Maker’s Made Another Story

Maker’s Made Another Story 3rd

〜レイの詠嘆〜

貴方と再会したのはあれから半年後、貴方の会社に僕が訪れた時。そのときの様子を教えます。隠すのも野暮なんで。
以前はレイというコードネームだと言っていましたが正直なところアレは本名です。だって、なれないコードネームでボロが出るよりは名前を名乗っておくほうが安全ですから。本名は樫井 零(かしい れい)。1月前の退魔師試験に合格し、こちらのトップの要望を伝えるついでに挨拶に来たわけです。隣には私のパートナーが。

意外と貴方の会社はしっかりとしていて…自営業臭い子会社を想像していたのですが十分「オフィス」な雰囲気があります。アポを受付に伝えるとすぐに社長室に通されましたが…いんでしょうか、こんなこと言って…
 部屋の奥には相変わらず妖艶な社長。つまり、那由さんがいて、私を見るなり…
「あ!あなた…積年の恨みぃぃぃぃぃ!!!!剥いだらぁ!!!!!!」
 ・・・正直勘弁して欲しかったもんなんだがやはり彼女達の間ではまだ解決とかができていなかったみたいだった。まぁ、自分が蒔いた種なんだが。社長はあの高速な動きで応接室のデスクなどの障害物を完全無視したように一気に間合いを詰めてきて、顔に正拳突きが飛んできた。だが、さすがにいまの僕にはどうってことの無いスピードで、予想通りだったので軽く手のひらで勢いをいなした。
「……ッ!」
 息が荒い社長はその1回で驚いたようだった。まぁ、普通の人間なら首から上が吹っ飛んでるのだろうけど。
「…落ち着いてくださいよ」
「落ち着けるわけ無いじゃない!あの子を…傷つけといて!」
 そうだろうな、あの台詞は今でも僕の中に残っている…傷跡は癒えていない。
「あの状況でちゃんと彼女が諦めてくれるようなシチュエーションに持っていけるとでも!?一触即発の状態で彼女を食事に誘うなんてできますかね?」
「ぐっ……」
 拳が掌から離れた。
「ついでに言いますけど、“あなたを信用してません”なんていうのは真っ赤な嘘です。言わなければ…もっと良かったのかも知れませんが…」
「……ちゃんと、どういう事をしたか分かってるのね。」
 先ほどとはうってかわってなだめるような口調で僕に語りかける社長。
「はい。」
「分かったわ。ごめんなさいね、殴ったりして。」
「お気になさらずに。」
 そんな感じであの一件での那由社長の怒りはなくなったんだが連れはそのことの事情は一切知らないのでただ首を傾げるだけだったが…

そうして、那由社長をなだめた後、本格的な話題に入って行ったわけで。

1 hour later・・・・・・・・・・

「…というわけで、貴方の会社と提携して事業を進めていこうという話です。」
 そう、僕は<陣風>フォローウィンドの代表としてこの西野怪物駆除株式会社に来たわけで。その内容というのは両方とも怪奇現象を追跡する組織であるためにある組織の足取りを掴んだわけです。そう、有名な「九頭竜(ヒュドラ)」。そのため、その捜査中にたびたび顔を合わせる貴方の会社と提携してそれを追おうという交渉に仲間と一緒になって二人で来ていたわけですが…
「え、つまり、私の会社を買収するっていう事?冗談じゃないわ。何処の馬の骨か知らないところの傘下に入るなんて御免よ!」
「いえ、ですから事業的な提携で…」
「同じことじゃない!あなたホリえもんの子供!?もうインサイダー取引とか何だかでこの会社を乗っ取る手筈は整ってるとか言うのでしょ!」
「え〜・・・・っと・・・話は最後まで…」
「聞く必要なしよ!出てって!」
「………」
「ボソボソ(…『インサイダー(違法取引)』なんてするはずねぇっつーの。っていうか、ホリえもんがやったのは『アウトタイム(時間外取引)』だけど、一応当時の法律に触れない取引なんだぞ。)」
「ブツブツ(感情的に物をいう人なのかな…たしかこの会社の社長と知り合いだったんじゃ?)」
「ヒソヒソ(危うくケシズミになるところだったほどの因縁関係だけど。さっきの見ただろ。)」
 そちらの社長の那由さんには手を焼いた。ちゃんと話は聞いてほしいものだよまったく。
「えぇ〜、株かなんかを使ってそういう風に利益を吸い上げるようなことはしませんよ。単純に私と貴方の部署で人材をレンタルし合うというシステムをとろうかと考えているんですが…」
「あら、どういう事?」
「つまりですね、私のところはそういう精凝器使いとか物理的怪奇現象とかが専門なんですがいかんせん魔術とか非科学的なものとかはダメなんで、お互いの専門家の相談を仰ぎ合って捜査をしていこうというわけなんですよ。分かりましたか?」
「ふぅん、で、金銭面的な方ではどうなの?タダで人は送れないわ。」
「私どもが貴方の部署から例えば…実戦のことも考えて退魔師を雇った場合、一人に付き賃金は時給3000円支払い、貴方の会社へのレンタル料として個別に時間5000円を支払わせていただきます。以下、研究者やオペレーターといったかたちでこのように支払います。」
「む…」
 それは当然魅力的な数字だったはず。人件費×1.5=利益という構図はよほど景気のいい企業でも自営業でもないと出ない数字である。正直こちらも採算度外視な設定で、退魔師一人で前線に居る僕達と同額だ。それだけ実力を認めているといってもいい。
「ふむ……」
「下には私達、精凝器行使者を雇うための値段がありまして…」
「………これ、フカシじゃないでしょうね。」
「ええ、勿論。私がそのことに関しては管理いたしますのでご安心を。」
「嘘。」
「え?」
「その若さでお金の管理できるほどの役職にいるわけないじゃない。」
「へへ…ばれましたね、でも………金が払われていないっていう苦情があれば僕に言って下さい。たとえ上であろうが僕には頭上がらないんで。」
「それはなぜ?」
「力は権力をも伴うってことですよ。」
「ふぅん…そういわれればそうだと思ってしまうのは何ででしょうね。」
「スーツの魔力ですよ…ところで…」
僕は立ち上がった。隣の同僚の彼女も同じく立ち上がったところをみても僕と同じことを察知しているようだ。僕はその時点で普通の人間ではなく、2ndZEROという殺戮者に変わった。
「この会社っていつも中に人じゃないやつがいるんですか?僕らが見た感じではもう12体ほど紛れ込んでますよ。」
「え!?」
 それは当然驚くだろう。今まで自分達が狩るべき物が会社の中に紛れ込んでいるとは。
「こちらも精凝器行使者の実力を見せておかないと、レンタルもしてもらえないですし。無料でこの会社の怪物をホイホイしましょうかね。」
「そうね、ちょっとぐらいセールスしておかないと。」
 呆気に取られている那由社長を尻目に僕達は扉の前に立つ。
「それで、最初の1匹目は…っと。」
 パートナーが精凝器を展開。大きな槌が現れた。
「……心配しないで。この扉は壊さないから。」
「ちょっ…ちょっと!!!」
 そういった後、彼女はフルスウィングで社長室のニスが輝く扉を叩いた。(那由社長の悲鳴と共に)
 すると扉は壊れず、向こう側にいた何かがその衝撃で吹き飛ばされた。実は「遠当て」というテクニックをつかい、衝撃を扉ではなく、その向こう側に収束させることでぶつけた対象を飛び越えた位置のものにダメージを与えたのだ。本来なら敵の内臓を筋肉の壁を無視して破壊する中国拳法の奥技なのだが。
「Bingo〜♪」
 扉を開けるとスーツに身を包んだ小男が一人、扉を開けて間もなく化け皮がはがれ、人ならざる姿が露呈した。
【ガアアアッ!】
 遮二無二突進してくることは計算内。槌をもったパートナーに向かって突っ込んできたがすぐに僕の剣の射程に入った。音も無く精凝器を展開、股の部分から脳天までを一気に刃走らせた、その魔物は肉体が二つに剥がれながら消滅した。
「なんで・・・!?」
 いかんせん魔術か何かに頼りすぎるのは退魔師の悪い傾向だと思う。まぁ、僕達が異常体質なわけなんだが、目に見えないものは魔術とか妖気とかそういった薄っぺらい物だけではないという自覚は持って欲しいと思う。
「まぁ、そういう感じで、戦力的に言えば保障できる人材を提供いたします。一応退魔師協会からの2次試験お墨付きをいただいている人を派遣いたしますよ。」
「安心してください、私達2人を含めた5人は満点近くで通過した人材ですから。」
「あ…そうなの。ならお願いしようかしら。」
 商談はいい感じだ。
「多分1時間ほどで終わりますが、この会社は初めてなもので。案内していただけませんかね?」
「あ、うん、いいわ。付いてきて。」
 そうして悪魔狩り会社内の悪魔狩りが始まったわけで。まったく色々な部署に点在して普通の人間とまぎれて生活しているのは厄介だ。切捨て御免で行くと回りに騒がれ、その度に那由社長となだめるという繰り返し、正直今までの仕事で一番気を使ったと思う。そんなこんなで最後の12匹目。丁度給湯室に一般人と一緒に居ることがイメージで分かった。
「なんなの!あなた」
「良いじゃないか、こんなこと君に取っちゃ結構あることじゃないか…」
 なんかアダルトな雰囲気だったが、こっちは仕事だ。容赦はしない。おくの女性に迫っていた男の後頭部を掴んだ。
「なんだ!?お前は!」
「仕事です。」
「どういった!?」
「化け物退治ですよ。御免なさいね。」
 そういって剣を腰から心臓を貫く形でそいつに突き刺した。一瞬で皮膚が崩れ、中のえも言われん存在が出てきた。
「グ…ナゼワカッタ…」
 人間の声帯の音ではないがしっかりと聞き取れる発音がその首から出てきた。
「あんたには普通の人間が微量ながら発しているはずの『生命のエネルギー』が出てないんだよ。おそらく隠さなければあまりにも多すぎるから怪物であることがバレる。でも、俺の目から見ればお前は死人同然だね。生きている証が出ていないからな。」
「クソ…オボエテオケ…ナカマガコロシニクルカラナ…」
「ああ、いつでも来い。あの世では閻魔さんに「次はまともな生き物として生まれさせてくれ」って頭下げておけよ。」
 そういってその化け物は原型から崩れて死滅した。
「ふぅ…大丈夫ですか………」
 いつものように笑顔を作って目の前に居る女性を見れば当然僕の思考回路はあの時のことを導き出す。
「ねぇ、終わった?」
 後ろには相棒と社長が来ていた。
「ああああああっ!!」
 当然の結果で僕と目の前の女の人の二人はほぼ同時に声を上げた。



しばらく経ってここは西野鰍フ屋上。隣には最後の1匹に絡まれていた赤い髪をした美しい女性が暖かいペットボトル入りの緑茶を持って佇んでいる。僕は金網にもたれかかって同じものが入っているボトルの蓋を開けている。2月だというのにこんなところに居るからボトルの中から白い煙がうっすらと伸びてくる。
「久しぶり、レイ…」
「はい、こちらこそ。樫井 零です。新人退魔師ですが、よろしくお願いします。」
「………」
「………」
 当然のことだが嫌な沈黙は避けられない。一応、連れには席を外してもらっている。
「覚えていてくれたんですね。あのときの事。」
「忘れられるわけないわ。あれだけあたしを振り回してくれたら。」
「……振り回したつもりは無いんですけど。」
「したわよ。嘘ついてまで私を引き込もうとしたじゃない。」
「…すみません。」
「…なんてね。怒ってなんか無いわ。あの時のことは今でも大事にしてる。」
「感謝されるようなことはした覚えないですよ?」
「十分よ。私を助けてくれたじゃない。」
「……そうでしたっけ?」
「ふふ、とぼけないで。」
「………」
「どうしたの?」
「ありがとう。」
「なっ、何よ突然!?」
「貴方をフッった挙句に半年も経ってからノコノコとまた会いに来たのに。不機嫌じゃないんですね。」
「正直カチンときてるんだけど。」
「やっぱり…」
「当然よ。」
「でも、嬉しそうですけど。」
「そうかな…やっぱり、もう会えないと思っていた人と再会できたし。」
「あんな事をしたら当然腹黒の悪人扱いだろうと思ってたんですがね。」
「まさか、そんなこと無いわ。いい人だと思う。今まで出会ってきた誰よりもね。」
「過大評価だと思いますけど。」
「性根から腐ってたら理性なんてあったもんじゃないわ。特に、あんな状況になったらね。」
「…鋭い…」
「でも、もうあのときみたいに貴方には…なんていうか…」
「『ときめきが無い』…ですか?」
「そうね。そんな感じ。」
「僕もですよ。」
「貴方は最初からでしょ。」
「はは…厳しい…」
「でも、貴方とはこれからも付きあっていきたいと思うわ。」
「そうですね……友人としてね。」
 そうしてお互いの連絡先を交換し合った。かすみさんは苦手のようで赤外線でアドレスのやり取りが出来ることを知らなかったようだ。
「へぇ…便利ぃ〜…」
「…いろんな意味で頑張りましょう。」
「ところで、貴方と一緒に居た栗色の髪の女の人って誰?」
「僕の彼女。」
「えっ!?」
「ユイファは…僕をこの世界に引き込んだ人です。以前は大分憎んでいましたけど…今では僕にとって…一番守るべき人です。」
「いいなぁ…」
「何がです?」
「いい、なんでもないわ。」
「多分、『私も守ってもらいたいな』なんて考えていた…違います?」
「………」
「ふふふ、図星。顔が赤いですよ。」
「ちょっとぉ!」
「さて、そろそろ終わる頃です。いつか、何かしらの形で会いましょう。」
「うん…またね。」
「……あなたは、守られていますよ。」
「へ?」
「…何でもないです。」
「気になるなぁ…」
「教えませんよ。」
「ひどい!」
「ははは…もうすぐ、再び会うでしょう。それまでしばらく待っててくださいね。」

 そうして会社を後にしました。なぜわざわざ彼女に会ったか、理由は単純です。ただ、彼女も守りたかっただけのことです。…若造がって?違いますよ。僕達で守りあう、そういった関係が本当にあなたに必要なんだとあの時に思いました。全てを背負ってたとうとするあなたを見て…

僕達の物語は始まったばかり。終わった物語は振り返らずに…

〜〜〜Another Story 3rd End〜〜〜

了>>
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