永遠の虜囚

-永遠の虜囚-

第一章

「あの魔物、しぶといったらありゃしない」

 西野かすみは悪態を付きながら走っていた。

 走りながら腕時計をちらりと見る。待ち合わせ時刻はとっくに過ぎている。

「おかげでこっちは遅刻じゃない。隆文さん、怒ってるかもな」

 公園の入り口で立ち止まり、違法駐車のバイクのバックミラーをコンパクト代わりに乱れた髪の毛を整える。

 飛び込みの魔物退治の依頼があったために、家に寄ってドレスアップする暇もなかったかすみは普段の仕事着のままだった。まるで男物のようなごついショートブーツにミニのタイトスカート、豊かな胸を包んだプロテクター代わりのジャケット、腰には霊刀を差して、手には皮のグローブ。

 どう考えてもこれからいそいそとデートに出かける女性の服装ではない。戦場にでかける女戦士といった所だ。

 少しでも見栄え良くしようと、スカートの裾を引っ張り、服のしわを伸ばした。

「匂わないかな?」

 退治してきた魔物の匂いが染みついていないか、クンクンと自分の服の匂いを嗅いでみる。

「困ったな、香水なんか持ち歩いてないし」

 ふと胸ポケットに異物感を感じた。中を探ると、香水の小瓶が出てきた。

 そんな小瓶など入れた覚えはない。

「なんで、こんなのが…」

 怪訝に思いながら、一緒に出てきた紙片を広げる。

”おネエちゃんへ、変な匂いをさせてると隆文サンにキラわれちゃうよ”

 紙片には丸まっちい変態少女文字でそう書かれていた。

「あの子ったら」

 読みながら、かすみは頬を緩ませた。

「何も言っていないのに、判るのねェ。あの子も女の子なんだ」

 かすみは、特になんと言うこともなく恋人ができたことを妹に言いそびれていた。

 自分では気づいていなかったが、豪田隆文と付き合いだしたこの一ヶ月の間に、かすみは確実に女として開花し、大人の女性としての色香を備え始めていた。

 あすみはそんな姉の変化を同姓として敏感に察知していたに違いない。

 豪田と出会ったのは2ヶ月前になる。

 そのころ巷を騒がせていた連続強姦事件の不可解な現場状況から魔物の仕業であるらしいことが判り、警察から西野怪物駆除株式会社に捜査協力の依頼が来たのだ。

 かすみとパートナーを組むことになったのは豪田隆文という若い刑事だった。

 犯人検挙を第一と考える隆文と、この世に存在する魔物の退治を最優先とするかすみとでは、その目的も事件に対する取り組み方もまるで違う。

 隆文が魔物の存在そのものを疑問視して、当初かすみをインチキ霊能者扱いしていたこともあって、パートナーを組んだ二人は始終衝突ばかりを繰り返していた。

 だが、事件を追う中で二人は次第にお互いに惹かれ合うものを感じ始め、事件解決後、プライベートな付き合いをぶっきらぼうに隆文に申し込まれたかすみは、意外にもそれを受け入れたのだった。

 このひと月に、二人は仕事の合間を縫ってデートを重ねた。

 二人の親密さは急速に密度を高めていた。

 事件の捜査中は常に殺気をはらみ、その行動も言葉も男まさりだったかすみが、デートの最中に意外な女性らしさを見せること発見して隆文は驚いたが、その実、そのことに最も驚いてたのは当のかすみ本人だった。

 隆文とデートする時は、まるで女子高生の頃に戻ったように、二人で共に体験する全てがみずみずしい喜びに満ちていた。

 世間の普通の恋人たちのように、共に食事をし、映画を見たり、買い物をしたりすることがこれほど心浮き立つ楽しいものであるとは、かすみは考えてもいなかった。

 ただ手をつないで歩くだけで心和んだ。

 そのひと時は、彼女を魔物退治に駆り立てて止まぬ悪夢をさえ忘れさせてくれた。

 彼の腕に掴まって歩いている時、このまま隆文と結婚して、子を産み、育て、平凡な主婦として一生を送る、そんな夢想さえ抱いた。

「ありがと、あすみ」

 かすみは香水の小瓶から強い匂いのする液体を掌にたらすと、首筋や腕にすりつけた。


第二章

「で、今度はどうしてアタシが待たされるわけ?」

 30分後、ふくれっ面で、待ち合わせ場所に指定された公園のベンチにかすみは座っていた。後ろでは噴水が水を吹き上げている。

 かすみの周りでは同じように待ち合わせをしていたカップルが、相手を見つけると手を振り合い、幸福そうに微笑んで次々と何処かへ去って行った。

 今では、ただかすみ一人だけがベンチに取り残されていた。

 日はもうとっくに暮れてしまい、辺りは夕暮れから漆黒の闇へと変わり始めている。

 かすみは腕を組んでベンチの上で体をそっくりかえらせた。

「そりゃ、あたしが待ち合わせに遅れたのは悪かったわよ。でも隆文まで遅れることないじゃないのよ」

 見上げると、夜空に一番星が光った。

 忍び寄ってきた夜気にぶるっと身を震わせ、かすみはベンチの上で膝を抱いた。

「隆文…さ…ん」

 待ち焦がれる名を夜空に呟く。

 刑事らしいがっしりとした隆文の体の温もりが恋しい。

 かすみは二人の唇が初めて触れ合った感触を思い出していた。

 永遠とも思えるほど長い時の間、二人の息は止まり、街の喧噪も何もかも全ての世界が消え失せていた。

 魔物の陵辱がこれまで無理矢理かすみに与えてきた、人外の法悦とは比べものにならない甘い悦びが、かすみの全身を痺れさせ、かすみの体の奥にじんと熱いものをみなぎらせた。

 だが、唇を離した時、かすみはお互いがそれ以上のものを欲しているのが判っていながら後ずさりしてしまった。

 怖かったのだ。

 これまで手がけた魔物退治の中で、かすみはその体を無数の魔物に陵辱されてきた。

 その汚れた体には、普通の恋人たちのように、思いを寄せる相手に抱いてもらえる資格などないのではないかという恐怖に捕らわれた。

 しかし、今晩、かすみは今まで受けた辱めを全て隆文に打ち明けるつもりだった。

 それでもなお彼がかすみを愛してくれるなら。

「判ってよ……隆文さん。でも、もし仕事で遅れたのなら、アタシの携帯に電話とかメールぐらい入れてくれたっていいんじゃない」

 膝に頭を載せたまま、携帯をポケットからごそごそと取り出す。

「あ…れ…」

 液晶ディスプレイには何の表示も無い。

「電…池切れ?」

 かすみは頭を抱えた。

「あー、あたしってなんて馬鹿なの。これじゃ連絡来る訳無いじゃない。もー最低」

 かすみは自分の頭を叩いた。

「そうだ、ひょっとしたら、事務所に電話入ってるかも。電話、電話」

 辺りを見回すと、ベンチからかなり離れた木陰に、闇に溶け込むように公衆電話のボックスが立っているのが見えた。

 一目散に走り寄ると、扉を開けるのももどかしげにテレホンカードをスロットに差し込む。受話器を耳に押し当ててながら、西野怪物株式会社の事務所兼自宅の番号を押す。

 かすみは眉をひそめた。

「何これ、故障?」

 受話器からは呼び出し音も、ダイアル音さえ聞こえない。

「もう、ぼろ電話」

 がちゃりと乱暴に切って、ふとベンチの方に目をやると、見覚えのある人影が辺りを見回しながら立っている。かすみには気づいていないようだった。

「隆文さん!」

 かすみはドアを押し開けようとした。

 だが、ドアはビクともしない。

「なっ、どうしたの」

 ドアを押す手がぬるりと滑った。その感触にかすみははっとした。

「これはっ!」

 いままで気づかなかったが、公衆電話ボックスの内側は一面ぬるりとした粘液に覆われていた。生臭いすえた匂いがボックス内に漂っている。

「しまった」

 かすみは自分のうかつさを罵った。

 香水の匂いで紛れていなければ見逃さなかったであろうに、ハンターなら間違えようのない魔物の匂いだ。

 闇を透かして見れば、木陰から、地面から、姿を現した無数の触手たちがかすみの閉じこめられている電話ボックスに向かって這い寄ってくる。

「くっ、こんな罠にひっかかるなんて」

 かすみは力一杯ドアを押したり引いたりするが、透明な扉は溶接でもされたように閉ざされたままだ。

 その間にも、電話ボックスを取り巻く触手たちは下の隙間からボックス内へ入り込んで来始めている。

「こいつら」

 腰の刀を抜き払い、中へ入り込んでくる触手に突き立てる。

 頭をつぶされた触手が紫色の粘液をまき散らしながらのたうつ。

 形勢はかすみに不利だった。

 電話ボックスの中は刀を振り回すだけの広さがないため、触手をまとめて薙払うことができない。かすみは一度に一本の触手を攻撃することしかできないのに、触手の方は一度に何十本もボックス内に侵入してくる。

 ボックスの中はあっと言うまに触手で溢れかえった。

「くっ!!」

 かすみは刀を振るうが、触手が次々と体にまとわりつく度にその動きは鈍くなっていく。

「だ、だめ…こ、このままじゃ、くうぅ」

 腕に絡み付いた触手がかすみの腕を締め上げ、刀にさえ触手が絡み付く。

「あっ!」

 触手がかすみの手から刀をもぎ取った。

「し…しまった…は、離せぇっ!」

 かすみは体に絡み付いた触手をかきむしるが、触手は締め付ける力を緩める気配もない。

「くうぅ、はうっ」

 タイトスカートの中に潜り込んだ触手がショーツの上からかすみの秘裂を撫で上げた。

 かすみの体がびくりと痙攣する。

「や、やめろぉ!」

 服の袖口から、襟口から触手が入り込んでくる。

 そのぬめぬめとした感触への嫌悪にかすみの体は震えた。

「やっ、やだっ…やめてっ、やめて、ふぐぅ」

 悲鳴を上げるかすみの口を触手がふさぐ。触手の先端からどろりとした液体が吐き出された。

「ふぐぅん、ふがぁ、うぅ…う」

 かすみはそれが何であるか知っていた。

 獲物の体を痺れさせて自由を奪うと同時に、官能中枢と全身の性感体を通常の何十倍にも敏感にする媚薬。それを一口でも呑んだが最後、どんな強靱な精神を持つ人間でさえ、官能を狂わされ、触手の与える淫靡な快楽を貪り続ける肉人形と成り果ててしまうのだ。

 毒液を飲み込むまいとかすみは必死に抵抗した。首を振ってなんとか触手をもぎ放そうとする。

 だが、これまで幾多の犠牲者を狂わせ、魔物への抵抗力を奪ってきた魔の液体は、容赦なく彼女の喉に流し込まれていく。

 隆文との今晩の秘め事を密かに期待していたかすみの肉体は、魔物の淫液にひとたまりもなく燃え上がった。

「けほっ、けほっ…あ、い…や…あ…あっん…」

 触手が引き抜かれた口から出る悲鳴はもはや悲鳴ではない。

 そこからこぼれ出るのは体の内側に燃え上がった淫虐の炎を示す熱い吐息だ。足の付け根と胸の先が何かに炎で炙られているように熱い。

「ふっ、ふぅう…は…」

 着衣の下に潜り込んだ触手がかすみの体の上を這い回る度に、バラ色に染まった唇からは官能のため息がつむぎ出される。

 触手はかすみの衣服を引き裂き、早くも桜色に染まり始めた彼女の裸身を剥き出しにしていく。

 決して小さくはない胸の膨らみの頂きでは、色づいた蕾がしっかりと硬く尖ってしまっていた。今晩、愛しい人の指で触れられるはずだったその蕾を触手が擦りあげるつどに、耐え難い快美感がかすみの背中を駆け抜ける。

「は…ぁ、あ…、んん」

 抑えきれない熱い吐息が、かすみの口からこぼれでる。

 腰の奥では、もって生まれた女としてのメカニズムが甘く疼き始めていた。


第三章

「…ん…ふ…んっ…ん…」

 魔液に痺れた舌が歯の隙間からちろちろと覗く。

 剥き出しにされたかすみの淫裂を触手が擦りあげるたびに、魔液で敏感になったかすみの部分が発する鮮烈な官能のざわめきがかすみの脊髄を駆け登っていく。硬く閉じ合わされていた肉の扉はゆっくりと着実に開き始めていた。

「ひぅ!!」

 肉芽に触れられた途端、かすみの体はびくりと反り返り、クレヴァスから透明な花蜜が滴り落ちた。

 かすみは触手のなすがままに両足を大きくM字型に割り開いてしまっていた。

 さらけだされてしまったクレヴァスの上で蠢く触手が敏感なスポットを捉えるたびに、全身を峻烈な快美感覚が貫く。

 時に激しく時に優しくかすみの部分を責め立てる触手の巧みな動きは、ぼうっと霧がかかり始めたかすみの心に、まるでベッドの上で愛しい人の愛撫を受けているような錯覚をもたらせた。

「あ…あっあ、ああ…あっあっ」

 吐息はすすり泣きに変わり、触手の愛撫に合わせて楽器のように高く低く切ないあえぎ声が唇からこぼれ出る。

(た、隆文さ…ん、そ、そこよ…ス、ステキ…ち、違う! これは隆文さんじゃない、魔物なのよ。かすみ、しっかり…し…て)

 必死に自分を叱咤するかすみの思いとは裏腹に、彼女の体は進んで触手の愛撫に身を任せようとする素振りさえ見せていた。

 触手の責めはクレヴァスから浅瀬に移っていた。

 触手は焦らすように入り口付近に緩く挿入しながら出入りを繰り返す。

「ふあっ…あっあ…あ」

 新たな刺激にかすみの精神は跳ね狂った。

 浅瀬を刺激され、かすみの体はより深い所への挿入の期待と渇望で打ち震えた。

「こ、こんな…あっあ…、あたし…だめ…あ、あっ、ああぁ!」

 上に下に、右に左に、ローリングを交えて浅突きを繰り返す触手の律動はかすみの体だけでなく、心までがんじがらめに絡め取っていく。

 かすみの心と体は官能の大波にさらわれ、否応なく頂きへと押し上げられていく。

「ひ…あ、ひ…ん…あ?」

 突然、かすみのヴァギナから触手が引き抜かれた。

「あ…あ…」

 アクメへの階段を断ち切られ、イクにイケないかすみの体は両手両足を拘束されたままびくびくと震える。

 絡み付いた触手は、毒液で敏感になったにかすみの体のスポットを責め立て、官能のパルスを絶えずかすみの快楽中枢へ注ぎ込み続けている。触手の与える刺激の一つ一つが、さざ波のようにかすみの体に広がり、反響し、女の部分で焦点を結ぶ。

 なのに、かすみの最も大事なその部分だけには触れないのだ。

 かすみは悟った。

 この魔物はかすみの屈従の言葉を待っているのだ。

(そ、そんな、馬鹿な)

 必死に残った理性をかき集め、狂った考えに抵抗しようとした。こんな低級の魔物にそんな知能があるわけがない。

 だが、かすみの肉体は至上の快楽へのラストスパートを待ち焦がれていた。

 熟れ爛れてぱっくりと口を開けたクレヴァスからはひっきりなしに花蜜が垂れ落ち、かすみの下半身は自ら触手をくわえ込もうとするかのように腰をくねらせている。

(だ、だめよ…、かすみ)

 あれを受け入れてしまっては取り返しがつかない、そう思いながらも、かすみの腰の奥深くでは、どろどろに熔けた女のメカニズムが、自分を深々と貫いてくれるたくましい男性を欲しているのが判る。本当なら、今晩、隆文を迎え入れるはずだったかすみの部分は、じゅくじゅくと果蜜を溢れさせながら、狂おしいまでに男のものを求めていた。たとえ、それが魔物の触手であっても、その煮えたぎる欲望を満たしてくれるなら。

 かすみはぎゅっと目をつぶった。

 このひと月の間の、数少ない隆文との逢瀬が瞼の裏に浮かんだ。それはかすみが生まれて初めて得た心安らぐ異性とのひと時だった。共に年老いていけるかも知れない男性との出会い。束の間夢見た、夫を送り迎えする平凡な主婦の生活。

 かすみはうっすらと目を開けた。

 涙で曇ったかすみの目に、ベンチに座り込んで彼女が現れるのを所在なげに待っている隆文の姿が、蜃気楼のように映った。

(た、隆文さん…あす…み、…ゆるし…)

「…お、お願い…、もう、駄目なの……、あたしの…あ…あそこに、い、入れて下さい…、あたしをイかせて」

 下肢をよじり、ぶるぶると全身を震わせながら、かすみは人に在らざる化け物に己のあさましい欲望を満たすことをねだった。

 そこには、白刃の下に次々と魔物を退治していった魔物ハンターの面影はもうない。

 そこにあるのはもはや人外魔境の淫欲の泥沼に溺れきった只の牝奴隷だった。

 かすみの両目から涙がぽろぽろとこぼれ出る。

 触手の中でもひときわ太い一本がかすみのクレヴァスに押しあてられた。

「あぁぁ」

 女の器官が期待にざわめく。

「は…はやく」

 思わず、屈従の言葉が口をついて出る。恋人にすら言ったことのないその言葉を発している自分に、かすみは堪らない恥ずかしさを覚えた。その感覚がさらにかすみの被虐感覚を加速する。

 触手が一気にずぶりとかすみの体内の一番深いところまで押し入られた。

「ひぃっ…くうぅ」

 内臓までも貫かれたような衝撃にかすみは悲鳴をあげた。

 膣深く突き込まれた触手がぐりぐりと子宮口を押し上げる。

 蜜襞を擦りながら出口まで引き戻される。

 そして、再び勢い良くかすみの肉体へ打ち込まれる。

「ふぐぅう」

 苦しげなうめき声があがる。

 野太い触手がかすみの敏感な肉襞を巻き込みながら、かすみの女芯を突きまくり、かき混ぜると紛れもない快感がかすみの脳天を突き抜ける。

 ざわめく肉襞は待ちに待った欲望のシャフトを迎え入れた歓喜に打ち震え、きゅうきゅうと触手を締め付ける。

 きらめく悦楽の火花がとびちり、全身にくすぶる懊脳の炎を燃えあがらせる。

「うっ…あっ…ああっ…」

 はやくも、かすみは鼻にかかった甘い嬌声を漏らしはじめていた。

 この世ならざる悦楽に屈して自ら魔物の思うがままによがり狂わされる事を選んだかすみにはもはやイクことしか残されていない。

 触手がかすみの蜜壺をかき回すつどに泡立つ花蜜が淫猥な音を立てる。

「ふあっ…ああっ、もう…もうっ…」

 触手のストロークのピッチがあがり、ついに、かすみの口から最後の時を伝える呻きが漏れ始めた。

「…だめ…あたし…いく…イきますぅ…ひぃ!」

 粘液まみれのかすみは顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。

「ひぃぁぁ…ああああぁ…」

 かすみの体がぐんと反り返った。

 引き締まった裸身をがくんがくんと揺らしながら、かすみは絶頂に達した。

 ひときわ深く突き入れられた触手の先端から、熱くたぎるマグマのような体液が噴き出してかすみの体内を埋め尽くしていく。

 子宮すらも埋め尽くしても、なお吹き出し続ける触手の体液は、かすみの蜜壺から逆流して溢れ出し、ひくつく花弁からどろどろと溶け落ちる。

 全身を反り返せていたかすみの体が、がっくりと崩れ落ちる。

 同時にかすみの体に巻き付いて、ねちねちとなぶり回していた無数の触手たちも、その先端から体液を吹き出た。かすみの体は触手の吐きかける粘液の中に埋め尽くされていった。


第四章

 ぶるぶると震えて体液を吐き尽くした魔物は再び動き始めた。

 かすみの媚肉に突き立てた触手をゆっくりと引き抜き、ずぶりと一気に押し込む。かすみの瞼がびくりと震える。

 力無く首を垂れ、糸の切れた操り人形のように触手に揺さぶられるだけだった、かすみの体が、再びくねり始めた。

「ふぅ、うぅ…あふぅ…」

 半ば気を失っていたかすみの口から、触手のピストン運動に合わせてよがり声が洩れ始める。触手の律動運動が次第に激しくなってきた。

「あっ…あっ…ああっ…あっ…」

 繰り返し肉棒を打ち込まれるかすみの体がかくかくと揺れ動く。最初のアクメから醒めきらない夢うつつの中でかすみは二度目の絶頂を目指して、オルガスムスの階段を再び駆け登り始めていた。

「あ、ああっ、ああぁ…あぁっ…」

「かすみ!」

 聞き覚えのある鋭い一喝が、絶頂に達する寸前のかすみを引き戻した。

 かすみは触手に下腹部を突き上げられ、カクカクと首を揺らしながら、焦点の定まらない目で声のしたほうに目を向けた。目が大きく見開かれる。

「た、隆文さん!」

 隆文が電話ボックスの扉を拳で殴りつけていた。

「かすみっ、待ってろ! 今助ける!」

「いやぁ、見ないでぇ…お願い、見ないで、あひぃ…ひぅ…はひぃ」

 全裸で粘液まみれのかすみは、顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。

 ヴァギナに野太い触手を突き入れられ、魔物の思うがままによがり狂わされている姿を隆文にだけは見られたくなかった。

 そんなかすみの思いを知ってか知らずか、触手は結合部を見せつけるかのように、かすみの両足を寄り大きく開き、ガラスにかすみの体を押しつけた。触手はかすみの器官に強烈なストロークを打ち込み、淫らなよがり声を上げさせる。

「あっ…ああ…いやっ…あ、あぁ…」

 自らのあさましい姿を隆文に見せつけられる羞恥心にかすみは腰を振りながら絶望的な悲鳴を上げる。。

「いやぁぁ…、見ないでぇえ…ひぃぁぁ…ああああぁ!」

 隆文の目の前で、かすみは二度目の絶頂を迎えた。

 だが、触手はその動きをやめる気配もない。

 続けざまに打ち込まれる強力なストロークに、かすみは再び強烈なアクメの波に飲み込まれた。

 息を付く暇もなく、連続したアクメの大波がかすみの体をさらっていく。

 ガラス一枚で隔てたられた向こう側に愛しい人がいる。平凡な幸せに満ちた世界が。それを自分が手に入れることは決して許されないことをかすみは思い知らされた。どす黒い絶望がかすみの心に広がっていく。

 イきっぱなしになったかすみを閉じこめた電話ボックスは、ゆらゆらと揺れながら地面に沈み込んでいく。


第五章

 暗闇の中で生気無く見開かれた瞳は何も映してはいない。

 もはや、どれだけの間、繰り返し体を貫かれ続けたか、どれだけ絶頂を迎えさせられたか、かすみは判らなかった。

 ただ、電話ボックスの壁にもたれて息をしているだけだった。

 キイと電話ボックスの扉が開く音がした。

 たくましい男の腕がかすみの体を抱え上げた。

(やっと…来てくれたのね)

 なつかしく暖かい相手の胸に身を任せながら、かすみは電話ボックスの外へ運び出された。

 冷たい地面のかすみを横たえた相手は、愛しげにかすみの髪を掻き上げ、唇を重ねてきた。

 涸れ果てていたと思っていた涙がじわりと溢れ出てくる。

 おずおずと優しく差し入れられた相手の舌にかすみは進んで舌を絡めていった。

 かすみの口から甘い吐息が漏れた。

 男の無骨な手が、すらりとのびた長い脚にそって、膝のあたりから撫で上げてゆき、やがて秘められた部分へと到達する。愛しい男性の指がスリットをなぞるように動く

「隆文さん、あたし…ああ…」

 囁くように呟く。

 秘裂で指を蠢かせながら、もう片方の手で男は見事な隆起を見せる豊かな双丘をくたくたにもみほぐす。男の指の下で弾力に富む白い膨らみが、たぷたぷと揺れ動く。

 別の指先がかすみの敏感な肉襞をまさぐる。

「…あぅ…ん…ああっ…」

 白い咽元を見せながら、かすみは切なげな泣き声を漏らし続ける。

 男の指の動きに合わせるように、太股が揺れ、腰がうねる。

 男の身体が、ゆっくりとかすみの上に被いかぶさってきた。

 その重みが心地よく感じられる。かすみは自ら腰を開いて彼の体を迎え入れる。

 男の切っ先がかすみのクレヴァスに押し当てられた。

(ああ…、あたしたち、とうとう…一つになれるのね)

 長大なぺニスがゆっくりとかすみの体に沈み始める。

「ああ…」

 感極まったようにあえぎ声を漏らす。

 触手によって無理な拡張を強いられ、広がりきっていたかすみの肉孔にさえ収まりきれない極太の肉茎がずっぷり、すっぷりとかすみの肉路に押し込まれていく。

「ぅあっ…おっき…い…」

 その圧倒的な量感にかすみの口から苦しげな息が漏れる。だが、その痛みさえ、恋しい相手と一つに結ばれた悦びに今は甘い疼きに感じられる。

「…隆文さん」

 かすみは両手を男の肩に廻した。

「えっ」

 そのざらりとした感触に違和感を覚えた。

 うつろな瞳が、のしかかった男の顔に焦点を結ぶにつれて、どす黒い恐怖がかすみの心に広がる。

「いやああああぁぁぁ!」

 かすみの上にのしかかっている相手は人間ではなかった。

 巨大なトカゲの姿をした魔物だった。

 無機質な緑の目がかすみを見つめていた。

 ヘビのようにちろちろと動く赤い舌が覗き出る。

「い、いやあ、いやぁ」

 かすみは悲鳴を上げながら、トカゲ男を突き離そうと、両手を乱打する。

 だが、並の男性を優に越える体躯をもつトカゲは女の細腕に小揺るぎもしない。

 触手によって徹底的に責め抜かれた今のかすみは、あまりにも無力だった。

 のどの奥であざ笑うような音を立てると、トカゲは腰をゆるゆると動かし始めた。

 トカゲの赤黒い肉茎が、未だ触手らによってもたらされたアクメの余韻を残すかすみの美肉をさらに深く抉り削っていく。

「ひぁ…ああっ…いやあっ、ぁひ…いやあ」

 かすみは手放しで泣きじゃくった。

 心とは裏腹に彼女の肉体は、新たなエクスタシーを求めてトカゲのぺニスをしっとりと咥え込み、奥へと導く。

「ひ…ひぃ、…ひいっ」

 触手の時とは比べものにならない、極太の肉棒を打ち込まれる苦痛にかすみは悲鳴を上げた。

「ひいぃっ、ひいぃっ、ふ、んぐ、ふぐ」

 悲鳴を上げ続けるかすみの口に別のトカゲの剛直が押し込まれた。

「ふご、ふぐぅ…んぐぅぅう」

 大きく押し開かれたかすみの両足を掴んで向き合った二匹のトカゲは、その肉棒を容赦なくかすみの口と秘唇に突き入れた。


 喉を突き破るほど口中に突き込まれたペニスが引き抜かれると、もう一匹がかすみの肉穴に極太のシャフトを打ち込む、それが引き抜かれると、再びかすみの口にペニスがねじ込まれる。まるで餅でもつくようにタイミングを合わせて交互にかすみを陵辱する。

 かすみは悲鳴を上げることさえできなかった。

(…ああ、駄目っ…このままじゃ…もう…)

 かすみの心がぼろぼろと音を立てて崩れて行く

 たくましい剛直が敏感な粘膜をえぐるたび、かすみの官能中枢には極彩色の火花が弾けまわる。

 何度目かさえ忘れ果てた絶頂が目の前まできていた。

「ふぐ、おぐぅうう、うぐああぁ、ふああああぁ!」

 腰を大きくうねらせ、トカゲ男のペニスをきつく咥えこみながら、かすみは一段と激烈なクライマックスを迎えた。

 トカゲが天に向かって吠え声を挙げる。

 灼熱のマグマのような粘液が喉と子宮へぶちまけられる。

 何度も、何度も噴火は続いた。

「うっ、ぐ、げほ、げほっ」

 むせかえりながらかすみは喉に注がれたねっとりとした粘液を飲み干していく。


最終章

 びくびくとアクメの余韻に体を震わせて横たわるかすみの両手をトカゲが掴んで引き上げた。

 かすみは抵抗の気配もみせず、ぐったりとなすがままに吊り上げられた。

 口からも秘苑からも陵辱の残滓を垂れ流しながら、かすみはYの字型に腕を広げられ、まるで勝者がトロフィーを掲げるように、トカゲ男の手によって空中に吊し上げられた。

 ぼんやりと桃色のもやがかかった意識でかすみは力無く辺りを見回した。

 そこは、地底とも荒野とも判別のつかぬ異形の空間だった。

 どこまで続いているのか判らぬその空間は、あたり一面が魔物で埋め尽くされていた。

 その全てに微かに見覚えがあった。

 全てかすみが今まで退治してきた魔物たちだった。

 一面を埋め尽くす亡霊たちは、これから始まる性の狂宴への悦び、自分たちを滅した敵への復讐の喜びに不気味な笑い声を挙げた。

「い、いやああああああ」

 かすみの悲鳴が、誰も聞く者のない空間に響きわたった。


−完−

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