闇裏外伝
彼女の視界はハッキリとしてはいなかったが、それでも「標的」を見つけるのには問題は無かった。
時々風景にノイズが乗ったような感覚があるが、そんな事は彼女にとってどうでも良かった。
濃くたちこめた霧の中を進んで行くと、ボンヤリと無数の人影が見える。
その人影達は彼女を見ると、呵責の無い攻撃を一斉に彼女に浴びせてきた。
だが、それもほんの一瞬の事だ。
彼女が攻撃されたと知覚するよりも早く、その人影達はその場から消滅するのだから。
彼女の心の中は悲しみで打ちひしがれていた。
彼女の心の中は怒りの焔が燃え盛っていた。
しかし、彼女の「思い」など、今の状況には何の関係もありはしない。
もはや、あるのは全ての消滅。それ以外はありえなかった。
隔壁で閉鎖された向こう側に空間がある事を感知した彼女は、その隔壁を破壊した。
そして、中で横たわっている肉の塊のような生き物と、それを囲んでいる研究者達を一瞬で消滅させた。
おぼろげな記憶の中で、その肉の塊のようなものが彼女に笑いかけたような気がした。
混濁した彼女の意識の中に一筋の光が入り込んできた。
次の瞬間には、彼女も含めその場にあったものは全て跡形もなく消えた。
それはまるで、そんなものは最初からそこに存在すらしていなかったかのようであった。





新緑の眩しさと、その葉の間から差し込む木漏れ日が、遠のきかけていた聡の意識を再び呼び起こした。
葉子の運転するアルピナB12の助手席で聡は気を失いかけていたのである。
手結洲(ていす)駅を出発したこの巨大な高級車は、それでなくても威圧感満点の車体を交通法規など無いかのような速度で疾走していた。
最初こそ駅前の曲がりくねった道、それも、聡でなくても「よく入れたものだ。」と思うような狭い裏道を猛スピードで走り脱けていた。
それはまるで、暴走を始めたジェットコースターのようであった。
郊外に入った今は比較的長い直線道路を気持ち良く走っている。
広い助手席でゆっくりと背伸びをした聡は、恐ろしい速度で過ぎ去っていく周囲の景色をボンヤリとながめていた。
さんさんと降り注ぐ初夏の太陽の光を受け、道路の両わきに覆いかぶさるようにして植えられた木々は、その若い緑の葉を美しく輝かせている。
その木々の足元にある花壇の花々は赤に黄金色に咲き乱れ、少し先の川べりには子供たちが水遊びに興じているのが見える。
清々しく、そしてのどかな午前の遅い時間の風景である。

「味わい深い風情だな・・・・・・・」

アクセルを更に踏み込む葉子の横で、聡がそうポツリとつぶやいた。
聡にとって、この時期は格別な思いがあるのだ。
それは、聡ではない聡と同じ人物の、ある出会いと別れの季節が近づいているからである。
一年で最も命の萌え出す、夏という季節の終わりに出会った、死神に魅入られた若い女性と、死の国から来訪を拒まれた男の甘く切ない出会いと冷たく悲しい別れが訪れた季節である。
まだ蝉の鳴き出さないこの時期においてさえ、聡の心にはその事がハッキリと思い出されるのである。
そのまだ鳴き出さぬ蝉の最後の一匹が鳴くのをやめた時、彼らの運命も定まったと言ってよかろう。

そんな思いを抱いている聡の視界に、何やらこの美しい風景には少々不釣り合いな建造物が小さく見え始めた。
青々とした美しい空に向かって、一本の黒い柱が建っている。そんな印象だ。
その姿はまるで、天空から地上へ何らかの戒めを与えたかのようにさえ見える。
これは、その事を物語るモニュメントか何かなのだろうか。
あるいは、そのあたりに住んでいた生き物の何かの記念碑のようにも見えなくもない。
また、別の見方をすればその周囲にある生きもの達全てのために、あらかじめ用意された墓石のようにも見える。
生命の息吹を感じる事のできるこの時期の郊外にあって、その建物はその全てを。命も、光も、全てを吸収する、あるいは拒絶するかのように黒々とそびえ立っている。
どのような雨風にも揺るぐ事無く、またどのような外的な衝撃にもびくともしないといった様子でそびえ立つそれこそ、「西野怪物駆除株式会社」の本社ビルであった。
葉子の愛車が恐ろしい速度で疾走しているのは、周囲を飛ぶように流れていく風景を見れば一目瞭然である。
にもかかわらず、最初に見たときとくらべて、この建造物が近づいているようには見えない。
とても遠い場所に、しかしとてつもなく大きなものが建っているのだろう。
その建物がジワリジワリと近づいてくる様子を、聡は暗然と眺めるより他はなかった。
やがてその建物が目の前にハッキリと見え始めた。
それは、巨大なモノリスのようで、業界以外の人からも「デカい墓石のようだ」と表されているのが妙に納得できる。
外壁の全てが御影石でコーティングされた無機質な長方形の建造物は、墓碑銘の無い墓石のように見えるのだ。
その姿が異様なのも去ることながら、よくもまあこんな悪趣味なビルに巨額の金を投じたものだと聡は感心半分呆れ半分であった。
一つため息をついた聡の視線の端で、葉子が何か小さなボタンを押すような操作がうつる。
「まさか、それは無いだろう。」と思いつつ、確認せずにはいられなかった。

「葉子ちゃん?まさかとは思うけど、今の・・・・・」

「トラクション・コントロールの解除です。後付けだったから、思ったよりお金かかっちゃって♪」

ニコニコとした笑顔で答える葉子を脇に見ながら、聡は自分が「まさか」と思っていたそれが的中してしまった事を知った。
トラクション・コントロールとは、簡単に言えば、タイヤが空転するのを防ぐための装置である。
例えば、水たまりや雪道などでタイヤが空転して立ち往生するのを防ぐ役割を担っている。
聡の14年落ちの愛車にも生意気にこの装置は付いていて、ランプが点灯するたびに車がスリップしているのを防いでくれているのだろうと思っていた。
それをわざわざオフにするという事は、意図的にタイヤを空転させようとしているのだ。
タイヤを空転させる運転時の技と言えば・・・・・
聡がそんな事を考えている間にも、葉子はハンドルを一瞬左に切り、すかさず右に切り返した。
すると、この5mを優に越える車体が左に楽々と振られるではないか。
葉子はハンドルを再び左へ切り、そのまま固定した。
車体は凄まじいスリップ音を立てながら左方向へスライドし、門衛の詰め所の左ハンドル車用の窓口の僅か5cmのあたりでピタリと停止した。
葉子の運転技術や恐るべし。後部座席のあすみはひっくり返ってしまっていた。
美しいお御足をななめ上方向に投げ出し、その先に視線を進めるとうっすらとシミの跡が見える白いパンツが見える。
聡との電車での行為の跡がありありと見えるその姿は、見ていてどこか倒錯的で、それでいて男の劣情をそそるには十二分であった。
ところで、あすみのパンツ丸見えになったので、聡としては少し儲けた気分である。
なぜなら、確かに聡は電車内であすみとの行為に及んだが、下着をその目で確認するには至っていなかったのだ。
ミラー越しにじっとあすみを見つめる聡の耳に、重苦しい声がいやいやながら入ってくる。

「相変わらずムチャクチャしやがるな。」

どこか怠惰で、酷く無愛想な声が門衛詰め所の中から聞こえてきた。その声に聡は聞き覚えがある。
程なくその男が詰め所の中に居るのが聡にも見えた。
身長は優に2mを越え、その隆々とした筋肉から想像するに体重もかなりのヘヴィ級だ。
彼が上半身のみがマッチョという、はたから見たら面白すぎる体形をしているというなら話は別だが。
水色がかったYシャツに海を思わせる深い青いネクタイという、会社指定の守衛部の制服に身を包んだその男は、ここの主任であるジャック・リビングストンである。
なんでも、かつてアメリカの海兵隊に所属し、中佐にまで昇り詰めたが、基地の司令官だった中将と反目して除隊となったらしい。
以降、どのようなコネクションがあったのかは知らないが、今は『西野(株)』のコワモテ名物守衛さんなのである。

「こんにちは。ジャックさん。社長に頼まれた人を案内してきたんです。」

葉子が何喰わぬ顔をしてそういうので、ジャックは少し困った顔をして助手席の方に視線を向け、そして少なからず驚いた。
先程聡がジャックの声を聞いて、聞き覚えのある声だと思ったのと同様に、ジャックの方も聡の顔に見覚えがあった。
それは、海兵隊に入隊する以前の呪わしい過去の記憶の中にあったのだ。
思わず声を出しそうになったジャックを聡は目で制し、唇に人さし指を当ててウィンクした。
冷静に戻ったジャックは一呼吸おいて

「嬢ちゃん。パンツが丸見えだぜ。」

と、後部座席でひっくり返っているあすみの方に声をかけた。

「え・・・?はや?はややっ!!」

ジャックに指摘されるまで全く気が付いてなかったのだろう。
あすみは大急ぎで姿勢を正すと、真っ赤になってスカートを押さえ、バツが悪いのか少し上目遣いでジャックの方を見ている。
ジャックの方はやれやれといった表情を浮かべてから

「こいつが例の男とやらか・・・・・・。どこの馬の骨とも分からん輩が役に立つとも思えんがな。」

そう毒づいた。

「えぇ〜。聡お兄ちゃんはすっごいんですよぉ〜。あすみのターゲットだった痴漢さんを簡単に捕まえちゃったんですからぁ。」

彼女としては一生懸命アピールしているつもりなのだろうが、はたで聞いている分にはイマイチ真剣味というか、信ぴょう性にかける口調である。

「どうだかな。ま、一介の守衛の俺にゃ関係無い話だ。」

そう言って、ジャックは葉子に通門証を発行した。
葉子はその通門証をダッシュボードの上に放り投げると、再びホイールスピンをさせて愛車を発車させた。
弾丸のような速度で走り去って行く黒いアルピナを、ジャックは複雑な表情でずっと見つめていた。





「・・・・・んぅっ!!」

薄明るい部屋の中で若い女性の嗚咽とも嬌声ともつかない声が響いている。
周囲をコンクリートで包まれた窓の無い部屋に、まるでBGMのように淫靡な水音が鳴り続けていた。
わずかにまたたく光の輪の中に、見ほれる程美しい女性の肢体が浮かび上がる。
もし神というものが本当に存在し、その神が美というものを愛でる心を持ちあわせているならば、彼女のような体を持った者を自ら作り出し、そして永遠に手元に止め置いて飽きる事無く愛でるであろう。
その美しさを主張するかのように隆起したバスト。
表面を流水で磨き上げた石のようにしなやかな曲線をもったウェスト。
甘く、官能的としか言い様のない緩やかなヒップラインと、それに連なる脚線美。
そして、うっすらと浮かび上がる影でしか視認する事ができないにもかかわらず、ため息が出るような美しい顔立ち。
この世の中に真に『完璧』と言えるものは決してないが、彼女の容姿はそれに限りなく近いと言えるのではないだろうか。
その女性の背後と顔付近には、それぞれ別の人物達の影が映し出されていた。
彼女の背後から尻を抱えるようにして、怒張した逸物で彼女を貫いている男は、長身でやや細身。
しかし、その細い体は鋼のように鍛え上げられた筋肉が、まるで鎧のように包み込んでいる。
強さと速さを兼ねそろえた、理想的な体躯と言えるだろう。
彼女の口内をその逸物で犯し続けている男は、もう一人と比べると幾分背が低く、体もそれ程引き締まっているわけではない。
しかし、その双眸に宿る淀んだ光は、正常な感覚を持った人間であれば卒倒する『何か』が潜んでいる。
異常としか言い様のないこの淫靡な行為に耽っている人たちから、少し離れた場所にもう一人の人物が座っている。
地味目の色のスーツを、そうとは見えない程見事に着こなしている。
まさに『大人の着こなし』というやつである。
派手さの無い、しかし粋なその着こなしは、世のチョイ悪オヤジに憧れている男どもの手本と言っても過言では無いだろう。

「・・・・何をしても構いませんが、膣中には絶対に挿入れないでくださいよ。」

上品で若くもない、しかしハリのある声で奥にいるその男が言った。

「よぉくわかってるよ社長さん。そんな事した日にゃ、俺達も上からえらい目にあわされる。それに、挿入れようったって、こんなもんが刺さってちゃな。」

やや重みのある、なんとも形容しがたい声音で、西野かすみの尻を抱え込んでいる男が答えた。
男が言うように、かすみのヴァギナには何か太いパイプのような管が刺さっており、それが後方にある妙な機械につながっている。
どうやら、その太いパイプからかすみの胎内の羊水を機械に吸い上げているようだ。

「それにしてもすげぇな。まさか、4年前のあの女が今ここに居るとはねぇ。」

先程の男のものとよく似た若い男の声だ。
軽薄そうな印象を受けるが、その声音の奥には、何か計り知れないものがある。
どちらも一般的な男性ではない事はこの状況でも良くわかるだろう。
かすみが『エンジェルブラッシュ』の潜入調査に失敗し、『ブラッディ・ドラゴン』の手に落ちてからどれくらい経つのだろうか。
すでに性の麻薬の虜となってしまっているかすみは、シンジケートの人間のいい慰み者になっていた。
このような状態であるにもかかわらず、彼女はかろうじて自我を保っている。
それは、彼女が驚異的な精神の持ち主である事を証明すると同時に、女性としては言いようの無い不幸でもあると言えた。
救いようの無い状況において自分を見失う事がないということは、ある意味自分の精神を防御する術を持たないのと同じことであるからだ。

「しかしまあ、あんな機械で原液がまともな『エンジェルブラッシュ』に変わるとはな。最初に考えた奴はホントに偉ぇもんだ。」

下卑た笑い浮かべて、かすみのアナルを犯している男が彼女の美しい尻を突き上げながらそう言った。
先のミッションにおいて、かすみはある化け物と交戦する事となった。
その際、化け物はかすみの胎内にある液体を流し込んだ。
それこそが『エンジェルブラッシュ』の原液であった。

「あの機械は薬を保管する為の道具ですよ。エンジェルブラッシュそのものは女性の羊水と混じることでようやく男女ともに使用可能な状態になるのですが、なにせ保存しておくのが難しいんでね。」

社長と呼ばれた男が説明するかのように答えた。

「ま、どっちにしてもたいしたもんだ。それにしても、尻とはいえ良く締まりやがるな。俺ぁもう出そうだぜ。」

かすみの尻を抱えて貫いている男がそう言うと、

「俺もだよ兄貴。こいつ・・・・相当うめぇ!」

かすみに自分の逸物を銜えさせていた男もそう言う。
二人はかすみの口内とアナルをそれぞれ犯していたのである。

「へへへ・・・。こいつスゲェぜ。こんなに激しくて丁寧なフェラなんて、俺ぁ初めてだ。」

男はそう言いながら、かすみの頭を押さえてかすみの行為を調整している。
単に精を放つ事を目的としての行為ではない。
かすみの心が未だに折れていない事を知って、完全に屈服させるつもりなのだ。

「こっちもスゴイなこりゃ・・・。締まり過ぎだぜ。変態姉ちゃん。」

アナルを犯していた男がそう言いながら、腰をグラインドさせる。

「うぅ〜〜〜・・・」

かすみはうめくように嬌声を一声上げると、自ら激しく腰を振り、舌で口内の逸物をしごきあげた。
自我も意識も失いそうになりながらも、男達の欲望を自分で受け止めることに屈折した快感を得ているのである。

「んぐ・・・ぶぷ・・・・・ん・・・・」

嗚咽の様な声をかすみがもらす。
彼女の美しい瞳から一筋の雫がこぼれたが、男達はそんな事は一切気にしなかった。
彼らはもはや、己の欲望を満たす事に集中していたのである。
それは、彼女を嬲るという事も含まれていた。
前と後ろの両方から逸物をねじ込まれ、本来であれば苦痛以外の何者でも無いはずである。
しかし、『原液』がもたらす効果なのか、かすみの頭にはもはや、ずっと深い場所から訪れる苦痛とは別の感覚しか知覚することはできなかった。

「うおおお!で・・・出る!!」

先に果てたのはアナルを犯していた男であった。
人並みよりやや大きめの逸物を苦も無く飲み込んでいるかすみのアナルの最奥で自らの欲望の全てを吐きだした。

「兄貴。それ何回目だよ。まるで童貞みたいじゃねぇか。」

かすみの口内を犯していた男が、からかうようにアナルを犯していた男に声をかけた。

「しかたねぇだろ。こいつの締まりが良すぎるんだからよ。」

アナルを犯している男はそう言い返したが、その口調にはどこか自嘲の念もあるように聞こえる。

「ぢゃ、次は俺がそっちをもらうぜ。その前に・・・・・。」

もう一人の男は、かすみの動きを制していた両手を放した。
それを確認したかのように、かすみは自ら顔をグラインドさせて男の逸物をしごきあげ始める。

「お・・・・・おっ・・・・い・・・・いくぞ・・・・」

男はそう言うと、むりやりかすみの顔を引き寄せて逸物を奥へとねじこんだ。

「全部飲めよ!」

言うが早いか、怒張した男の欲望をかすみの口内にぶちまけた。
それと同時にかすみのヴァギナから愛液が漏れ出してくる。
それを全て吸い上げるかのように機械は唸りを上げた。

「・・・ん・・・・っんぐ・・・・ん・・・・ん・・・・」

男の熱い劣情の証を咽の奥に流し込みながら、かすみ自身も快感に打ち震えた。

「おおっ・・・・!こっちもまた・・・・締まる・・・・」

アナルに逸物を突き立てたままの男が小さくつぶやいた。
放精が終わっていなかったので、まだ自身はかすみの中のままだったのだ。
勢いがおさまりつつあったが、かすみの小刻みな締めつけによって、再び男の逸物は怒張を始めた。

「おいおい兄貴。そりゃぁねぇぜ。今度は俺にもそっちを味あわせてくれよ。」

かすみの口から逸物を抜きながら弟がそう声をかけた。

「わかってるさ。それにしても、こいつぁいいぜ。いつまでたっても飽きがこねぇ。社長さん。まだ構わねぇんだろ?」

アナルを犯していた男が、本当に今果てたばかりなのかと思うほどはつらつとした様子で、部屋の奥の椅子に腰掛けている男に声をかけた。

「ええ。構いませんよ。死なない程度であれば、膣内に挿入れない限り何度でも。」

社長は酷く落ち着いた口調で、そう言った。

「そいつぁありがたい。にしても、なんで膣内がダメなんですか?」

かすみに自らの逸物の後始末をさせながらもう一人の男が聞いた。

「御存知の通り、その薬は膣内に精液を受ける事で解毒されてしまうんですよ。その娘には、まだまだ次の仔を産んでもらわなければならないんでねぇ。」

そう言って、男は壁にかかっているモニターに目をやった。

「そうそう。それだ。初めて違う格好の化け物が産まれたってやつだよな。」

再び怒張した逸物を今度はかすみのアヌスに挿入しながら弟がそう言った。

「んむぅ・・・・」

挿入されたかすみは、恍惚の表情を浮かべながらため息をもらしている。

「なかなかいい声で鳴くじゃねぇか姉ちゃん。ところで社長。そいつは今までのと格好以外はどう違うんで?」

かすみの尻を抱え込んで突き上げながら、弟が社長に質問した。

「この落とし仔は、そのお嬢さんが産んでくれたんですがね。今までの仔とは違い、普通の女性を仮腹に生殖能力のある大型の魔獣を生み出せるという研究結果が出ているんですよ。通常なら小さい方しか産まれないので困っていましたが、いやはや。オニノメなるものが、こんな副産物を産んでくれるとはねぇ。どれだけ感謝してもし足りないくらいですよ。」

男は依然モニターを見つめたままだ。
そのモニターには、一見すると男根のような形をした奇妙な生き物がずっと映っていた。

「うっ・・・・あっ・・・ん・・・・・」

男の腰の動きに合わせてかすみがうめく。
そのうめき声が嬌声に変わり、やがて大きな快楽の嬌声に変わるのにそれほど時間はかからない。
社長はそんな事は一切気かける事はなく、画面上の怪物を嬉しそうに見つめていた。
そんな社長の姿を横目に見ながら、かすみの意識は再び甘い快楽の中へと消えていった。





西野怪物駆除株式会社の本社の地下には、とても広い駐車スペースがある。
地下1階は主にここを訪れる来客用なのだが、地下2階は全て社の関係者専用となっている。
重役には専用の駐車スペースが確保されているが、一般社員やその他の関係者の場合は基本的に空いているスペースへ駐車する事になっていた。
それでも一応全社員分のスペースは確保されてはいるが。
その地下2階の駐車場を葉子が駐車できるスペースを求めて動き回っている間、聡はずっと驚きっぱなしであった。
何せ、右を見ても左を見ても、カーマニアであれば垂涎の極みとしか言い様のない名車ばかりが駐車されているのだから。
数々の名車を排出するイタリアの名門、フェラーリ。
そのフェラーリがまさに「跳ね馬」の純血種としてリリースした550マラネロ。
伝統と格式を誇るイギリスにおいて、その名声を欲しいままにする高級スポーツカー、ベントレー。
数あるベントレーシリーズの中でも最強と言われるパワーバンドを誇るバカ長2枚ドアの怪物コンチネンタルR。
フェラーリに不満を持ち、自らが信じる道を進んだイタリア人の魂の車ランボルギーニ。
そのランボルギーニから名車LP400の系譜を正当に受け継ぐべく開発された悪魔。その名もディアブロ。
ハンドリングに拘り続けた男が立ち上げ、その拘りから生まれた世界のライトウェイトスポーツ、ロータス。
彼らが1980年代に放った傑作中の傑作と呼ばれるエスプリ・ターボ。
この他にも、そこらにある名車博物館などと呼ばれる虚栄心と欺瞞に満ちた展示など、ここを見た人間からすればまったく無意味としか思えない。
そんな近代の名車が一同に会しているかのようである。

「・・・ほぇ〜・・・・」

口が達者な聡からですら、こんな程度の言葉しか吐き出すことが出来ない。
ここにある車を全部売るだけで、一生遊んで暮らすには十二分であると言っても過言ではなかった。
まるでおもちゃ売り場を見ている子供のように周囲を見回す聡を見ながら、葉子は駐車できそうなスペースを探して駐車場内をぐるぐると回った。
何せこの車体である。駐車すると一言で言っても一仕事だ。
普通に停車するだけでもちょっとしたトラックくらいのスペースが必要になる。
町中ではコインパークに入れるのもほぼ不可能なため苦労はたえない。
そのまま周り続けていた葉子が駐車できそうなスペースを見つけたのとほぼ同時に、聡もまたあるものを発見して度肝を抜かれた。
それはグループB、つまりWRC(世界ラリー選手権)のトップカテゴリへと出場するべくホモロゲーションを受けた特別な車だった。
ホモロゲーションとは、平たく言えば市販用に製造された車を、一定の規格にそってレース用に改造するというものなのだが、普通そういったスペシャルカーと呼ばれるものは製造台数、販売台数共に極端に少ない。
聡の目に今映っているのは、ドイツのスポーツカーの名門、ポルシェ社がその命運を掛けて作り上げた911を、先のカテゴリーに出場させるべく改造された1982年911SCスペシャル。
聡が知る限り、その車は世界にたったの20台しか無いものだった。

「・・・・世界中に20台しか無い車が、日本にあっても不思議じゃないけど・・・・・不思議じゃないけど・・・・・」

あまりの「当たり前でない」出来事に「当たり前」の言葉しか発する事ができない聡を更なる衝撃が襲った。
それは、1960年代にGTタイトルを欲しいままにしていたフェラーリに対抗して作られた車だった。
現在では数億円もする激レアスポーツカーとも言えるそれは、聡が「真にして究極のスポーツカー」として昼に夜に夢想するほどの車だった。
その名はシェルビィ・コブラ・デイトナ・スーパークーペ。聡にとってその名はあまりにも偉大で遠い存在だった。

(・・・・信じられん・・・・・一体何が起こっとるんじゃ・・・・・ドコ?ココ・・・・)

半ば混乱した状態で葉子の車を降りた聡は、自分の目で本物を目にする事は無いと思っていたそのスーパーカーをまじまじと見つめていた。

「ああ。そっちのポルシェは友紀ちゃんって子の車です。かっこいいですよね。」

明るい声で葉子が言った。

「いや、かっこえぇとかそんな次元の話ぢゃないんじゃが・・・・で、こっちのコブラは?」

冷や汗をかきつつ聡が聞いた。

「そっちの車は麗花ちゃんのですぅ。友紀ちゃんに対抗して買ったらしいですぅ。」

(そ・・・・そんな下らん理由で・・・・・)

普通に勤めていたのでは、おそらく一生購入する事はできないだろうと思われるようなスーパーカーをそんな子供じみた理由で購入できるほど、退魔業界というのは実入りのいい職業なのだろうか。
それにしても、もし聡がその立場で、それほど車マニアというわけでもないのであれば、もっと違ったお金の使い方をするだろう。

「その二人ってかなりの車ヲタクなん?」

聞かずにはいられなかった。葉子に関しては運転中の会話などから、かなりのカーマニアである事は想像に難くない。
しかし、今聡の目の前にある二台の車は、その葉子の所有する車を遥かに凌駕するシロモノなのだ。

「?別にそういう感じはないですけど?単にかっこよかったからじゃないですか。」

葉子の素っ気無い答えに聡は慄然とした。
単にかっこいいという理由だけでこのレベルの車を手に入れる事ができるほど退魔士というのは儲かるらしい。

「でも、二人ともよくこの車修理に出してますぅ。なかなかエンジンがかからなかったり、走り出しの時によく壊れるって言ってましたぁ。」

「それは壊れてるんじゃなくて壊してるの!このテの車ってのはインジェクションが機械式だからエンジンかけるのにコツがあるし、クラッチも半クラッチじゃなくてアイドリングミートでないとエンジンが壊れるの!!」

言ってて情けなくなると思いつつ聡がそう言った。

「にしても、こんな車をそんな理由でひょいと買えるほど退魔士ってのは儲かるんか・・・・」

聡がそう一人ごこちで呟いた。

「友紀ちゃんも麗花ちゃん退魔士じゃないですよ。情報科と総務部にいる一般社員です。」

聡にとって、止めの一言と言っても過言ではなかった。

(ふ・・・普通の社員が・・・・・給与体系どうかしとるんと違うか・・・・)

世の理不尽さに聡は涙が出そうだったが、この後、他でもないこの場所で押し付けられる面倒ごとの方が遥かに涙を誘うものである事を、聡は少なからず知っていた。
その面倒ごとに首を突っ込むことで、物事がさらに面倒な方向に進み、やがては自分の首をやんわりと締めることになろう事を、聡は既に承知の上であった。
闇裏外伝

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