闇裏外伝 |
強力な『敵』が目の前にいる。それは分かった。 しかし、その『敵』が誰なのか。どのような姿をしているのかは彼女には分からなかった。 ただ、どこか懐かしいような気がする。 彼女は『敵』を知っている。そして、おそらくその『敵』は彼女にとってごく身近な人だろう。 しかし、今の彼女にとってそれは意味を成さない。 彼女は命じられた通り『敵』を倒すだけ。 最後の記憶にあるのは、倒れ行く『敵』の姿。 その『敵』の目から涙が溢れている。 彼女は知った。『敵』の正体を。 彼女は知った。『敵』の最期を。 それは、彼女にとって最愛の人物。 力なく地面に崩れ落ちた『敵』の姿を見て、彼女はようやく正気に戻った。 『敵』は・・・・・・・彼女の姉だった。 西野怪物駆除株式会社の社長室は、案外シンプルである。 重役会議室も兼ねるこの部屋は、社長の机の他にゆったりと座れるソファと小さめの簡素な、しかし高級な木材を使用したテーブルが置かれている。 社長用の机はかなり大きく、その上には液晶ディスプレイが置かれている。 通常は社内の各部署との連絡用に使用されているのだが、普段は社長がのほほんとテレビを見るために使用されているようだ。 ちなみに、この液晶ディスプレイは社長用に特注で製作されたものであり、どの部署にあるどの備品よりも値段が張るらしい。 全ての壁に大きな窓があり、初夏の陽光をふんだんに室内に取り込んでいる。 ライトグレーのカーテンや入口付近の大きめの観葉植物、社長の席の近くには美しいシンビジウムの花が飾ってある。 壁にはウッド素材を思わせるような色に染められた和紙を壁紙に使い、天井と床には大谷石を使用して和モダンな印象を与える。 照明に関しては直接照明ではなく、柔らかく優しい光を放つ間接照明を使用してゆったりとした雰囲気を演出している。 一流企業の社長室にふさわしい威厳と、機能性やコミュニケーション性、さらには落ち着きと明るさも兼ね備えた居住性の高い部屋と言える。 社長用の机から見て右側の奥に、シンプルではあるが広めの机が置いてある。 美しい木目を強調するような重厚な印象をあたえる社長の机とは対照的に、化粧板を表面に張り巡らせたような明るい色調の机の上は、使用者の几帳面な性格を現すかのように整理整頓が行き届いている。 一見すると少なそうに見える資料や書類は、不要なものはきちんと片付け、必要なものだけが机の上に並んでいる証拠である。 この机の主は宗方洋子、社長の西野那由が全幅の信頼を寄せる筆頭秘書にして、西野(株)内における『四天王』に数えられる実力者である。 社長の那由は別格として、社長秘書兼社長警護員でもある宗方洋子。 守衛部兼警備部隊隊長でもあるジャック・リビングストン。 嘱託ではあるが、その高い実力は内外にまで響き渡っている藤倉葉子。 現在はある事情で一線を退いているものの、未だその力は衰えぬ周藤涼子。 社内の人間の中ではこの四人を指して、畏敬の念をこめて『四天王』と呼んでいるのだ。 洋子は、その四人の中でももっとも年長で社長である那由との付きあいも長い。 あまり知られてはいないが、その昔まだ未熟だった那由を事あるごとに叱責していた、彼女にとって今でも頭の上がらない人物らしい。 1/4ほどイギリス系の血がまざっていて、色白な細面に美しい金髪としなやかな肢体は『金髪美人』という陳腐な言葉をあえて絵に描いてみたような姿である。 やや細目の、つりあがった目が小粋なデザインの眼鏡のレンズの向こうに見える。 その瞳の色は琥珀色で、奥に宿る光は静かな小波のような、それでいて打ち寄せる強波のような心の動きを奥底に閉じこめているかのようであった。 シンプルで飾り気の無いダークグレーのスーツが、逆に彼女の内面からにじみ出る強さと美しさを強調している。 ふいに、それまで事務処理にともなう小さな物音に包まれていた社長室に、アラームのような音が響き渡る。 社長の机に備え付けてある内線通話器の音だ。 粋なデザインの室内に響く音としては、あまりに機械的で無粋な音のようにも聞こえるが、那由はこの音が何故か気に入っている。 それまで頬杖をついて液晶パネルを見つめていた那由が、机の右上の隅にある操作盤のボタンを押すと、液晶パネルの鮮明な画像に美しい若い女性の顔が映った。藤倉葉子である。 「葉子です。ご用命の人物を連れてきたのですが・・・・」 そう話す葉子の後ろから、他の女子社員達の声が聞こえてくる。皆一様に騒いでいるようだ。 周囲を一閃するような鋭い声がしたのは、おそらく美智子・ブローバックの声だろう。 次いで何か渇いたような音が飛んで来たのは、おそらく頬に平手打ちを食らわせたに違いなかった。 少し遠くの方から、困惑したような声で「やめてくださいませ・・・」と言っているのが聞こえる。 これは多分、守漣雀麗花の声だろう。 さらに違う場所から、子供が泣きじゃくるような声がした。 ほぼ間違いなく佐藤智恵莉のものだ。 最期に呆れるほどにぶっきらぼうな口調で何かを叫ぶ声が聞こえ、次いで硬いものを叩くか蹴るかしたような重く鈍い音が聞こえた。 その暫くあと、何か重たいものが床に崩れ落ちて転がるような音がしたのを最期に、モニターで見えない場所の喧騒は終息したようだった。 暫くジト目でそちらの方を見ていた葉子が、モニターに向き直って 「ホントにコレ、要りますか・・・・・?」 と聞いてきた。 それまでの物音や葉子のその様子で、その場で何が起こっていたのかはおおよその察しがつく。 「ええ。一応持って来てもらえるかしら。」 ごく普通に、鷹揚のない声で那由がそういうと、葉子はひとつ頷きモニターを消した。 そのまま待つこと5分ほどだろうか。廊下を何か重たい荷物を引きずっているかのような物音がだんだんと近づいて来る。 やがてその物音は扉の前で止み、すぐに扉をノックする音が聞こえた。 「お入りなさい。」 那由に目で了解を取った洋子がそう声をかけた。 扉が開くと、葉子がまるで土嚢袋でも持っているかのような手つきで何かをつかんでいる。 言うまでもなく蓮城聡である。 彼は、葉子が社長室と連絡を取っている最中に、手近にいた女子社員達にセクハラを働き、最期には一般女子社員の中でも腕自慢で知られている悠希友紀のハイキックをこめかみに喰らったのである。 倒れながら聡は「世界も制せるハイだ・・・・」とつぶやいたほどに見事な、惚れ惚れするようなハイキックであった。 「お連れしました。」 と葉子は言ったが、どうみても運んできたようにしか見えない。 「ご苦労様。その荷物はその辺に置いておいて。」 那由がそう言うと、葉子はまるでいらない物を放り投げるかのように聡を社長室に放り込むと、一礼してその場を後にした。 何もそこまでぞんざいに扱わなくてもと、那由や洋子でも思うほど雑な扱いであった。 「アイテテ・・・・」 だらしなく床に転がった聡が意識を取り戻したのは、葉子が去ってから暫く後のことであった。 女子トイレの個室に入ったあすみは、下着を下ろすこともなく便座に腰掛けた。 ゆっくりとスカートを捲り上げると、色気も何もないパンティが顔を出した。 電車での聡との一件のあと、売店で買った安物のそれはには、やはり行為の直後といってもいいタイミングで身に付けたせいか、ありありと聡との跡が残っているように感じられた。 そっと両手で自分の胸を揉んでみる。 すると、微かに残っていた情念の焔があすみの中に再び燃え上がるような感じがした。 昨今の流行りから考えると、あすみの胸はやはり『小さい』と言えるだろう。 しかし、感度は決して悪くはなく、むしろ良い方ではないかという自覚がある。 また、電車から降りて葉子に出会うまでの間に聡が 「しかし、聞きしに勝る美乳ぢゃね。せっかくだから触っとけばよかったの・・・・今からぢゃダメ?」 と言ってきたのを思い出した。 もう一度揉みしだくように揉んでみる。思わず声が漏れた。 「あぁ・・・・」 もうこうなってしまっては自分で止めることはできそうにない。 服の下に自ら手を入れて、直に乳房を触ってみた。 緩やかなカーブを描いた乳房は柔らかく、しかし芯の部分にはどことなくしこりのようなものがある。 柔らかなまろみと確かな手ごたえを楽しみながら、自ら乳房の頂点を指でつまむ。 「っ・・・・!」 途端に電気のようなものが自分の中を駆け巡るのを感じた。 さらに指でこねるように乳房をもみしだきながら、時々指を乳輪に這わせ、乳首を刺激する。 そのたびに、小さなゆらぎは徐々に大きくなり、吐息が熱くなっていく。 あすみは、おもむろに右手を自分の膝の方に伸ばすと、内側を這わせるようにして徐々に撫で上げていった。 それはあたかも、痴漢に内股を撫で上げられているような感覚であった。 内股もさすり、わざとパンティラインに指を沿わせて、そのあと下腹部を少しなで回したあと、パンティの上から自らの秘部をさする。 下着の上からでも既にそこが十分に潤っているのが自分でも良くわかった。 (あぁ・・・・あすみはいやらしい娘ですぅ・・・・・・) 自虐的にそう考えながら、さらに指をパンティの端から入れて、自らのVラインを愛撫する。 まるで焦らされているかのようなその感覚が、あすみの体をさらに火照らせていった。 左手で自らの乳房をよどみなく愛撫しながら、右手で再び下着越しに割れ目をさぐる。 指がその付近を通り過ぎるたびに、トクトクと言わんばかりに蜜があふれ出てくる。 あすみはおもいきって、右手をパンティの中に滑り込ませ、直に指を割れ目に這わせた。 すでにそこは、あふれ出した蜜で狂おしいほどにしめっていた。 あすみが秘部を指で少し強めに押すと、自分でも驚くほど簡単に指は沈んでいった。 それはまるで、エサを目の前にした生き物が大急ぎでエサを飲み込んでいるかのようであった。 「あんっ」 小さな声を漏らして、あすみはその快感に震えた。 たったそれだけの行為ではあったが、あすみは自分が軽く達してしまったのを感じた。 肩で息をし、それがおちついてきたのを感じると、あすみは自らの中に入り込んだ指をゆっくりと動かしはじめた。 「あぁん・・・ぅん・・・・」 ゆっくりと、しかし徐々に早く指を動かしながら、あすみは膣の中をこねくりまわす。 ほどなくあすみの秘部は、はっきりとそれとわかる程に淫らな水音をたてはじめた。 ニチュニチュという低い音がするその度にあすみの下半身を震わせ、快感の波が小波から徐々に大きな波へと変わっていくのが感じられた。 膣の中に入れる指を徐々に増やしながら、あすみは自らのクリトリスへも指を這わせた。 「んふぅっ!!」 予想していなかった強い刺激に、あすみは思わず大きな声をあげてしまった。 狼狽して行為を止め、しばらく個室の外の物音に耳をすませていたが、何かが動く音はおろか、空気が動く音すら感じられなかった。 暫くの沈黙の後、あすみは再び自らの乳房を。クリトリスを。そしてヴァギナをゆっくりと愛撫しはじめた。 快感の波が浜辺に打ち寄せる波のようにほぼ一定のサイクルであすみを誘う。 そのサイクルは徐々に早くなり、それに比例するかのように波の大きさも増していく。 (ああぁぁ・・・感じちゃうぅぅ・・・気持ちいいですぅ・・・) 既にあすみの手の動きに遠慮というか、周囲に対する警戒というものは無くなっていた。 自らを慰めるべく激しく膣をかき乱し、時おりクリトリスを刺激しながら、快感に身を震わせ腰を振る。 昇りつめるまであと一歩というその時だった。 「楽しそうねぇ。あすみちゃん。」 なんと、個室の上の方から声が聞こえてくるではないか。 驚いたあすみが目を開けると、個室の壁と天井の間から見たことのある顔が笑顔であすみを見下ろしていた。 藍色がかったクセのある長い髪。淡い青紫色の瞳。 ややその目はつりあがっているためキツそうな印象を他者にあたえてしまうようだ。 すっきり通った鼻筋に、気持ち受け唇のその女性は、総務部に勤める月島香音(つきしま かのん)であった。 彼女は周藤涼子の親友であるが、特に戦闘術などの心得があるわけでもない、いわゆる一般の女子社員である。 が、既に公然の秘密として、彼女が筋金入りのレズビアンであることは社内では有名な話だ。 事実、彼女の佐藤智恵莉や美智子・ブローバックに対する接し方は人目をはばかることなく、それはあすみに対しても同様であった。 おそらく、幼い感じのする娘が彼女の好みなのだろう。 それはもはや、セクハラと言ってもいい領域だった。 香音の瞳の奥に、獲物を狙う猫類特有の妖しい光がさしている。 危険だとあすみは感じたが、絶頂の直前でおあずけを喰らっては動くに動けない。 そうこうしている間に香音は心得ているかのように個室に入ってきた。 「あすみちゃんにこういう趣味があるとは知らなかったわ。でも、私けっこうスキよ。」 そう言うと、まるでそれが自然の流れであるかのように香音はあすみの唇を奪った。 驚いて身じろぎしているあすみをよそに、香音は素早く舌をあすみの口にすべりこませた。 「・・・ん・・・・ぅ・・・・んぅ・・・・」 あすみが低く声を漏らす。その間にも、香音の舌はあすみの歯茎の裏側、舌裏、舌の裏スジを丹念に愛撫していく。 自慰を目撃された事で、一瞬覚めかかった情念の焔が、唇と舌を通して再び燃え上がるのをあすみは感じた。 香音はそのあすみの思いに呼応するかのように彼女の胸に手を伸ばした。 二人の影が静かに個室の中で揺れている。 甘い吐息は言葉にならず、それはひとつのかすれたメロディを奏でているかのようである。 あすみが体の中で奮えているのは香音の舌の動きがあまりにも繊細だからだ。 その感覚の前には言葉もなく、あるのはただ、体の中からほとばしるうねりのような快感のみ。 それはまるで、浜辺に打ち寄せるさざ波のように優しく穏やかで、嵐のようにあすみの体を蹂躙していった。 やがて香音は唇を離したが、銀色に輝く美しい糸が二人の唇をつないでいた。 頬を赤く染めて、恍惚の表情で自分を見つめているあすみに優しくほほ笑みかけると、香音はゆっくりとあすみの胸に手を伸ばし、乳房をすくい取るかのように優しくまさぐった。 「ああ。この胸の感触。私はこの感触を直に愉しむことができるのをずっと待ってたのよ。」 やわらかなまろみの奥にある、かすかな堅い感触を愉しむかのように香音は指をあすみの乳房にくねらせながら揉み解す。 「んんっ!・・・んぅ・・・・」 あすみが可愛らしい嬌声を漏らす。その声を愉悦の表情で聞きながら、香音はさらに強くあすみの胸を刺激した。 柔らかさの中にも張りのあるあすみの乳房は、触れていた手を離すと適度な弾力でまた元の美しい形に戻る。 美乳というのは、まさにこういうことなのだろうと、香音は感心した。 大きな胸には無い弾力と芯の硬さがそこにはある。これはこれでなかなかに味わい深い。 智恵莉の胸には無い魅力が、あすみの小さな、しかし美しい胸にはあった。 香音は胸をときめかせながらあすみの乳房にむしゃぶりついた。 香音のぬめった唇からピチャッピチャッと漏れる音。 「あっ!うぅん!!」 その快感は、自分一人で愉しんでいた時とは比べ物にならない。 気持ち良くて溶け出しそうだった。 香音の舌が、あすみの裸体を染めていく。 しびれるような快感が全身にほとばしり、それが全ての細胞に広がっていくかのようだ。 はね上げるかのような声をあげてあすみが体をのけ反らせると、香音は満足そうな笑みをその美貌に浮かべた。 香音はゆっくりと右手をあすみの下半身に伸ばし、すでにむき出しになっているクリトリスを触れた。 それは、淡い襞の合わさる部分にある、奥ゆかしい花芽のようにも思える。 あすみの蜜を十分に塗付けた指先で露出した部分をゆっくりと撫でる。 途端にあすみは、体に得も言われぬ快感が走り抜けるのを感じた。 「んあぁぁぅ・・・んぅ・・・」 あすみは頬を上気させ、堪え難い悦楽の声でその行為に応える。 香音はさらに表面をさするように、花芽を指で刺激した。 「う・・・ぁ・・・・ぁ・・・・ぁう・・・・」 あすみが、声を殺すようにしてその快楽に耐えている。 その姿があまりに可愛らしく思えた香音は、不意をついて花芽を根元から摘み出すように包皮を剥き上げた。 「あぅんっ!!」 敏感な所をむき出しにされ、あすみは今までとは違う次元の快感に驚いた。 その様子を香音が愛おしそうに見つめている。 香音はそこが既に十分に湿っているのを確認した上で、中指をあすみの秘部にゆっくりと押し込んだ。 ちゅぷぷぷっという感覚を指先に感じながら、徐々に肉を押し広げ、ゆっくりと挿し込んでいく。 あすみが涎をたらしながら快感に身を捩っているのを見て、香音は仕上げとばかりに自分も下着を脱ぎ、おもむろに極太のディルドを取りだした。 結構なサイズで、一体そんなものどこにしまっていたのかと思うようなものだが、ともかく香音はベルトでそれを固定すると、あすみの両足をゆっくりと広げた。 そして、あすみの秘孔にそれをあてがうと、ゆっくりと蜜をぬりつけた。 あすみの泉から、トクトクと透明な蜜があふれ出す。 香音ははその泉の中心部にディルドをあてがうと、グッと腰を突き上げ、あすみの花芯を貫いた。 「あはあぁあんっ!!」 自らの膣を十分に満たす感触を楽しみながら、あすみが体をのけ反らせて反応する。 その反応を楽しみながら、香音は一気にあすみの中の一番奥に突き進んだ。 痺れるような感覚があすみの下半身を貫き、溢れんばかりの快感をもたらす。 香音はあすみの体の中を愉しむかのようにゆっくりとそれを引き抜くと、再び激しく奥まで突き上げた。 「あああぁっ!?」 せっぱつまったような声をあげて、あすみがその行為に応える。 弓なりにのけぞるあすみをそっとつま弾くような感じで香音は抱きかかえ、再び奥へと突入する。 「ふあぁっ!!」 こらえきれずに声をもらすあすみを、香音は優しい視線で見つめた。 そんな香音を、あすみはトロンとした火照った瞳で見つめ返した。 「いくわよ!」 良く通る美しい声で香音はそう言うと、激しく腰を動かし始めた。 途端に息も付けぬような快楽があすみの体を襲ってくる。 喜びのうめき声を漏らし、リズミカルに腰がぶつかり合う。 そして、そのたびに淫靡な水音は大きさを増していく。 刹那、それは快楽の塊となってあすみの体を打ちのめした。 その快楽に身を委ねてはいけないと思う気持ちとは裏腹に、あすみの心はすっかりと下半身を覆い尽くす感覚にのみ導かれた。 「あふぅん・・・あ、う、うん、だ・・・め・・・・ですぅ・・・・ああああああぁん!!!」 あすみは上体をこれでもかと言うほどにのけ反らせて絶頂を迎えた。 しかし、その最中にも香音は激しく腰を打ち付けてくる。 絶頂のままさらに加えられる快楽はあまりにも強すぎる。 度を越した快楽が苦しみに変わり、それでもその苦しさを欲しがりながら、あすみは二度三度と絶頂を迎えた。 はしたなく股を開いたまま、呆然と天井を見上げるあすみにキスが降り注いだ。 額を。頬を。唇を。 香音の唇はひとしきりあすみに遭いのシャワーをあびせ、優しく微笑んで去っていった。 香音の唇と舌の感触を感じながら、意識が遠のいてきたあすみは、自分を弄んでいる間、香音は絶頂を迎えることがあるのだろうかとボンヤリ考えていた。 やがて、ひどい気だるさと眠気があすみを襲い、その感覚に身を委ねることにした。 足は閉じず、目を閉じたあすみは、自分の他に何人の女子社員が香音に喰われたのだろかと考えながら眠ってしまった。 「・・・・以上が今回依頼したい案件の概要です。」 ひどく冷たい声で洋子が聡にそういった。 仕事の内容はそう込み入ったものではなかった。 要約すれば、エンジェルブラッシュの秘密工場と思しき場所に探索に出かけ、そのまま行方しれずとなった西野かすみの捜索をして欲しいということだった。 「いやまあその・・・・・そもそも、なんでわしなんですか?」 内容の説明を受けた聡が、彼にとって当たり前の質問をした。 二週間ほど前の出来事のおかげで、蓮城聡という人物の存在はたちまち業界に知れ渡ってしまった。 その直後から、聡は業界の各団体から多くのオファーを受けるハメになったのだ。 元々は争いごとを好まないタイプの聡は、常にある種の闘いを続けなければならない退魔業界に身を置く事はしたくないと考えていた。 また、それ以前に彼本人がさほど面倒もなく生きていけたら良いという、極めて覇気の無い思想の持ち主であったため、命を張った仕事になる業界には足を踏み入れたくなかったのである。 「評議会に適任者の紹介を依頼したところ、満場一致で貴方が指名されたのよ。」 那由が事も無げにそう言い、聡は絶句した。 (あんのクソジジィどもめ!) 心の中でそう罵った。まるで、あの老人たちに巧妙に嵌められてしまったような気がしてきたのである。 確かに今聡は就職活動中である。 あの事件以降、多くのそのテの組織に名前がリストアップされてしまったであろう今の状況では、いつまた望まぬ危難が聡に忍び寄って来るか分からない。 事によっては会社の他の者を巻き込むような事態を招くのも十分に考えられるのだ。 それを嫌った聡は、それまで自分が担当していた仕事を全て同僚に引き継ぐと、わずかばかりの退職金を手に九条ワークスを退社した。 今はエスリンがソープ嬢として稼いだ金で食いつないでいるが、いつまでもそう使い魔の尻を食い物にするわけにもいかぬと聡は考えていた。 先の通り、聡という人間は極めて怠惰な思想の持ち主ではあるが、同時に一般的な常識というものも十分にわきまえている。 少なくとも、人並みの年齢の大の男は、人並みに仕事をして、人並みの生活をするべく努力すべきだというくらいの考えは一応持っているのだ。 だが、実情を言うと就職活動そのものはあまり芳しくはなかった。 テレビの中の、おそらく自分の人生とは何の関係も無いであろう政治家や官僚達は、言葉を変えつつも「景気は上昇している」と言ってはいるが、自分の人生に関係のある良く行くラーメン屋の大将や、飲みやの女などは、いつも景気が悪い、政治が悪いと言っている。 そんな中、特に変わった資格や能力のあるわけでもない聡が再就職をしようにも、なかなか引き受け手が無いのは仕方がなかった。 また、いつ戦闘能力者や退魔士といった連中に襲われるかもしれない今の状況は、どのような職業についても周囲を巻き込む危険性は前職の時とあまり変わらない。 聡本人が望もうが望むまいが、やはり業界に足を踏み入れる以外に道はないような気がする。 それが嫌だというなら、話しを断って、再びエスリンのヒモのような生活に舞い戻るしかなかった。 「じゃが、一つだけ確認したいんですがね。」 観念したかのように聡は頭をかきながらそう言った。 「何かしら?」 やや悪戯っぽい表情を浮かべて那由がそう聞き返す。 彼女がこのような表情をするのは、重い不安が解消された時だということを、傍らに控えている洋子は知っている。 聡は、口には出さずにその問い掛けを那由にしているようだった。 那由もそれに対する答えを聡に無言で返す。しばらくして 「ようがす。引き受けまひょ。ただし、ギャラに関してはちょいとありますよ。」 そう言って聡が差し出したのは、二週間前の《事故》で全壊した『銀の雫』の再建費用であった。 「これだけでいいのかしら?前にもらったメモだと、確か喫煙具の弁償額も書いてあったと思うけど。」 「あれはもういいんですよ。貰った本人に事情を話したら、新しいのをまたくれたもんで。」 手を振りながら聡はそういった。安物のハンドバッグの中にそれを入れているらしかった。 「こちらで掴んでいる情報は我が社の情報課に情報を開示するように、既に指示を出しています。情報課はこのビルの6階の西エリアです。」 そう言いながら、洋子が聡の方に名刺ほどの大きさのカードを差し出した。 「外部の方が情報課に入室するためには、そのカードをリーダーにかざして、なおかつ『本日の言葉』を言う必要があるのです。」 なるほど。気の利いたセキュリティである。 つまり、社員以外の人間はこのカードとその『本日の言葉』を知らなければ情報課のある場所への立ち入りはできない。 そして、仮にカードをなんらかの方法で入手しても、『本日の言葉』の内容がわからなければ入室できない。 その『本日の言葉』は、おそらくそれを知っている人間というのは限られているに違いない。 「で、その『本日の言葉』とやらは何ですかいの?」 聡がそう聞くと、洋子は一つせきばらいをして 「今日の俺のパンツは黒だ。です。」 「え?」 聞き返さずにはいられなかった。しかし、洋子は無表情のまま口を開かない。那由はクスクス笑っている。 「面白いでしょう?そう簡単には思い浮かばない言葉を毎日考えているのよ。」 愉快そうに那由がそう言う。聞けば、『本日の言葉』を考えるのは秘書室の社員の仕事らしい。 こんな事を考えるのも給料の内なのかと、聡は苦笑した。 |
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