The Case of Maina Nakajima |
……これで終わりか? そんな事が許されるハズが無かった。 「へらへらへららぁ♪」 と、謎の奇声――本人にとっては笑い声――をあげるマイナの背後で、死んだはずのくるる男が”ぴょこん”と立ち上がる。 その気配に気がついたマイナとシーの二人が、振り向きながら思わず叫んだ。 「しつこいぞ、タコっ!!」 「成仏してくださいぃぃぃぃ〜」 しかし…… 良く見ると、やっぱり死んでた。 これ以上ないってくらい完全に、生命活動を停止していた。 では何故動いたのか? 「ちぃっ!! その手を使うのか」 眼前の出来事の正体をいちはやく察知したマイナが、罵りの声を漏らしながら後ろに大きく跳ぶ。その動きに追従するように、シーも地面を蹴った。 着地したマイナと、そのすぐ横で飛び上がったままぷかぷかと浮かんでいるシーが見たのは、くるる男の首無し死体が一度ぐちゃぐちゃの肉の塊へと変化し、それから再構成されていくという気持ちの悪くなりそうな光景だった。 「あ……急に肉団子が食べたくなった」 「はいはい、そうですね〜 後で作ってさしあげますわ」 …………まあ、こいつらの感性については何も言うまい。 再構成が終了した時そこに立っていたのは、――恐らく予想通りの――元の人型に戻ったくるる男である。 「やはりこの程度では驚かんな」 「ま……ね」 どことなくシニカル、そんな笑いを浮かべる男にそう声をかけられて、何故かマイナは――微妙に――顔を紅くしながらそう答えた。 突然、その場の空気が変わる。 男が本来愛してやまない、『シリアス』な雰囲気がちょっとだけ訪れた。 「あ〜の〜、私、理解してないのですけど〜」 そこへ、シーの間の抜けた声が割り込む。 一瞬で崩壊したシリアスな場面。その強烈な打撃を受け、男はがっくりと膝をついた。 「あ、可哀想…… じゃぁなくってぇ〜」 顔の前で、空気を追い払うかのように片手をバタバタ。 「携帯型クローニングマシーン。それを予め体の中に埋めておいたのよ。で、最初の……さっきのだってクローンよね? あのクローンくるる男が死ぬと、その死体を原材料にしてクローン再生するようにセットしてあったの! ……よね?」 シーと男の間を、何度も視線を往復させながらマイナが説明と確認。男がゆっくりと頷き、シーも「なるほどぉ」とか言いながら何度も頷く。 それはとっても……間抜けな光景だった。 何が一番間抜けだったのかと言えば、実は男を見る時のマイナの視線の先である。 男の股間、それがマイナの注視点だ。 再構成したばかりの男は…… そう、素っ裸だ。 その股間を”じぃ〜〜〜〜っ”と見つめるマイナの視線。それにやっと男が気づいた。 どっと冷汗が出る。蛸状態で露出するのとは、やっぱりワケが違っていた。 「と言ったところで、第二ラウンドだ」 そう宣言した男の声は、か細く小さかった。 「で、また蛸?」 「同じ手を、二度は使わん!」 さっきの蛸、二度目だったろ? マイナ達はつっ込まなかった。が、それに気がついた男の額に冷汗が流れる。 「こ……ここ、今度はコレだぁ〜〜〜〜っ!!」 そして狼狽を隠すかのように無意味にデカい声をあげて叫んだ。 絶叫の余韻の残る中、その体のディテールが歪み変形を始める。 肋骨が胸を突き破り、パカっと左右に開く。同時に180度回転して後ろを向いた頭部が、その空隙に吸い込まれる。首は無理な方向に回転し折れ曲がり、それでも胴体と頭を繋いでいた。 一瞬の後、”がきっ”という音を立てて肋骨が閉じ、頭部を噛み締める。そこへ腕が、白く長い触手へと変化しながら巻きついていく。 それから、悪魔のそれを思わせる翼が二対背中から生え、少し前傾しながら宙へと浮かび上がり、不要になった足も四本づつに分かれながら白色の触手へと変化していった。 まだ脊椎動物的な要素を残していたくるる男と比べて、更に奇っ怪で醜悪な、完全に人間を止めているその姿が今回の男の選んだ姿である。 この状態のこの姿を見て、今回降霊したのがハストゥールという邪神だなんて、誰が分かるだろうか? それを見ていたマイナが、少し考えてから叫んだ。 「今度は、烏賊なのねっ!!」 「烏賊じゃねぇ〜〜〜〜」 「マイナ様、それはいくらなんでも……」 流石と今度ばかりは、シーも同調しなかった。 それを受けてマイナは一瞬考え込み、そして改めて叫んだ。 「んじゃ、ハっちゃん!!」 「あ、それだとあっさり死にそうでナイスです〜♪」 「いや、あ〜ゆ〜奴に限って絶対に死なないんだ」 おい、何の話をしている? 「とゆーコトで、呼称は『ハっちゃん』に決定!!」 「ヤメれ」 男はきっぱりとそう言った。 叫ぶしか脳の無かったくるる男と違って、どうやら普通に喋る事が出来るらしい。 その違いを感じたのか、マイナは変貌した男の姿を再度確認。そしてつぶやいた。 「こーして見ると、結構強そうよね……」 「まあ……そうなのかもしれません」 「とゆ〜事で、後は任せた!!」 何が『とゆ〜事』なのかは不明なまま、突然マイナは回れ右。昇降口へ向かってダッシュ……しようとした瞬間、力一杯背中をシーに蹴飛ばされる。 「またんか、ぼけぇ〜っ!」 地面に突撃して”べしゃっ”という痛そうな音を立てたマイナのその背中に、そんな怒鳴り声が追い打ちをかけた。 発言者の形相たるや、まさに鬼。が、それは一瞬だけ。 「い、今のナシ」 人差し指を交差させて×印を作り、そう宣言するシー。誰に向かって宣言しているのやら…… とにかく、一度やってしまった行動が『ナシ』になるワケが無い。 「も〜遅いって」 むっくりと起き上がったマイナにそう言われて、シーはどんよりと落ち込んでしまった。 それにしても、あれだけ強烈に顔から倒れていながら、マイナの顔には傷一つ無い。目茶苦茶頑丈である。 それでも声が少しヘンなのは、一応は鼻でも打ったのだろうか? ……その程度で済む勢いでは無かったと思うのだが。 「と・に・か・く…… こーゆー場合は『ここは私が!』とかって言って主(あるじ)を逃がすのが僕(しもべ)の使命でしょーがっ! とゆ〜事で、後は任せた!!」 「あ、ハイ!! 分かりました…… ここは私がっ!!」 早口でまくしたて、再び回れ右をするマイナ。すっかり乗せられてるシー。まあ、いいコンビである。 そして…… 「させるか」 男のつぶやきは、それまでいた場所から聞こえた。 それなのにその次の瞬間には、またもやマイナは”べしゃっ”という音を立てて地面に突撃していた。 「あああ……マイナ様ぁ…… 今度は私じゃありませんよぉ……」 思わずシーが、泣きそうな声を漏らす。少し…… ほんの少し、何かがズレているシーだった。 「むぅ〜 やっぱり転移して来たか」 先程と同じ様に、まったくの無傷で立ち上がったマイナが、すぐ目の前の浮遊物に向かってそうつぶやく。 そう。振り返って逃げようとしたマイナの進行方向に、いつの間にか悪魔と化している男が立ち塞がり、その触手の一本で突撃して来るマイナを叩き落としたのだ。 「『はすた』だからねぇ…… 空間転移ぐらいはするんじゃないかと思ったんだよね。ま、これで確認出来た……と」 胸の辺りに付着した塵を手で払いながらそう続けるマイナ。 すると何故か、シーが自分の胸を見下ろし、「はぁ……」とため息をついた。 そしてすぐに我に返り、どこか慌てた様子でマイナに声をかける。 「ままま、マイナ様ぁ…… もしかして、それを確かめる為にあんな事を?」 「そ。疑問点は即座に解決しておかないと、夜、寝れなくなるでしょ?」 「普通の人だったら、あの撃ち下ろし一発で永眠してます……」 それは大袈裟。でもそれくらい気持ちのイイ倒れっぷりだったのは確かだ。 「相変わらず……」 マイナの背後で。 「ワケの分からん連中だ」 シーの背後で。 「おやぁ?」 「あれぇ?」 気がつくとマイナとシーは仲良く、背後から触手に首を絞められていた。 しかもはすた男は、そのまま二人を2メートル程吊り上げる。浮遊能力のあるシーには関係無かったが、マイナの方は慌てて触手に手をかけ、首吊り状態と化すのをなんとか回避、といった状況であった。 「くぉ〜らぁ〜、殺す気かぁ〜」 「殺す気なんだよ」 「まあ、今更……ですよね」 どーしても緊張感の乏しい奴らである。 脚をじたばたさせ、なんとか男を蹴ってやろうとがんばっているマイナ。 項垂れて手足をだらりと下げている、首吊り死体そのものといった様子のシー。 まさに両手に花、という状態に男は暫く悩んだ。 まずどっちと楽しもうか……と。 で、やっぱりマイナを選んだ。 「分かっているよな」 動いたらマイナを……という台詞を言外に匂わせながらそれだけ言い、シーへの縛めを解く。そして、浮遊状態のままくるりと反転して自分を睨むシーに向かって、『軽く』魔風を叩きつけた。 それは、標的に物理ダメージを与えるのが目的のものでは無く、精神ダメージを及ぼす為の攻撃であった。それの直撃を食らい、シーの意識は停止寸前にまで追い込まれる。そして、完全に無防備になったシーの――存在くらいはする――胸の谷間に、一本の触手が”さくっ”と突き刺さった。 薄い胴体をあっさりと貫通した触手がその体から抜かれ、完全に意識を失っているシーが地面に向かって落下する。 ”どさり”と音を立てて地面へと打ちつけられたシーのポーズは、無様に地面への体当たりを決行した時のマイナと比べて非常に可愛いものだった。 「ずるいぞ、シー」 「なんとなく分かるぞ、その気持ち」 そんな事を気にしてる場合か? そこに同情するような状況なのか? 地面へと叩きつけられた衝撃で意識を取り戻したシーが、ふらふらと立ち上がり、まだ朦朧としているらしい様子でそんなボケた会話をしている二人を見上げる。そして急にバランスを崩し、”こてん”と――やっぱり可愛く――尻餅をついた。胸に開いたハズの穴はすでに塞がってはいたが、あの一撃はやはり致命的なものだったらしい。 「あっちの相手は、こいつで充分そうだな」 男の台詞の『こいつ』には、妙な音がいくつも重なっていた。今の『はすた』状態だからこそ可能な、高度に単純化された召喚呪文である。 ほとんど剥き出しの背中に叩きつけられる悪魔の気配と、そして冷気。体をひねったシーが背後に見たのは、白く長いふさふさした体毛に全身を覆われた、身長3メートル程の概ね人型をした悪魔だった。 「い……イタクァ?」 頭部さえびっしりと覆う白い毛の中で、自らが光を放つ両眼が怪しく輝く。異様に細く長い腕の先には、鋭いかぎ爪が生えている。その姿に適合しそうな悪魔の名前を、思わずシーはつぶやいていた。 「ウゴォゥ〜ッ」 呼ばれた名前を肯定するかのように一声吠えた白い巨体が、冷気を周囲へと放射しながらシーに近づく。 なんとか立ち上がったシーは、急いで逃げようとした。が、体に纏わりついた冷気が移動力を低下させている。その動きは、亀のように鈍かった。 かぎ爪の生えた手がシーの細い腰を鷲掴みにし、軽々とその体を持ち上げる。 そして邪魔な布をあっさりと剥ぎ取ると、突き出すようにした腰の上にシーの小さなお尻を乗せ、再び大きな咆哮をあげた。 シーの方が完全に片づいた事を一応確認してから、男はマイナの料理を開始。 触手の先端でショルダーガードを固定する留め金を器用に外し、『本人でさえ邪魔な存在』としか思えないマントごと投げ棄てる。 次に背中のホルスターを、収められたガンプごとむしり取って、これも投げ棄てた。 続いてブラウスのボタンを一気に全部引き千切り、外気に晒されたビスチェの右胸の部分に裂け目を作って、乳首とその周辺の狭い範囲のみを露出させる。 そこまでやってから、男はマイナに尋ねた。 「次はどこがいい?」 「訊くな」 そっけなく答えるマイナ。 そのあまりの冷たさに男はちょっと傷ついたが、その悔しさをバネにスカートを引きずり下ろし、そしてそれをワザワザ遠くへと放り投げた。 続いて、マイナの脚を交差させるようにしてからその膝へと巻きついた触手が、そのままマイナを逆さ吊りにする。そして、元気に暴れだした両腕も触手でそれぞれ絡め取って、ぐいっと下に引っ張った。 「ぐぁ……ぐるじぃ」 体を無理に引き伸ばされたマイナが、苦痛に呻く。その声が歪んでいるのは、まだ首を絞められていたからだ。 後ろから絞めていた首を解放した触手が、その先端でマイナの身体をこねる様にしながら背中から腰へとなぞっていく。 それはそのまま、純白のショーツの中へとそのまま潜り込み、ぷるんとしたヒップの合間に自ら挟み込まれるようにしながらずるずると前進し、無理矢理交差させられている為にぴったりと密着した状態の脚の間を、緩み無く閉じていた秘唇を強引に割るようにしながら突き抜けた。 「あぁぁ……っ、擦れてるぅ……」 正面から見ると、まるで股間からナニを生やしたかのような状態にさせられたマイナは、そう言いながら身悶える。そんな仕草に妙にそそられた男は、ついつい調子に乗ってその触手の先端をぐねぐねと動かしながら、更に擦りつけるようにしてどんどん前へと送り込み、マイナの股間から生えている部分の長さが1メートルを超えた所でやっと前進を止めた。 「長いのが生えてるぞ、マイナ」 「う、動かすなぁ」 頭を僅かに持ち上げ、視界の隅でその様子を見ていたマイナ。その顔が紅いのは、それが妙に恥ずかしいからなのやら、頭部に集まり始めた血液の所為なのやら。 「ふぇ〜、それはヤメろぉ〜」 という情けない声がその直後にあがったのは、踊っていた先端部がその生え際にある急所をつつき始めたからである。 まだ包皮の中に隠れていた敏感な部分が、乱暴なのか繊細なのかよく分からない、いい加減な刺激に反応して攻撃の真っ只中に姿を現す。当然そこへと直撃を食らって、そーゆー刺激に弱いマイナの身体は、安易に蕩け始めた。 「陰核つつくの駄目ぇ〜。あぅ……ついついその気に……じゃなくって…… だからって擦るなぁ〜 でも弾くのもイヤぁ〜」 いつもながら五月蝿い。そう思った瞬間、男の脳裏に一つのプランが浮かんだ。 クリトリスを弄んでいた先端部を、つつっと南下させる。 まずは何事もなく無事にお臍の上を通過、その際にマイナが叫んだ『うひゃのぅ〜っ』という謎の台詞は完全に無視された。 続いてビスチェの下端――現在は上端とも言える――に辿りつくと、ずるりとその中へと潜り込み、押し込まれてイイ感じになっている胸の谷間をドリルのように回転しながら突破して、そのままの勢いで首に一回巻きついた。ついでに一回、キツめにキュっ。 「っ………………!!」 マイナは無言の悲鳴を漏らしながら、ほとんど自由にならない身体をガタガタと震わせる。男はそんなマイナの様子に至上の喜びを感じながら、最終目的地へと触手の先端を向かわせた。 狙いは当然、マイナの口唇。そして前回ちょっと味をしめた喉奥。 五月蝿いマイナを黙らせた上、どうしてなかなか心地よいと、あの一石二鳥な感じを男は忘れていなかったのだ。 「あ、死にそうになったら言え」 ついでに、シーに言われた『マイナは黙らせると3分で死ぬ』という話も憶えていた。 だがしかし……喉を埋められたらどうやってそれを知らせたらいいのだ? というもっともなツッコミを受ける前に、男は苦しそうに喘いでいたマイナの唇の間に触手をねじ込んでしまった。 舌触りだけはマジで烏賊そのものといった不気味な触手を深く呑み込まされ、マイナの目尻に涙の粒が出来る。マイナが必死でそれを溢れさせないようにしたのは、逆さになったこの状態で”だばっ”といくのは絶対に『間抜けだから嫌』だという、そんな女の意地だった。 そんな事に意地にならなくても、逆さに吊られた時点でかなりマヌ……というのはとりあえず置いておくとして、涙を溜めた表情ってゆーのはやっぱりいい。 それが紅く染まった苦しげな顔なのだから、責めてる方はご満悦。闇の世界には似合わないご機嫌なオーラをバラ巻きながら、男はマイナの身体を這う触手をうねうねと波打たせ始めた。 スマタとパイずりとフェラチオを一度に、それも同一の器官――ってゆーのか、触手も?――で堪能……といった状況である。 とっても気持ちイイようで、それはもー最速でイキそうになったのは…… 「あ、駄目…… イッちゃうぅ」 マイナだった。 補足。今マイナが喋る事が出来たのは、気を利かせた男が一旦触手を抜いてくれたからである。 「早いぞ、マイナ」 で、抜いた触手を元に戻して反論を封じてから一言。何故かちょっと弱気。言い争いになったら勝てないと悟っているのだろうか? もちろん今のマイナにそんな余裕は無いのだが。 「んっ……んんっ……あむぅっ……んぐぅっ……」 でも何か喋っている。多分「もっと」とかなので、全然気にしなくていいけど。 その頃のシーの様子。 白い巨人の腰に乗せられた状態のまま、跳ね上げるような動きによって華奢な体を上下に揺らされている。その体の動きに合わせてシーは、自由な両脚を目茶苦茶に振り回していた。 激しいその動きは、そのままシーの身体を灼く官能の度合を示している。その証拠に、同じように激しい動きを見せる上気した顔に浮かんでいるのは、あられもない愉悦の表情だ。 「あぁ……イクっ…… またトブっ…… ああっ、ああぁっ……」 蕩けきった嬌声が更に、その痴態へと華を添えている。 この乱れっぷりの元凶は、巨人の体を覆っているドロリとした粘液だった。 長い体毛に隠されていて見た目には分からないが、透明な体液が巨体の表面を隅無く覆っていた。それがうねうねと変形しながら、背後からの抱擁によって密着させられているシーのうなじや背中を撫で回している。 シーのヴァギナとアナルを犯しているのも、その粘液だ。 それが膣壁、腸壁にぴったりと張りつき、敏感な粘膜を万偏なく擦りあげる。胎内を一杯に埋める冷たい感触にシーは、入れられた瞬間から猛烈に反応し、のたうちまわる程の快楽に悶え狂っていた。 無意識に両腕を上へと伸ばし、巨人の体に触れる。すると即座に粘液が接触部分へと集まって愛撫を始める。更にその新しい獲物であるシーの細い腕を逃がさないように、蔦のように変形したその一部が手首に巻きつき、その自由を奪った。 腕を束縛された所為で、軽く背中を反らし、厚みの無い胸を突き出すような姿勢になる。その薄い左胸の上を、一本のかぎ爪が撫でていく。そして何の前ぶれもなく、”ブスリ”と爪が突立てられた。 その中にある心臓。それはダミーでしかないのだが、一応鼓動をエミュレートしているそれの表面を鋭い爪に触られ、シーが体を震わせる。 「そこ、駄目…… 駄目よ、駄目なんだからぁ〜」 言葉とは裏腹に、それを望んでの哀願。巨人もそれを良く分かっていた。 だからあっさりと、ぷすっ。 脈打つ心臓を貫かれたシーは、自ら上半身を揺すって傷口を広げ、その自虐的な行為によって一気に高みへと昇りつめていった。 「んぅぅっ…… あはっ、あぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」 限界までのけ反り、大きく開いた口から絶叫を放つ。それと同時に、膣と腸を埋め尽くしていた不定形の凶器を、破壊するくらい強烈に締めつける。 そしてそれは本当に、外圧に屈したかのように爆裂した。 「ひぐぅっ!!」 四散して飛び散る粘液に、臨界に達していた肉壁を激しく叩かれる。小刻みな痙攣を堪能した後でだらしなく弛緩する予定だったその肢体を硬く強ばらせたシーは、そう一声呻く以外何も出来ない。 弾け飛びバラバラになった粘液が、何事も無かったかのように結合して再び蠢き始めた時にシーは、疲労を色濃く滲ませた妖艶な表情で思わずつぶやいていた。 「これ、いい」 同時刻。 マイナの方は、もっと楽しげな状況だった。 首と腰、そして胸に絡みつく触手が、まるで後ろから抱きかかえるかのようにその身体を束縛し、両腕の自由は、一本の触手によって頭の後ろで手首をひとまとめにされていて、完全に奪われている。 そして腿や膝、足首といった脚全体にも触手が這い回り、M字型に限界まで割り開いた状態でがっちりと固定されていた。 そんな身動き一つままならない状態で、前後の秘穴に腕の太さ程もある触手をねじ込まれている。 と、この程度で済んでいればまだマイナには――だってマイナだし――余裕があったハズだ。 それがうるさく喋るどころか、悩ましく喘ぐ事すら出来なくなるまで追い込まれているのは、ひとえにその身体を切り刻む魔風の存在ゆえである。 空間を自在に渡り、それが為にこの空間上では存在が安定しないハストゥールの体が引き起こす次元風が、マイナの身体を這い回る触手でも時々巻き起こり、その身を浅く引き裂く。その度に吹き出す真っ赤な血でマイナの全身は紅く染められ、滴り落ちる血がその下の地面に水たまりを作っていた。 裂傷を引き起こす魔風。それはマイナを貫く二本の触手でも発生している。 身体の内部の繊細な粘膜を裂かれる度に、マイナは声にならない悲鳴を喉の奥であげた。常人なら数分で絶息するだろうその責め苦に、それでもマイナが意識を手放す事もなく堪えていられるのは、その体が持つ高速治癒能力のおかげである。 肌が切り裂かれても、その傷は即座に塞がれていく。がしかし、その間に僅かな血が飛沫をあげる。その繰り返しが、今マイナの体で発生している現象だった。 傷は癒えても、失った血の補給は出来ない。けっして不死身とゆーワケではないマイナは今、徐々に死への道を辿っていた。 「いいっ…………あっ……そこぉ…………」 時折思い出したかのように、断続的な嬌声がマイナの口から漏れる。この状況でマイナは、まさに『今にも死にそうな』快楽を味わっていた。 大量に失血した為か、全身が痺れたように感じられる。治癒の際に発生する微熱が全身を覆い、その上を這う触手の冷たさがより際立つ。そんな肌に走る鋭い痛みは、今のマイナにとって悪魔的な快感だった。 「きゃふぅっ!」 マイナが絶頂へと押し上げられてそんな声をあげたのは、胎内で蠢く二本の触手が同時により深くまで潜り、その先端のみではなく表皮全体から粘ついた液体を大量に飛び散らせた直後の事だ。 ドロッとした陰液を胎内に浴びたマイナは、何が起きたのかまったく分からないまま激しい衝動に押し流され、反らした背中をぶるぶると痙攣させてから、その発作が治まるのと同時に気を失ってしまった。 そしてすぐに、その身を襲う激痛という名の愉悦に意識を取り戻す。 イッたばかりの身体に、それはあまりにも強烈過ぎた。中途半端に回復した意識が混濁し、視覚情報が一時的に脳へと伝わらなくなる。マイナにとっては最悪な事だが、五感の一つを失った所為で、残りの感覚はその分研ぎ澄まされてしまった。 今まで以上の刺激に神経を灼かれ、状況判断能力を完全に失い、痛みを伴った交わりによる快楽がマイナにとっての世界の全てとなる。 余計な感情等からの干渉を断ち、刺激を受け取る為の肌とそれを悦びとして受け入れる為の子宮が直結した結果、それまで言葉を失っていた唇が、消える直前の蝋燭の炎を彷彿とさせる勢いで動き始めた。 「殺してぇ、早く……早く殺してっ」 もう一回イケたら、それでいい。そのままそれで死んでしまいたい。そんな欲求に己の全てを支配されて、マイナは必死で叫ぶ。 それに呼応して動きを激しくした胎内の触手を、残りの体力を無制限に費やして締めつけた。 『個』としての感覚が吹き飛び、生まれついての性格が崩壊している為、普段なら心のどこかで絶対にしている計算がまったく働いていない状態。 ただ死ぬ前にイキたい。とにかくイッてから死にたい。 ここでイッて気持ちよーく死ぬのが、今のマイナのたった一つの望みと化している。 「あ、あはは…… 死ぬぅ…… すっごい、凄いのがきてるぅ……」 胎内をこれでもかとねじ広げられ、熱い吐息と一緒にうわ言のようなものが、マイナの唇から零れていく。下半身から駆け登ってくる感覚に、その身体は浸りきっていた。 「あは♪」 後ろの穴を犯す触手が急激に膨らむのを感じ、嬉しそうにマイナが声をあげる。 が、溜められた体液はまだ発射されない。更にドクンドクンと数回、瘤状のものがマイナの括約筋を押し広げ、腸内の触手が一段と膨らんでから一気にそれが始まった。 それと同時に今度は、前の肉壁を擦っていた触手が膨張し、マイナの官能に止めを刺す。 マイナがイクのと、膨れ上がった触手が大暴れしながら体液を撒き散らしたのは、ほぼ同時の事。 「あはははははははぁ〜〜〜〜っ!!」 そしてそんな笑い声のような絶叫を最後に、再びマイナは意識を失った。 「そろそろ……ぅんっ……限界で……はぁはぁ……しょうかね……」 かなり切羽詰まった声音でそう言ったシーの、だらりと垂れ下がっていた右手が、ゆっくりと持ち上がっていく。重たげに、じりじりと。その腕の延長線上をシーの瞳は見ていた。 見つめる数メートル先に落ちているのは、落下した際にホルスターから飛び出していたマイナのガンプ。 指を広げ、そしてガンプを掴もうとするかのように閉じる。しかし、その手が届く訳がなく、その手にガンプが握られる事もない……ハズだった。 しかし届いた…… 伸ばされた爪が。 器用にその先端へとガンプを引っかけ、そして引き寄せる。一瞬の後、シーのその手にはガンプが握られていた。 通常この手のアイテムは、持ち主以外が使用出来ないようなんらかの工夫がされている。だからそれを視界の隅に捉えていた男も、警戒ぐらいはしたものの、慌ててシーをどうにかしようとはしなかった。……大甘な奴である。 その銃口に相当する部分を、自分のこめかみに押し当てるシー。まるで自殺でもするかのように……そしてそのトリガーを引き絞った。 閃光と同時に、ガンプから何かの運動エネルギーが撃ちだされたかのような勢いで、シーの頭が逆方向へと吹き飛んだ。 脱力するシーの体。がっくりと項垂れ、だらりと垂れ下がった手からガンプが滑り落ちる。 まさに拳銃による自殺を再現したかのようなその光景に、一部始終を見ていた男は呆然としてしまった。 死んだようにぴくりともしなくなったシー。と突然、その四肢が”ぷるぷる”と震え始める。 「うふふふふ…… 気持ちいぃですよ〜 ヒックぅ」 「ひっくぅ?」 間抜けな声で男が訊く。 「そんな〜 真似しないでくださいぃ〜」 顔を片手で隠したシーが恥ずかしそうにそうつぶやきながら、胸に突き刺さっているかぎ爪をひょいと引き抜く。そしてその姿が一瞬揺らいだ。 直後、シーを犯し続けていた白い巨人がズタズタに引き裂かれて霧散する。 シーが高速で反転しながら伸ばした爪で斬りつけた…… いや、自分を抱きかかえていた悪魔の存在そのものを腕の一振りで強引になぎ払った……のだが、ハッキリ言って全然そんなのは見えなかった。当然注視していた男の目にも。 見てはいけなかったモノを見てしまったような気分だけが、男の胸に残される。 「あれ?」 茫然としている男とは無関係に、シーはシーで困っていた。 自分の脚で地面に立ったのはいいけど、地面が揺れていたのだ。 「まっすぐ立てませんよぉ〜」 訂正。揺れているのはシーの脳味噌。まるでダンスでも踊っているかのように、前に後ろに左に右に、長い脚が華麗なステップを披露している。 「なんだ……あれは?」 まだしぶとく生きていたマイナを揺り起こし、責めを中断して男が尋ねる。覚醒したマイナは、暫くぼーっとしてからシーの様子に気がつき、ほつりとつぶやいた。 「あ、酔ってる」 「よ……酔う? 悪魔がか?」 とろんとした寝ぼけ眼で男を見たマイナが、こくこくと頷く。 「ガンプ使ったのよね〜 魔力飽和による酩酊状態よ、あれ」 「は?」 「だからね〜 召喚時の魔力を1とするでしょ。んで死にかけで、0.1として〜 そこにまた1を足したら1.1くらいになるよね〜」 まだ半分以上寝ている筈なのに、こんな状態でも解説好きな性格が出た。これは親からの遺伝なので、もうどうにもならない事である。 口調が普段とは違っているのは……やっぱり寝ぼけている所為だろう。 「そ〜するとねー、0.1は余計なの。余るの〜 邪魔なの〜」 「そうすると酔うのか?」 こくこく。 「初耳だぞ、そんなの」 「えへへ〜」 と、照れた笑いを浮かべたマイナの表情は、何故か心底嬉しそうだった。 「私の使ってる召喚プログラムを組んだ人の、趣味」 一瞬胸裏に『カチン』ときたのが何と言う感情かを考えないようにする為に、「悪趣味だ」という台詞を男はぐっと飲み込んだ。それを言ってしまったら、答えが見えてしまうような気がしたから。 「アレ、倒していいのか?」 代りにそう尋ねた。 間抜けな質問だが、このまま攻撃するのは躊躇われる程、情けない姿だったからだ。 「気をつけてね〜 今のあの娘、かなり狂暴よ♪」 そう答えられ、怪しい踊りにしか見えない奇妙な動きを繰り返すシーへと目を向けた男は、今のマイナの言葉を思いっきり疑った。しかし男は、その事をすぐにその身を持って知る事になる。 「しーちゃん、いっきま〜す」 視線を感じたシーが突然そう叫び、男へと向かって突撃を敢行したのだ。 低い姿勢で一直線に突っ込んでくるシーを、男は二本の触手で迎撃する。 その体を確実に貫いたかのように見えたそれは、実際には何の手応えもなく地面へと突き刺さっていた。 上!! いつの間に飛び上がっていたのか空中で体をひねっているシーに、更に二本、触手が襲いかかる。今度こそ完璧に刺し貫いたハズのそれにも、一切の手応えがなかった。 「残像……だとぉ!!」 正解。 男がその感覚で捉えていたシーは、全てその移動の軌跡に残された残像だった。 気配さえもをその場に止める明瞭な残像に、付近一帯の空間を制してしたハズのはすた男もすっかり騙されたのだ。 そして一旦完全に見失ったその姿を次に捕捉した時、その腕にはマイナの血塗れの体が抱えられていた。 「え?」 アレをしっかりと抱きしめていた触手は? アレの胎内に挿入したままだった触手は? 自分の身に起きた出来事を、男はその瞬間把握出来なかった。 当然、すっぱりとちょん切られている。 しかしあまりのその切れ味に痛みすら無く、それどころかまだ『それ』が繋がっているかのような錯覚さえ起こしている状態。その断面から”どばっ”と青い体液が吹き出して初めて、男はそれを実感した。 「痛いぞぉ〜」 そりゃ痛いって。何しろ触手を十本全部、根元で切り落とされていたのだから。 「面白かったけど、そろそろケリをつけようか」 シーの腕の中から、そんな台詞が聞こえた。 その声に従うように、シーがマイナを地面へと下ろす。一度は死の淵を覗き込んでヘロヘロだったはずのマイナが、自らの足でしっかりと立った。 「この『マイナの体』を、こうまでもボロボロにしてくれた罪は重いぞ」 そしてそう言ってから、まだうねうねと動いていた触手を股間から引き抜くと、その切り口から滴る不気味な体液と一緒に、自らが流した鮮血をぺろりと舐めあげた。 その行為が意味する事。その瞬間からマイナに起きた変化。 それを男は感じ取り、とっさに空間転移による逃走を試みようとした。 そこへと投げかけられる、マイナの台詞。 「いいの? 憧れの邪神を間近で見る、せっかくのチャンスなのに?」 男の動きが止まる。 そーいえばそーだ、と男が考えてしまったほんの一瞬。マイナにとってはそれで充分だった。 黒い影が、マイナの姿に重なる。背中から生えた翼を大きく広げながら、マイナは右腕を男に向かって突き出した。 「いっけぇ〜〜〜〜っ!!」 邪悪な笑みで口元を歪めたマイナの叫びが、男を貫く。 その結果は、前回とまったく同じものだった。 ズタズタに引き裂かれ、その肉片を『闇』に食い尽くされ、男がそこに居たという証しが完全に消失する。 そしてまた…… 「へらへらへらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」 マイナの笑い声が、辺りに響き渡った。 翌朝。 「あぅ…… きぼぢが悪いですぅ〜」 シーは二日酔いで苦しんでいた。 「へららへらへらぁ〜」 で、その隣でマイナが笑っている。 じぃーっとその顔を覗き込んでからシーは、「はぅ〜」とため息をついた。 「とっとと帰って来てくださいよ〜」 宙を見上げた瞬間、”ズキン”という痛みが頭へと走る。それでもこうして外に出ているのは、この状態のマイナは自分が守るとゆー使命感の所為。普段からそうだが、気分は完全に保護者なシーだった。 「あぁ…… 早くガンプに入って眠りたいのにぃ〜」 マイナが既に正気を取り戻しているって事にシーが気づくのは、まだまだ先の事である。 |
The Case of Maina Nakajima |