
 最後の1フレーズがあすみちゃんの口から飛び出しました。すると僕の纏っていた妖気が札に吸い込まれ、巨大な獣と化してその壁へと突進していきました。
ブニョン
「あれ…」
 しかし、まったく効果なしです。傷一つ付いていません。
「このぶよぶよって憑きものさんだったのですかぁ!?呪文に耐性あるって聞いてないですよぉ!」
「早く逃げましょう!ほら、あっちに扉が!!」
 何とか後ろにあった出入り口の鉄扉を見つけたふたりはそこを蹴破りました。
ガァン!

「あすみ!」
「お姉ちゃん!そんなところにいたんですかぁ!」
そこにはたくさんの女の人達のなかにかすみさんが裸で立っていて、隣には背の高い男の人と不潔そうな男の人が立っています。後ろの壁はガラガラという音を立てて崩れ、緑の壁が迫っています。
「何なのよあれ!」
かすみさんが答えを急かします。
「それはあすみが聞きたいですぅ!真沙羅君と一緒に攻撃しても全然きかないんですよ!」
 まぁ当然の返答だと思いましたのでとりあえず、僕のほうから現状を報告します。
「僕の魔力とあすみちゃんの魔力を併せても意味が無いです。とてつもない生命力と対魔力をもった生物だよ、これは…魔力を生命力に変換するようなタイプの『憑きもの』みたいだ…」
 かすみさんは膨れっ面で立っていましたが隣の背の高い男の人は真剣です。汚い男の人がぶつぶつ言った後、背の高い人がかすみさんに話を持ちかけると何か揉め始めました。しかし、その直後にその男の人の仲間が駆けつけてくれます。



 その人たちはもう人間というか世界の法則を超えた動きをしていました。5mもある天井まで一気に飛んでその壁を切り裂くとそこに埋まっている人を壁に取り込まれないうちに助け出したり、助けた人を放り投げると別の人が10mも離れたところの落下点まで一瞬で追いついてキャッチします。もう、かなりの速さで5人の人がガンガン仕事をしていくので正直何をやっているかがさっぱりでした。しかし、その作業は10分足らずで終わり、最後は残った壁をその背の高い男の人が吹き飛ばして終わりました。
 今はもうその汚い男の人に捕まっていた女の人たちを助け出した後、地上へと歩いていく道のりです。あの背の高い男の人、レイさんはその暗い雰囲気にも負けずに笑いを振りまいていました。僕にはできないようなことを…



 どんでん返しとでもいうのでしょうか、それはこの地下から脱出したときに起こりました。あすみちゃんのお母さんがそのレイさんを殴ったのです。しかも、そのレイという人は妖怪だというのです。僕はびっくりしました。レイさんからは一切妖気というものを感じなかったからです。結局はレイさんが話をつけて終わりました。しかし、かすみさんはレイさんと別れるのが嫌なのかレイさんが去った後、ずっとなき続けています。あすみちゃんはかすみさんの肩を抱いて一緒になって泣いています。もう、夏の夕日が落ちて一番星が光り始めました。


真沙羅:…というのがあすみちゃんと僕のやってきたことです
かすみ:…あの子、戦場で寝てたのね…こっちは眠いのを押して探してたのに…
真沙羅:あすみちゃん本人から問いただせばよかったのにどうしたんですか?
かすみ:あすみは『覚えてない』からよ。
真沙羅:………(あすみちゃんらしいな…)

〜〜〜Maker’s Made Another 2nd End〜〜〜

了>>
[ インデックスへ ]

Maker’s Made Another Story