闇の裏側にありし者

闇に巣喰う者共よ。お前達の時は終わった。
闇に巣喰う者共よ。お前達の主は依然閉じこもったままだ。
闇に巣喰う者共よ。せめてお前達の主が悲しむ事の無いように。
闇に巣喰う者共よ。お前達を主より先に葬ってやろう。





夜のとばりが落ちるころ、西に移動する二つの影が恐ろしい程の速さで西へと向かっていた。

その姿があまりに異様だったため、これを目撃した人たちは恐れおののいた。

ある者は未確認の生物が夜間に移動していたと言い、またある者は神々に対する冒涜を続ける人間を戒める神の使者が現れたと言った。

その影の数は姿がぼやけているため殆ど判別できなかったが、動体視力の優れたるものの目には、朧げに二つ。しかし、正確には判断できなかったと言う。

だが、その影に静かに付いて行くある一つの、何かもわからないものがあることに気付く者はなかった。
その『影』すらもそれに気がつく事はなかったという。











暖かな午後の日差しをたたえながら、太陽ははや、西方に向かう自ら定めた旅路に足を進めようとしていた。
その陽光を反射した海面は時には黄金色に、また時には銀灰色に色を変え、その煌めく光は過ぎゆく春を惜しみ、また巡り来る夏を心待ちにしているかのように輝いていた。

浜辺に押し寄せる波は力強く、春のうすい青と夏の深い藍色と真っ白な泡をたたえながら再び海へ戻って行く。晩春と初夏の入り交じったなんとも美しい瀬戸の海の情景である。

しかし、浜辺からほど近い広島市の駅周辺地域と港湾地域を結ぶ主幹道路には、そのような初夏の趣に一瞥をも向ける者はなく、ただただ、南へ北へ。駅に向かう車もあれば、港湾部に向かうトラックありといった具合だ。
真新しい舗装を施された道路を踏みしめて、自動車は人間の都合に合わせて東奔西走し続けている。

歩道には人影はなく、聞こえるのは行き交う自動車の騒音のみ。アスファルトで綺麗に舗装された地面は太陽の熱で温められ、うっすらと水蒸気をゆらゆらと吐き出していた。

その歩道の傍にある電柱の影に初夏の海の碧さによく映える、正に「緋色」と呼べる味わいのある朱いノースリーブのワンピースを着た女性が一人佇んでいた。

彼女は自分の居場所の少し手前で立ち止まったターゲットと接触するべく機会を伺っているのだ。しかし、電柱とは犬が散歩中に用を足したり、酔っ払いが嘔吐したり立ち小便をしたりするには格好の場所で、衛生的とは口がさけても言えない場所。

今彼女が置かれている状況には美しい浜辺や海の風景も、照付ける初夏の太陽の日差しも、次第に弱まっていくさわやかな風も何の望みももたらしてはくれなかった。


この筆舌しがたい劣悪な環境に耐えながら、ほんの少し手前で立ち止まってしまったターゲットに接触するチャンスをうかがわなければならない。
葉子は、自分の立てた「ラブコメ出会い演出作戦」が最初から失敗気味だった事に今更ながら気がついた。

「今更後悔したって始まらないわ。こうなったらなんとしても成功させて、ギャフンと言わせるんだから。」
一体誰をギャフンと言わせるのか。また、今どき(そして以前にも)ギャフンと言う人間はいないとは思うが。

とにかく、彼女のそういった考えをよそに、ターゲットである蓮城聡は再び葉子が隠れている電柱の方に歩き始めた。

先程と比べて、ややゆっくりしたペースで聡が電柱に近づいて来る。

手入れをしているようには見えない中途半端な長髪と、似合っているとは口が裂けても言えないサングラス。そしてジーンズにTシャツという、仕事をするための服装とは到底思えない格好をした、やや太り気味の冴えない20代半ばのこの男が口ずさんでいる歌のようなものが葉子の耳に流れこんできた。




柳の木の枝のようにすらりとした
百合の花のようにたおやかな
水蓮の花のように清らかな
古代の神人の血を受け継ぐ者よ
貴女の目は何を見、貴女の心は何を望む?




この最後の一説を歌った瞬間、聡の目は間違いなく葉子を見つめていた。その時の事は葉子には後になっても思い出す事ができなかった。




聡と視線を交した瞬間、葉子は息をするのも忘れる程の衝撃が体を駆け抜ける感覚を憶えた。

あまりにも恐ろしく、しかし優しく、どこか懐かしい感じすらする不思議な感覚。

それは、かつてハリーの元で修業していた時期に一度感じた事のある感覚だったが、葉子はそれがいつ、どのような時だったのか全く思い出す事ができない。

まるで影のみが存在する霧に包まれた世界にでも迷いこんだようで、葉子にはもはや何も見えなかった。

あるのはただ不思議な感覚と、周囲の霧。そして、遠くかすかに赤い光が朧げに見るのみだった。

やがてその赤い光がだんだん自分に近づいて来ている事に気がついた。

赤い光が近づくにつれ、まるで霧が晴れたようにあたくが明るくなり、様々な幻のようなものが見るようになった。さながら幻燈に浮かび上がる魔法映像のようである。

あるものは彼女自身の過去の記憶だったり、あるものは伝え聞いた伝承の絵物語がまるで眼前で展開されているように見える。

そして、その中でも炎に包まれた場所を、赤ん坊を抱いて逃げ回っている幼い女の子の姿が葉子の目の前に浮かび上がった。

古代神語で言う所の「アルセノアの神秘の炎」つまり、太陽の炎の使い手である葉子にとっても、その女の子の周囲を囲む炎は恐ろしいものであった。

女の子の周りを囲む炎は、あたりが真っ暗であるにも拘わらず、それよりも暗い色をしている。古代の魔術書において記述されている「暗黒の業火」とはこの事であろう。

少しでも触れようものなら、触れた者はその炎の熱を感じる間も無く、魂まで焼き尽くされ、未来永劫癒されることはないであろう。例え幻とはいえ、これ以上見続けるのはあまりに恐ろしい光景だ。

だが、近づいて来る赤い光があまりに強いため、やがてそれらも全く見えなくなった。

光が近づくにつれ、それが実は強い光を放ちながら虚空を漂う、瞼の無い一つの目である事が分かった。

その目の奥には恐るべき殺気と、痛々しい程の悲しみと、あふれんばかりの慈愛が入り交じって存在し、葉子をまっすぐに見つめていた。

その目はまるで何かを語りかけ、何かを聞きだそうとしているようにも思えたが、葉子にはその目が意図するものが何だったのか、ついに知ることができなかったのである。

あまりにも長い時間が経過していくのを葉子は感じたが、実際にはほんの数秒。それこそ、水面に飛び出した魚が再び水の中へ消えていく時間程しか経ってはいない。

葉子は意識が次第に混濁し、徐々に遠のいて行くのを感じながら最後には深い愛情に包まれて行くのを感じた。





「・・・・さん。・・・・・く・・・・よ・・・・・・さん。藤倉葉子さん!!」
ハッと葉子は我に返った。間髪入れず、激しい動悸と息苦しさに襲われ、胸を押さえて座りこんだ。

周囲の視界は再び開け、道路を行き交う自動車の喧騒が再び葉子の耳に飛び込んで来る。

「大丈夫ですか?」
心配そうな声をかける聡に、葉子は「大丈夫。」と答えるよりも先に質問した。

「なんで・・・・私の・・・・名前・・・・・を・・・・?」
喘ぎながらなんとか口から出たのがこの言葉だった。

聡はいくぶん怪訝な顔をしたが、まるで嘲るような笑みをその表情に浮かべながら言った。

「あんたの表層意識を読み取るくらいの事は、わしにとっては造作ないことだ・・・・」
まるで全てを見透かしているかのような声色だった。

この言葉を聞いて、葉子は戦慄した。

ひょっとするとこの男は、最初から自分に気がついていたのではないか?

いや、もっと言えば、広島に来て、自分を訪ねて来ることをも見通していたのではないか?

もし、この憶測が正しいなら、この男は「悟り」と「時読み」を心得ている事になる。

予想だにしなかった展開に、背筋に寒いものを感じた葉子は、思わずその場で身構えた。厳しい視線で聡を睨みつける。

そんな葉子の様子を見て、聡は驚いて取り繕った。

「うそうそっ!ジョーダンだって!!名前はあんたの腕についとる認識章に書いとるじゃん。知られとぉないなら取っとりんさいや。」

聡のその様子を見て、葉子は先程見つめられた時に感じた、妙な感覚の事も、聡が口ずさんでいた歌の事もすっかり失念してしまった。

「ああ、これを見たのか・・・・」
しかし、新たな疑問が浮上し、再び聡に質問する。

「じゃあ、どうして私に気がついたのですか?まるで、最初から私があそこにいるのを知ってるみたいに。」
先程より息が整ったので、やや厳しい口調で聞いた。この質問に対し、聡は冷や汗をかきながら答える。

「いや・・・・あのね。こげなほっそい電柱の影に隠れれるのは小学生のガキっぽか、発育不全の中学生くらいのもんよ。あんた、自分ではじぇんじぇん気がついてないんじゃろうが、あっちから見たら、あんたのその豊満なパイパイと、やたら誘惑的な尻が隠れきらずに見えとったんじゃけえ。あれで見つけん方がおかしいって。」
半分は呆れたような、半分は疲れたような感じでこう返事が返ってきた。

そう言われて葉子は耳まで赤くなった。自分としては唯一隠れる事のできる場所に止む終えず、しかし、確実に隠れたつもりだったのだ。

これでは「ラブコメ出会い演出作戦」など、何の役にも立たない。もっとも、仮に葉子の姿を聡が見る事がなくても、その作戦が成功したかは疑問だ。

第一、道の曲がり角でならともかく、いきなり電柱の影から女の子が飛び出したら・・・・・怪しい事この上ない。

「さて、そんじゃ今度はわしの質問にも答えてもらいたいもんじゃね。こんな所で何をしていたのか?ついでに言えば、なんでそんな胸元が開いたせくし〜な格好しとるのかね?スカートも短いし。」
最初から予想していたこの質問に対し、(ただし後半は除く)葉子はやや事務的な口調で答えた。

「私は『西野怪物駆除株式会社』の者です。今回はあなたを調査するために来ました。理由はお分かりでしょう?あなたが倒して来た魔物達はそれこそ、実際に世間に知られたら国連クラスの機関が動き出す程のレベルのものだったんですから。」

「所属はその腕章見りゃぁわかるが。はて?なんか、あんたらみとーな職業の人に尋問されるような悪さをしたかいね?そりゃぁ、この間ツレとメシ喰いに行った時に、あんにが水取りに行った隙に、あれの皿から肉を一切れくすねたが。どうでもええが、今のはわしの質問に半分しか答えとりゃぁせんと思うが。」

聡がこう言った時、葉子は周囲から殺気が漂ってくるのを感じた。ただ、それは実体から発されるものではなく、魔法や術によって使役されているものが放つものであった。

もっとも、姿をすぐにさらすようなヘマはしない。どうやらかなり高等な術で動かされているようだ。

「まぁええか。じゃが、そんなくだらん事じゃわざわざ来んわな。すまんね。この所忙しゅうて最近の記憶は前後がわやじゃし、その前の記憶はおぼつかん。こりゃ、思い出すにはたっぷりのメシと、十分な睡眠が必要じゃね。」
笑いながらこう言いはしたものの、妙な気配を感じ取ったのか、聡の目は笑ってはいなかった。

自分の後方が気になるのか、チラッと後ろを見やった。

「それなら、私はそのお客さんの相手をしていますから、時間の許す限りその食事と睡眠とやらを取ってください。もっとも、そんな時間があればの話ですけど。」

そう言いながら葉子は、聡の後ろからいくつかの影が近づいて来るのを認めた。











やや西に傾いた午後の太陽の柔らかな陽光は広島市の中心地にほど近い場所にある雑居ビルの無機質な灰色の外壁を美しく輝く銀のように染めた。しかし、その美しい一瞬の煌めきに目を留める者などない。

そのビルの一角にある「西野怪物駆除株式会社 中国支社」の応接室では、依然重い沈黙が続いていた。
この沈黙の中では、過ぎゆく春を惜しむ事も、やがて来るであろう、心躍る夏の事も忘れ去られてしまったかのようである。

暖かな初夏の午後の陽光さえも、その場に居た者の心を暖めてはくれなかった。

来客用のソファには本社から派遣された西野かすみ、あすみ姉妹が、テーブルをはさんでその向かいのソファには中国支社の支社長であり、かつては二人の教官だった松井が座っている。その松井からもたらされた情報を反芻しながら姉妹は押し黙っている。

松井もまた、言うべき言葉も見つからない様子で下を向いていた。が、最初に口火を切ったのはその松井だった。

「それにしても。」
こう一言述べたあと、一呼吸置いて松井は言葉を続けた。

「本社に応援を要請するよりも先に君たちクラスの退魔師をこちらによこすとはね。社長もこの件の事は随分気にしてるみたいだね。」

「ええ。かあ・・・・・社長はこちらからの調査結果を見た後、しばらく考え込んでましたから。」

「そうか・・・・・・・う〜ん。実はこれから本社に報告しなきゃならない事があるんだ。と言うのも、私らは本社の意向を無視してこちらで密かに例のメフィスト2の調査をしてたんだよ。」
少々困ったような顔をしてこう言い放った。

「えっ!?そうなんですか(かぁ)!?」
あすみとかすみは声をそろえて言った。まさにステレオである。

「うん。その後のドタバタで報告が遅れちゃったから、ひょっとしなくても懲罰委員会ものだな・・・・・」

「それでどんな事がわかったんですかぁ?」
この緊迫した話の流れを見事にぶった切る口調であすみが口をはさんだ。松井とかすみの額に冷や汗が流れる。

「う・・・うん。実は、例の蓮城聡があの魔物を倒した当日に襲われていたカップルってのがうちの調査員だったんだよ。うちの中ではトップレベルの若手なんだが、少々天狗になっててね。自分達で何とかするって言い出して聞かないんだよ。」
冷や汗を拭いながら松井が言った。

「それを押しとどめるのが支社長の仕事じゃないですか。」
厳しい口調でかすみが言った。

「いや〜面目ない。ただ今回は連中にちょっとお灸をすえる意味で行かせたんだ。二人とも結構な使い手だから二人で行けば最低でも逃げて来るぐらいはできるだろうと思ってね。もっとも、実際にはそうは行きそうにはなかったが。」
こう告げる松井の口調は、まるで尋問を受けているその辺のオッサンのようだ。

「ふむふむ・・・・逃げて来れると思っていた・・と。」
いつの間にかあすみがメモ帳を取り出して松井とかすみのやりとりをメモしている。

「それでまあ、連中もバカではないから一応ICレコーダーを持って行ってたんだけど、そいつに奇妙な声って言うのか音って言うのか・・・・・とにかく妙な音が入っていたんだ。いや、らしいんだ。」
そう言って松井はICレコーダーを取り出した。
身長は優に2mを越え、また決して痩せているとは言い難い松井が取り出したICレコーダーがあまりに小さいので、あすみとかすみは笑い出しそうなのを寸での所でこらえた。
松井は、笑いを必死で押し殺している二人を見て首を傾げながらICレコーダーを再生した。

《あんた。なんぼカップルが羨ましいけぇ言うてもひがんじゃいけんわいね。》
レコーダーからは以前本社で聞いた聡の言葉が入っていた。この事自体はさしたる問題はないように思われる。
ICレコーダーからは続けて音声が流れ続けた。

《あんたら。はよぉ逃げんさい!》
この言葉の部分であすみが突然再生を止めてしまった。

「ちょっと!あんたいきなり何すんのよっ!?」
まるで姉妹喧嘩のような口調でかすみがあすみに言う。

「今、何か聞こえたんですぅ。気味の悪い声だけど、なんだか優しいような・・・・」
驚いてあすみはしどろもどろにこう答えた。

「声?あたしには何も聞こえなかったけど。」
不思議そうな顔をしてかすみが言った。

「そうなんだ。聞こえる者と聞こえない者がいるようなんだよ。で、私には聞こえない。」
松井はこう言いながらも首をかしげる。不可解極まりないと言いたげだ。

「あたしにも聞こえない・・・・・・でも、あすみには聞こえるの?」

「なんだかわからない声が聞こえたんですぅ。」
まるで悪戯がバレてしまった子供のような顔であすみは答えた。

「で、なんて言ってたの?」
かすみの顔には、職務というより好奇心が勝っているような表情が浮かんでいた。いかにも興味津々と言った顔つきである。

「それがよく分からないんですぅ。聞いたこともない言葉で喋ってるみたいですぅ。」
申し訳なさそうにあすみがこう言うと、かすみも残念そうな表情を浮かべた。

「う〜ん。あすみちゃんに分からないなら、古代神語学者にでも聞いてもらわないとわからないだろうなぁ・・・・・」
あすみはこのような性格なので、周囲からかなりおバカなお嬢ちゃんのように思われているが、実際にはIQはかなり高く、現に彼女は、英語やフランス語等、52カ国の言語に精通している。

「なんだったっけ・・・・・?いぇが・・・・?」

「『イェガキゲ・ソタニ・マメラヨエ』だ。例の二人に逆行催眠を施して聞きだしたんだ。」

「なんて意味なんだろう・・・・」
暫く三人で考え込んでいた。しばしの沈黙の後、突然あすみが立ち上がって二人を驚かせた。

「そうだっ!葉子おねえちゃんに教えてあげなきゃっ!!」

「そうねっ!何か最初に考えていたよりもかなりヤバそうな雰囲気だし。」

「葉子って・・・・あの『藤倉 葉子』が来てるの!?それはまた・・・・なんともはや・・・・」
松井には言うべき言葉が見つからなかった。応援要請もなしにそれ程の使い手が来るとは考えてもいなかったのである。

「藤倉さんを引っ張り出して来るなんて・・・・・ひょっとすると、私には想像も付かないような大きな『何か』があるのかもしれない。そして、社長はその事に気がついているのかもしれないね。」
誰に言うともなく松井はつぶやいた。

「そうだっ!携帯っ!!」
そう言ってかすみが自分の携帯電話を取り出した。そしてっ!!!

パッパパパ〜♪

何と、あすみの横に置いてあるバッグから着信メロディーが流れ始めたのである。

「なんで葉子さんの携帯に電話してるのにあんたのが鳴るのよ?」
あすみがかすみに聞いた。

「ああっ!これ葉子お姉ちゃんのバッグですぅ。あすみが間違えて持って来ちゃいましたぁ〜」
かすみと松井は豪快にコケた。コケ芸一筋十数年のベテランお笑い芸人でもこれほど見事なコケ方はできないだろう。

「持ってくるあんたもあんただけど、気がつかない葉子さんも葉子さんだわ・・・・・」
そう言って、かすみは今日何度目かのため息をついた。

「・・・・・・別行動で動いていたって事は、後で会う時間を決めていたんだろ?だったら、それまで彼女の無事を信じて待つしかないな・・・・」
そう言いながら、松井はゆっくり起き上がった。
「そうですね・・・・・」


再び応接室には長い沈黙が訪れた。隣室では事務所の電話が鳴り響いていた。この電話の主がもたらした不可解な情報によって自体は思わぬ方向に進もうとしている事に気付いているものはなかった。
1-4 葉子接触す 了
闇の裏側にありし者

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