Piaキャロ2R 第2話「弱い部分」
「ただいま〜・・・って、誰も居ないのに言うのは変だな」
「えへへっ。そうだね」
 秋の日が落ちて薄暗くなった頃、休日のデートを終えた耕治と美奈は、呑気な会話をしながら、夕飯の買い物を携えて耕治の部屋に戻ってきた。
 あの後”3回戦”までした二人は、美奈の手料理の予定だった昼食を外で済ませ、駅前の繁華街でウィンドウショッピングを楽しんだ後、美奈が昼食の変わりに夕食を作ると言い出し、買い物を済ませて再び耕治の部屋に来たのだ。
 部屋に入る前に、隣のあずさの部屋の電気がついていないことを確認していた耕治は、昼食が遅かったのでまだ腹が減っていないこともあり、寮に誰もいない間に美奈ともう一戦やろうかと考えていた。
 背を向けて冷蔵庫内の食材を確認している美奈の、スカートに包まれた小さなお尻を見ながら、いきなり押し倒すのは昼間やったので、今度はどうやって口説こうか真剣に迷う。
 と、その時、電話の音が彼の思考を中断した。
「もしもし、前田です・・・あっ、葵さんですか」
 電話の相手は、二人の働いている『Piaキャロット』の先輩ウェイトレス、皆瀬葵だった。
『耕治君!? ようやく捕まった。何で二人とも携帯持ってないのよ・・・美奈ちゃんもそこにいる?』
「はい、一緒にいますが・・・どうしたんです?」
 微かな店の喧噪と音楽と共に聞こえる、いつもの気楽な感じと違う緊迫した葵の口調に、耕治の浮かれていた気分が散っていく。
「電話、誰から?」
 一緒にいる・・・という言葉に、電話で自分の事が話されていると察した美奈が、冷蔵庫に頭を突っ込んだまま話し掛ける。
『落ち着いて聞いてね・・・あずさちゃんが手に怪我をして、救急車で病院に担ぎ込まれたの』
 葵の告げた事実は、耕治の心を冷水が掛けられたように冷やした。



第2話「弱い部分」



 泣き崩れる寸前の美奈を支えるようにして、耕治は葵に教えられた病院に来た。
「ひっく・・・お姉ちゃんが死んだら、美奈も死んじゃうぅっ!」
 二人の前で自動ドアが開くと同時に、病人や見舞い客で割と込んでいるが決して賑やかではない病院のロビーに、泣きじゃくる美奈の声が響き渡る。
 童顔ともいえる可愛らしい顔に、赤く腫れた目が痛々しい。
「大丈夫だよ。葵さんは大した怪我じゃ無いって言ってたし、涼子さんも付き添っているそうだし・・・それにあの頑丈なあずさが、そう簡単にどうにかなる訳ないだろ?」
 騒いではいけない場所柄を気にしながらも、耕治は優しく美奈をなだめる。
「お姉ちゃん、頑丈じゃないよ・・・」
 耕治に聞こえるかどうかの小さい声で、美奈は反論する。
 更にぐずる美奈の肩を抱き寄せながら、耕治はロビーを横切って受付へ直行した。
「耕治君、美奈ちゃん」
 受付であずさの所在を聞こうとした耕治の耳に、小さく二人を呼ぶ、聞き覚えのある女性の声が届く。
 声の方を振り向くと、長い髪の眼鏡をかけた女性・・・店のマネージャーで寮の管理人でもある双葉涼子が、二人の方へ歩み寄る。
 彼女の背後の受付前の長椅子には、左腕に白い包帯を分厚く巻いたあずさが座っていた。
「お姉ちゃん!!」
 姉の姿を確認すると同時に、叫びながら駆け寄る美奈を、あずさは立ち上がって迎える・・・が、その動作が普段より弱々しく見えるのは、耕治の気のせいだろうか?
「大丈夫? 怪我痛くない? 顔色悪いけど、気分悪くない?」
 姉の身体を気遣い、矢継ぎ早に質問する美奈を、あずさはしばらく辛そうな顔で見つめていたが、
「ごめん・・・ごめんね、ミーナ・・・」
 突然美奈に抱き付くと、泣きながら謝り始めた。
「・・・お姉ちゃん?」
「ごめんね・・・ミーナ・・・ホント、ごめん・・・」
 戸惑う美奈に、更に繰り返し謝り続けるあずさは、美奈の肩越しに耕治と目が合う。
 彼の安堵と怒りの混じった表情からは、どれだけあずさを心配していたかが伺えた。
「・・・ごめんなさい・・・」
 美奈の肩に顔を埋めて、あずさはもう一度呟いた。

「耕治君、ちょっと・・・」
 あずさの異常な様子に面食らっていた耕治を、涼子はロビーで抱き合う二人が見える範囲の、だが会話が聞こえない程度に離れた場所に連れ出す。
 普段の涼子の、地味な服装と眼鏡でも隠せない美貌も、今は疲れの見える暗い表情で色褪せている。
「何です? 涼子さん」
 耕治の知る限り、涼子という女性は内緒話を好むタイプではないので、あえてそれをするのは何か重大な話だろうと予想し、身構える。
「あずささんの怪我だけど・・・どうも自分で手首を切ったみたいなの」
「・・・!?」
 それでも涼子から出た言葉は、耕治の想像を超えていた。
 彼には日野森あずさという少女は、自殺などとは最も無縁な性格に見えたからだ。
「あずささん、その事を家族に・・・特に美奈ちゃんに知られるのを凄く恐がっているみたいだけど、何か心当たりある?」
「いえ、全く・・・」
 あずさは、その動機を耕治に知られるのを、美奈と同様かそれ以上に恐れているのだが、この時の涼子はそこまで気付いていない。
「いつも気楽に話しているのに・・・あいつがそこまで思い詰めてるなんて、全然気付きませんでした」
 恋人の姉であり、喧嘩ばかりしながらも親友と思っていた、近しい少女の悩みに全く気付かなかった・・・無念そうに言う耕治の表情には、自責の色が現れていた。
「それは私も同じよ・・・只の上司でなく、友人か保護者のつもりだったのに、何の力にもなれなかった・・・」
 涼子も同様に、整った貌を苦痛に歪める。
「とりあえず美奈ちゃんには、料理中に包丁で切ったということにしておいて欲しいの。肉親に隠しておくのはどうかと思うけど、本人がどうしてもって言ってるし、事が事だけになるべく彼女を傷つけたくないから・・・」
「美奈も、姉が怪我というだけであの様子ですしね・・・」
 いまだにあずさに抱き付いている美奈を見て、姉の怪我の理由が只の事故ではなく自殺未遂と知ったら、どんなに取り乱すか・・・耕治はそれを試してみるつもりにはなれない。
「そうね・・・どのみちあの娘には、重すぎるかも知れないわね」
「ええ、わかりました。美奈には当分黙ってます」
 話をまとめる耕治と涼子を、あずさは美奈を抱きながら見つめていた。

 その後、受付で薬をもらってから退院したあずさは、美奈と共にタクシーで叔父夫婦の家へ帰った。



 数日後、秋を飛ばして一気に冬が来たような寒気の日。
「ただいま・・・」
 寮の自分の部屋に戻ったあずさは、誰も居ない・・・もとより一人暮らしの部屋の中へ、何故かその挨拶を言ってしまった。
 自分でもおかしいと思ったあずさは、この部屋で暮らし始めてまだ4ヶ月しか経っていないが、ここはもう自分の家だからだ、と自分へ言い訳をした。
 数日ぶりの我が部屋に入ると、ゴミ袋に残った生ゴミの臭いが微かに漂っている。
 あの時、これで最後になると思い綺麗に掃除した部屋だが、部屋のあちこちに赤黒い血痕が点在し、血塗れの電話機が乱雑に転がっていた。
「ふう・・・」
 台所のフローリングの何かが滑ったような血痕と、カーペットの何かが転がったような血痕・・・それら自分の『間抜けさ加減』の証を見て、あずさは自己嫌悪のため息をつく。

 あの時、心底自分が嫌になり、突発的に自殺を思いついたあずさだが、どうせなら綺麗に死にたいという女の子的発想で、まずはシャワーを浴びることにした。
 しかしPiaキャロ寮の安普請では、シャワーの音は確実に隣の耕治と美奈に聞こえ、自分の覗き聞きが発覚するので、二人がでかけるまで息を潜めて待った・・・のだが・・・。
 あのエロ耕治がミーナと3回もしやがったので(あずさ談)かなり時間が経った上に、部屋の掃除後シャワーを浴びて頭がスッキリした彼女は、もはや先程までの決意が薄れつつあった。
 それでも惰性で包丁を手首に当てたのだが、自分の血に驚いて救急車を呼ぼうと電話に走ったら床に落ちた血で滑って転び、テーブルの角に頭が直撃して十数秒のたうち回り、何とか電話機に手を伸ばしたらそれが落ちてきてまた頭を直撃して数秒うずくまり、更に焦って119番でなく110番を押して警察に間違い電話をして謝り倒した・・・それがこの痕跡だ。

 玄関先で自分の部屋の惨状を眺めていたあずさだが、もう一度ため息をつくと、とりあえず空気の入れ換えをすることにした。
 金属製のドアを開け放つと、隣の部屋には確実に聞こえる程度の音が響く。
 と、その音を聞きつけたのか、隣の部屋のドアが開き、そこの住人が顔を出す。
「あっ・・・」
 今は逢いたくなかった顔を見て、あずさは僅かに動揺する。

「あずさ・・・帰ったのか」
 見慣れた筈の彼女の顔を見て、言葉に詰まった耕治は何とかその一言だけ口に出す。
 久しぶりにその姿を見た少女は、記憶の映像より随分細く弱々しく見えた。
「(久しぶり?)」
 自分の想いに、彼は小さな疑問を持つ。
 あずさが寮を離れていたのはほんの1週間強の間だが、随分長い間逢わなかったような気がする。

「耕治・・・今日は学校休みなの?」
 何とか平静を装って、あずさは彼に聞く。
 今は健全な学生なら学校にいる時間であり、彼女はわざわざ彼と顔を合わせない時間を狙って帰ったのだ。
「今は体育祭なんだが・・・俺の出番は昨日で終わったから、今日は自主休校」
 答えながら、耕治は靴を履き直して自室の玄関から出て、歩み寄ってくる。
 あずさは自分でも意識しないで一歩下がるが、彼との間隔はどんどん縮まっていく。
「腕・・・大丈夫か?」
 すぐ目の前まで来て言う耕治の口調は、いつもの喧嘩の時とは別人のように優しく、気を使った物だった。
 今のあずさには、その優しさが痛い。
「ええ・・・抜糸はまだだけど、もう普通にしていると痛みは無いわ」
 左手首に巻かれた包帯を押さえながら、なるべく普段の口調で答えようとしたが、自分でもはっきり分かるほど弱々しい声しか出ない。

 覇気のないあずさの声が、耕治には心苦しかった。
 普段何の遠慮も躊躇いもなく話す彼女とは、もしかしてこれが初めてかも知れないが、話すことが見つからずに会話に詰まった耕治は、何とか話題を探そうと開け放たれた扉からあずさの部屋の中に視線を移し、床の至る所についた血痕に気付く。
「・・・随分派手に塗りたくったな」
 思わず感心して口に出してから、無神経だったかと後悔する。
「え? そ・・・そうね」
 そういう表現をされると思わなかったのか、間抜けな返事を返すあずさ。
「(ええい、こうなりゃヤケだ!)」
 上手い接し方が思いつかない耕治は、ひたすら普段の自分通りの態度で接することに決めた。
「これから掃除するのか? その手じゃ不便だろうから、俺が手伝ってやるよ」
 言いながら、返事も待たずに部屋へ上がり込む耕治。
 普段あずさを女と見ていない彼は、彼女の部屋にも平気でズカズカ上がり込むことがある。
「えぇっ!? ちょっと、勝手に決めないでよ!」
「はっはっはぁ! 気にすんな」
 あずさの抗議を軽い一言で片づけて、耕治は自分の部屋のように慣れた様子で、掃除用具の置き場所を引っかき回し始めた。



 フローリングに付いた血痕は、床の板目に入り込んだ血が簡単には落ちなく、耕治が腕力と体重に物を言わせて擦り取った。
 電話機の表面は乾拭きしただけで奇麗になり、ボタンの隙間は大雑把に爪楊枝で穿っただけで、機能に問題が無いようなのでそのままにする。
 カーペットの染みの方はどうやっても取れず、後でクリーニング屋に持っていって相談し、落ちないようであれば捨てて買い換えることにして、床から剥がして丸めておく。
 掃除が一段落し、耕治がテーブルについて一息着いていると、あずさが台所から紅茶を入れて来た。
「ありがとう・・・結構助かったわ」
 素直に礼を言いながら、あずさはティーカップを差し出す。
 床の擦り取りや、カーペットを剥がす為に家具を動かすのは、女手一つ・・・しかも怪我人には、かなり骨が折れただろう。
 二人は同時に紅茶を口に含み、そのまま押し黙る。
 重苦しい沈黙・・・実際は1分も経っていなかっただろうが、体感時間ではその10倍に思えた。
「涼子さんに・・・聞いたよ」
 意を決して沈黙を破り、耕治は一言だけ言う。
 その瞬間、あずさの身体が微かにピクリと跳ねる。
 病院で耕治と涼子が何やら話しているのを見て、予測はしていたのだが・・・
「そう・・・」
 素っ気ない反応を返すのが、あずさには限界だった。
 この話題は、彼女が一番恐れていたこと・・・しかし自分の『間抜け行為』を知られたからには、あの動機を隠すにしても、避けて通れない話題である。

 彼女がそこまで思い詰めた動機は、何だろうか?
 この数日間、耕治はずっとその事を考えていた。
 一般的な自殺の動機として、あずさに絶対当てはまりそうにない物は、借金、失業、病気、家庭内のトラブル・・・と言ったところか。
 未成年に多い動機として、イジメが上げられるが、これもあずさには当てはまりそうにない・・・が、絶対とまでは言えないので、一応候補には残しておく。
 あと、耕治は時々失念しているが、彼女も年頃の女の子なので、それの辺で思いつく動機としては・・・失恋・・・レイプ。
 特に最後の一つだったなら、耕治には手に負えない気もするが、予想は予想でしかないと自分に言い聞かせ、それでも最悪の事実を知る覚悟だけはして、友人として何か少しでも力になりたいという想いを何とか萎ませないでいた。

「責めはしない・・・言いたくないなら、理由は言わなくて良い・・・でもそこまで思い詰める前に、一言相談して欲しかったな」
 言葉を選びながら、慎重に言う耕治。
 その心遣いすらあずさには責め苦ということに、彼は気付いていない。 
「無理よ・・・包丁持ったのは、思い立ってすぐだったもの」
 正確には、思い立ってから2時間以上経過していたので、熱が冷めかけて命拾いしたのだが。
 取り付く間のないあずさの言葉に、耕治は言葉を失い、再び沈黙・・・
「安心して。もう2度とバカな真似はしないから」
 今度はあずさが沈黙を破り、言い放って空のティーカップを片づけ始め、強引に話題を終わらそうとする。
「俺じゃぁ・・・力になれないか?」
 自分のカップも片づけられるのを見ながら、力無く言う耕治。
「無理よ」
「なんでっ!・・・何でだよ」
 台所に向かい、背を向けたまま素っ気なく言うあずさに、耕治は思わず怒鳴りかけ、思い直して押し殺した声で言い直す。
「耕治では・・・無理よ」
 食器を洗い始めながら、振り返らずに言うあずさ。
 言い返そうとした耕治はふと、彼女の背中に今まで見たことのない表情(?)が浮かんでいると思う。
 その背中がいつもとどこが違うのか・・・暫く見つめた耕治は、あずさの肩がよほど注意しないと分からない程度に、小刻みに震えているのに気付いた。

 堪えきれなくなったあずさは、台所に向かうことで耕治から顔を隠す。
 彼女は普段から強い自分を演じているが、特に耕治には弱い部分を絶対見せたくないと思ったのだ。
 平静を装った声は自分でも上手くいったと思ったし、身体の震えは食器を洗う動きで誤魔化して、眼が充血して赤いのは、先程掃除をしている時に、床に使った洗剤が目に滲みると言っておいた。
 完璧だ・・・とあずさは自画自賛し、ゆっくりと洗い物をしながら気持ちを落ち着けようとする・・が、意識すればするほど高まった感情は静まらない。
 焦りだした時に、不意に後ろから両肩に手を置かれた。

 あずさの肩に両手を置いた耕治は、彼女の身体が意外な程小さくて細く、(長身の彼から見れば)妹の美奈と大して変わらない事に気付いた。
 それだけが理由ではないが、手の中の少女を守ってやりたいという想いが、耕治の中で強くなる。
「そんなに俺って、頼りないか?」
 あずさが手を振り解かないのを確認してから、耕治は言う。
 すると見る間に彼女の背中が、はっきりと分かるほど震えだす。
「確かに俺は、何の力も技術も後ろ盾もないけど・・・それでもあずさの力になりたいと言う想いは、誰にも・・・美奈にも負けないつもりだ」
 あえて美奈を引き合いに出したのは、自分は美奈の恋人という宣言だ。
「(何故わざわざ、今その宣言をする必要がある?)」
 頭を過ぎるその疑問について、彼はあえて深く考えないことにした。
「それとも俺は、信用できないか?」
 その言葉を聞いた瞬間、耕治の手の中であずさの頭が左右に振られ、長い髪が揺れる。
「そんなこと・・・そんなことないけど・・・貴方じゃダメなのよ・・・」
「・・・そうか」
 しゃくり上げながら言うあずさに、優しく言う耕治。
 なら、見守るくらいなら良いだろう?・・・彼がそう言おうとした時、不意に手の中で肩が動き、あずさが180度転換して耕治の方を向く。
 耕治が初めて見る、涙で濡れたあずさの瞳・・・
 美少女の泣き顔を間近で見て、耕治の心拍数が上がる。
「あ・・・ずさ?」
 そのままあずさは、耕治の胸に顔を埋めた。

 あずさは、自分の容姿が人並よりは美しいことを知っている・・・自意識過剰に自惚れているつもりはないが、その美しさを維持する程度に磨くことも怠っていない。
 そして、男が女の涙に弱いことも知っている。
 そのことは耕治に泣きつくまで意識していなかったが、彼の腕が自分をそっと包んでくれた時、あずさの中の冷静な部分が、無意識に女の武器を扱う狡賢い人間と蔑む。
 また自己嫌悪に陥りながら、涙で歪んだ目で見上げると、耕治の顔が間近にあり、彼の瞳に自分の顔が映っていた。
 その顔を見たくなかったから・・・と自分に言い訳して、あずさは上を向いたまま目を閉じる。
「(ゴメンね、ミーナ・・・)」
 ここ数日、心の中で何度も繰り返した言葉がまた思い浮かび、心臓の辺りに鈍い痛みを感じた。

 男の胸の中に飛び込み、顔を自分の方に向けて瞳を閉じる・・・これを見た誰もが、キスの体勢と認識するだろう。
 女性に・・・それも極上の美少女に、涙を浮かべながら唇を差し出されて、果たしてこの世の男の何%が拒めるだろうか?
 相手があずさなら、普段彼女をそういう目で見ていない耕治は、躊躇いもなく拒んだだろう・・・相手があずさでなくても、美奈の事を考えると、どんな美女に迫られても拒める自信はある。
 しかし先日の自殺未遂を知り、今日初めてあずさの弱い部分を知った耕治には、それを拒める筈もない。
「(済まない・・・美奈)」
 30秒ほど迷った末、結局彼は目の前の少女に、自分の顔を重ねた。

 その30秒は、目をつぶって待っていたあずさには、永遠にも感じられた。
 彼が、自分の浅ましい誘いに乗る筈もない・・・バカなことをした・・・そう後悔し、彼から身を離しかけた瞬間、唇に温かい物が触れる。
「あっ・・・」
 それがすぐには信じられなかったあずさが、思わず頭を引いて目を開けると、目の前5,6cmの距離で彼と目が合う。
 身を引いたのを拒絶と思ったのか、戸惑った顔をする耕治に、あずさはもう一度目を閉じて、今度は自分から顔を寄せる。
「んっ・・・」
 再び唇が重なると同時に、耕治の背中に回した手に力を込めると、彼も力強く抱き締め返してくれた。
 安堵、歓喜、倦怠感、罪悪感、恐怖・・・様々な感情が混ざり合い、あずさの思考を奪っていく。
 キスをする前の耕治の長い躊躇いは、美奈のことを想ってのことだろうか・・・あずさにはそれが悲しく、また同時にどこか安堵を感じる。

 二人の身体が密着しているので、年相応に豊かなあずさの胸が、耕治の鳩尾辺りに押し付けられている。
「(やっぱり美奈のより、ずっと大きいな)」
 罪悪感を感じながらも、どうしても姉妹を比較してしまう耕治。
 その想いを振り払うように、キスをしながら腰に手をやると、あずさは一瞬身体を硬直させたが、すぐに力を抜いて耕治のなすがままに腰を引き寄せられる。
 そのまま手を下ろして、スカートの上からお尻に触っても抵抗しないことを確認すると、布越しに柔らかい尻たぶを掴んで軽く揉む。
「んんっ・・・」
 あずさが口を塞がれたまま喘ぎ声を上げた瞬間に、開いた唇の中に舌を進めて歯の表面を舐め回すと、あずさも遠慮がちに舌を伸ばして耕治の舌と触れさせる。
 しばらく互いに舌先同士で触れ合うだけだったが、だんだん大胆に絡め合い、そのうち本格的なディープ・キスを始めた。
「んっ・・・んふぅぅっ・・・」
 自分の口腔を深く舐め回す耕治の舌を追いかけるようにして、自分の舌を絡めるあずさ。
 それに絡め返して舌の裏を舐める耕治は、お尻を揉む右手はそのままに、背中を撫で回していた左手を二人の身体の間に回し、服の上から乳房を確かめると、セーター、シャツ、ブラジャーに隔てられていても、彼の掌に柔らかく張りのある感触が伝わる。
「んくぅっ・・・」
 乳房を揉まれたあずさは、手に力を入れて耕治にしがみ付く。
 それに答えて抱き返しながら、耕治はあずさをベッドへと連れて行き、2人同時に倒れ込む。
 耕治の下になったあずさは、男に上に乗られたためか、妹への罪悪感からか、不安な表情を見せる。
 こういう状況で女性の不安を取り除く方法を、耕治は優しく愛撫するくらいしか知らない。
「んっ・・・ちゅっ・・・」
 何度もキスをしながら、スカートを捲り上げて太股を撫で回し、セーターの裾からお腹に触れ、低い室温で冷えた身体を暖める。
「ふはぁっ・・・」
 人肌の温もりであずさの表情が和らぐのを待って、耕治はスカートを腰まで上げ、指先で太股の付け根を撫で回す。
「ふっ・・・んんっ・・・」
 敏感な個所をくすぐられて身体を小さく震わすあずさに、拒絶の気配がないと見ると、耕治は指を股間の中心まで這わせ、白い木綿のショーツの上から秘裂をなぞる。
「はっ・・・ああっ」
 最も恥ずかしい部分に触れられ、思わずあずさは足を固く閉じて耕治の腕を掴む・・・が、自分の顔をじっと見る彼と目が合うと、すぐに手を離し足の力を抜く。
 今耕治がしていることは、恋人への裏切り・・・しかも彼女の実の姉との関係など、まともな人間にしてみれば最悪の裏切り行為である。
 あずさが少しでも拒絶すれば、彼はそれを助けに、即座にこの行為を止めるだろう。
 だからこそあずさは、そう慣れていない他人に身体を触れられる感触にも、妹を裏切る良心の呵責にも、僅かでも抵抗として現れないように耐えていた。
 しかしそれも、いつまで持つか・・・
「ああっ・・・耕治!」
 耐えられなくなったあずさは突然叫ぶと、耕治に抱き付き唇を重ねて激しくキスをする。
「忘れさせて、何もかも・・・今だけは私を見て」
 驚く耕治に泣きながら懇願し、もう一度荒々しいほどに口付けを交わすあずさ。
 耕治もそれに答え、罪悪感を振り払うように大胆にあずさを責め始めた。
 シャツごとセーターを引き摺り上げ、両手で飾り気のない下着で包まれた乳房を揉む。
 最初は美奈にするように優しく撫でるように揉んでいたが、あずさの反応を見ながら次第に強くしていく。
「ふあっ・・・んあっ・・・あふぅっ」
 多少強く揉んでも痛がらず、あずさが美奈よりずっと女として成熟しているのを確認した耕治は、若く張りのある乳房を遠慮なく揉み始める。
「ひゃっ・・・ああぁんっ、あっ・・・ああっ!」
 あずさの感じた声とともに、木綿の下でどんどん硬度が増していく乳首を掌に感じ、それを直に見たくなった耕治は、ブラジャーを掴むと胸の上に一気に引き上げた。
 ブラジャーと一緒に引き上げられた乳房がこぼれ落ち、弾けるような弾力を示して天井を向く。
 仰向けになっても形の崩れない白い乳房、さほど大きくないピンク色の乳輪、充血して尖った乳首が露になり、耕治は愛撫の手を止めてしばしその美乳に見蕩れた後、感触を確かめるようにそっと握る。
「ひんっ・・・!」
 即座に悲鳴のような反応を返すあずさが可愛く、耕治は本格的に裸の乳房に愛撫を始めた。
 片方は乳首を摘まんで指先で転がし、もう片方は掌で乳首を刺激しながら乳房全体を揉む。
「はうんっ! あふっ・・・はぁっ、あぁぁんっ!」
 以前美奈としている時に考えた、小さなおっぱいは敏感だという俗説・・・一旦は信じたそれは多分間違いで、敏感なのは日野森姉妹なのだろう・・・耕治はあずさの嬌声を心地よく聴きながら、なんとなくそう思う。
 そんなことを考えていると、あずさの喘ぎ声が美奈と被って聞こえ、それを振り払うように乳首にしゃぶり付いて舌と唇で愛撫し、目の前の少女に集中しようとする。
「あぁぁんっ! いい・・・気持ちいい、耕治・・・」
 感じ始めたあずさは耕治の頭を抱きしめて歓喜の声を出すが、一度その声が美奈と似ていると感じた耕治は、どこか愛撫に集中しきれない。
 それでも太股を撫でていた右手を股間へ滑らせ、下着の上から中心に触れると、そこはすでに布越しでも湿り気が分かるほど濡れていた。
「ああぁぁっ・・・」
 熱く溶けたところを触れられ、濡れた瞳で耕治を見るあずさ。
 その顔も、もともと姉妹で似た造りだったこともあり、耕治には美奈とだぶって見える。
「(くっ・・・!)」
 あずさの期待と不安の混じった瞳が、美奈の自分を責める瞳に見えた耕治は、罪悪感の幻覚と分かっていてもその顔が見えなくなるように身体を裏返してうつ伏せにし、尻からショーツを剥ぎ取る。
「あっ・・・?」
 乱暴寸前の行為にあずさが不安の声を上げ、それを聴いて少し正気を取り戻した耕治は、彼女に体重をかけないように気を付けながら、背中から抱く。
 長い髪をかき分けてうなじにキスをし、右手で裸になった尻を撫で回す。
「んふっ・・・あぁん・・・」
 緩い愛撫に少し安心した様子の、あずさの甘い吐息を確認すると、耕治の指先は尻の谷間を通って濡れた秘芯にそっと触れ、その表面をなぞる。
「あっ! んあぁ・・・」
 軽い刺激にも首を仰け反らせて、過敏に反応するあずさ。
 頭が振られてうねる長い髪を見ながら、耕治は湿り気の増していく秘裂を指先で擦り、布団と身体の間に空いている手を入れて乳房の下辺りを撫でた後、尖っている乳首を指先で挟んで転がす。
「んんぅっ・・・ふはっ! ああぁぁっ・・・はうん」
 身体中の敏感な部分を刺激されたあずさが嬌声を上げる度に、秘裂の奥から愛液が分泌して、ぐしょぐしょに濡れていく。
 そこの具合を確かめるように、耕治は人差し指を蜜を孕んだ膣口に押し付けると、意外なほど簡単に指先が膣内に飲み込まれた。
「くふっ!」
 胎内へ異物の侵入を受け、あずさの背筋が仰け反る。
 耕治が更に指を進めると、あずさの熱い膣は指一本にも食い千切るような締め付けを見せながら、何故かスムーズに指を受け入れていき、容易く根本まで飲み込んだ。
「んんん・・・」
 身体を堅めて呻くあずさの、薄く汗の浮いた背中に口付けした耕治は、脈打つように蠢く膣内の感触を確かめた後、ゆっくりと指を行き来させ始める。
「ふあっ! ああっ、あぁぁ・・・ああんっ」
 指がぬめった狭い肉の間を擦る度に、あずさの口から喘ぎ声が漏れて、愛液が更に分泌されてクチュクチュと水音が上がり、指の滑りが良くなっていく。
 耕治はそのまましばらくあずさの膣内を刺激した後、十分に濡れた秘裂から指を引き抜き、今度は人差し指と中指を揃えて膣口に押し当て、ゆっくり進入させた。
「ひはっ・・・ふあぁっ!」
 ぐっしょり濡れたあずさの秘裂は、先程よりは抵抗を示しながらも、愛液で簡単に2本の指を受け入れていく。
 あずさの嬌声に過剰な苦痛がないと見た耕治は、きつい膣内を入れた時と同じペースで引き抜いていき、抜ける寸前で再び進入させる。
 そのまま何度も手首を振り、あずさの胎内を指で犯す。
「あふぅっ・・・ふはぁぁ・・・あはぁぁ」
 指2本の太さに慣れたあずさが、押し殺した快楽の声をあげ始めると、耕治はもっとその声を聴きたくなり、乳房を愛撫していた左手を腹を撫でながら降ろし、秘裂の先端で尖っていた肉芽に触れた。
「あうっ! そ・・・そこは・・・ひゃふっ!」
 親指と人差し指で、包皮に包まれた肉芽を摘ままれ、甲高い声を上げるあずさ。
「ひゃう! だ・・・はうっ・・・はひゃあぁっ!」
 最も敏感な部分を刺激されて、思わず上げかけた制止の声を慌てて飲み込んだあずさだが、徐々に肉芽の包皮を剥かれて行き、悲鳴のような嬌声を上げる。
 完全に引き剥かれて露出した肉芽は、空気すら沁みるように感じるほど敏感になっていた。
 耕治は膣内を犯す右手の2本指の動きを早めながら、左手の中指と人差し指を揃えて伸ばし、その谷間で剥き出しの肉芽を擦っていく。
「あぁぁうっ!! だめ・・・だめぇっ・・・はぁぁんっ!」
 陰核と膣内に強烈な刺激を受けて、あずさは遂に拒絶の声を上げてしまうが、その甘い声は言葉と逆の意味を明確に伝える。
 耕治も言葉の本当の意味を受け取り、膣の中の指を曲げて爪を立てないように膣壁を引っ掻いたり、左手の動きを変えて4本指の間で肉芽を弾いたりと、更にあずさへ刺激を与える。
「あっ! あぁぁっ・・・ふあぁっ!」
 下半身に刺激を受ける度に、剥きたての茹で卵のような白いお尻をぴくぴくさせていたあずさは、もっと耕治の愛撫を受け入れようと無意識に腰を浮かせ、持ち上げ始めた。
「(ああ、こんな格好するなんて・・・でも腰が勝手に・・・)」
 お尻を高く掲げた体勢になり、更に小さく振り始めたあずさは、自分のはしたない姿勢に気付きながらもお尻の動きを止めることができず、その恥ずかしさすら快楽に感じ、布団の上に愛液の雫を垂らして丸い染みを広げていく。
「あぁぁっ! い・・・いいっ・・・耕治、もっと・・・もっとぉ! はあぁぁっ!」
 ついにおねだりまで言ってしまい、あずさは開き直って自虐的な快楽を受け入れ、躊躇なく腰を振り始める。
 だがその瞬間、耕治の指があずさの膣内から抜かれ、蜜の糸を引いて肉芽が解放された。
「あぁ・・・どうして?」
 快楽に溺れ始めていたあずさが落胆の声を上げ、振り返って耕治に物欲しげな視線を向ける。
 その視線の先で耕治が無言でトランクスごとGパンを脱ぎさり、すでに完全に勃起した肉棒を弾け出す。
 この時耕治の脳裏に、自分の部屋に避妊具が残っている事が思い浮かぶ。
 だが、いきり立った肉棒を見詰めるあずさの濡れた瞳に魅せられ、男として最後の一瞬はしくじれないという覚悟を決めると、背後から近づいてくびれた腰に手を当て膝立ちになる。
「んっ・・・」
 小さく鼻で鳴いたあずさは、更に高くお尻を掲げると、観念したように目を閉じた。
 美少女が犬のように自分へお尻を突き出し、濡れた秘裂をさらす光景に興奮して、耕治は勃起した肉棒の竿をあずさの秘裂に擦り付けて愛液で濡らした後、先走りを垂らす亀頭を押し付けて浅く埋める。
「楽にして・・・」
「うん・・・ふうっ」
 身構えて身を固くするあずさだが、耳元で耕治が囁くと、素直に肯いて息を吐きながら力を抜く。
 それを待った後、耕治は腰を前に進めて、亀頭を秘裂に押し込む。
「ひうっ・・・はあっ!」
 指よりずっと太い進入物に小さな悲鳴を上げるあずさだが、十分以上に蜜で潤んだ彼女の秘所は、亀頭の最も太い個所が膣口を通り過ぎると、自分から飲み込むように耕治の肉棒を胎内へ深く引き入れていく。
「あっ、ああぁぁっ」
 耕治の肉棒は狭い濡れた肉の間を進んでいき、喘ぎ声を上げるあずさの最奥までゆっくりと一気に貫く。
「はふぅっ・・・」
 亀頭の先端が子宮口を小突くと、あずさは少し苦しそうに吐息を吐いた。
「大丈夫?」
 そう耳元で囁いた耕治は、この質問は美奈との行為の時に癖のように聞いている事を思い出してしまう。
「・・・うん」
 あずさの答えも、いつも美奈の言っている物と同じだった。
 再び沸き上がった罪悪感を無理矢理頭の隅に追いやった耕治は、あずさの膣が異物に慣れるまで動かず、背中を愛撫しながら胎内の感触を味わった後、腰を回して子宮口をぐりぐり刺激した。
「ひっ・・・あはぁぁっ!」
 油断した頃に前触れもなく強烈な刺激を受けて、あずさは大きな喘ぎ声を上げてお尻をピクピク跳ねさせる。
 その声も反応も、姉妹故か驚くほど美奈と似ている。
 もう何も考えないことにした耕治は、肉棒を力強く長いストロークで抜き差しし始め、背後からあずさの胎内を犯す。
「はうっ! ちょ・・・強すぎ・・・あうんっ!」
 固いモノが乱暴に狭い肉壁の間を行き来し、その感触に慣れていないあずさはたまらず苦痛を訴えるが、絶え間なく溢れる密が潤滑油となり、スムーズに動く肉棒が与えるモノは、別の感覚の方がわずかに強い。
 そのことを悟った耕治は、本格的にするのはもう少し慣らしてからにしようと判断し、自分の胸を彼女の背中に密着させ、背後から乳房に手を伸ばして揉む。
「はふぅっ・・・あふっ、あはぁぁ」
 下のあずさにあまり体重をかけない無理な体勢になったので、耕治の腰の動きが制限されて、あずさが少し余裕を取り戻し、更に乳房への愛撫を受け入れて快楽の吐息を漏らす。
 この体勢は、美奈と初めて後背位をした時に不安を和らげるためにして以来、彼女のお気に入りの体位であり、またもや耕治に恋人を裏切っている事を思い出させるが、一旦女性の胎内に進入した男は、他のことなどもはや気にしないものだ。
 薄く汗をかいて全身がしっとり濡れたあずさの肢体を背後から抱きしめ、両手で柔らかい乳房を揉む。
 重力に引かれて量感の増したあずさの乳房は、美奈の小さく未熟な胸とは明らかに違い、その事を使って耕治は美奈の影を追い払う。
 しばらく愛撫と緩い注送を続け、身体も精神も肉棒を受け入れる体制が整ったあずさに、無理な体勢のまま先程と同じペースで肉棒を突き立てる。
「あん・・・ふあっ! はん、あぁんっ!」
 あずさの口から漏れるのは、今度は快楽の嬌声だけだった。
 感じているのは無論あずさだけではなく、耕治も蜜液が溢れる膣孔に肉棒を暖かく締め付けられて、脳が溶けるような快楽を感じている。
 完全にあずさの肢体に酔った耕治は、手の中で揺れる乳房を見たいと思い、深く繋がったままあずさの身体を反転させ、体位を正常位に持っていく。
「あはぁっ!」
 その時に肉棒が膣壁を捻り、あずさが甲高い声で鳴く。
 あずさの前面を眼前に収めた耕治は、汗で濡れ全身から神々しい光を放っている様に見える少女の肢体を、食い入るように見詰める。
 紅潮して快楽の表情を浮かべるあずさの美貌と、腰を突き上げられる度に揺れる形の良い白い乳房、その上で跳ねる充血して尖った乳首を堪能した耕治は、視線を白い腹とへそを経て、下半身の結合部へと移していく。
「あっ・・・やだ・・・」
 快楽に朦朧としていたあずさが、耕治の視姦に気付いて羞恥心から足を閉じようとするが、途中で彼の手が押さえて広げ返し、それを許さない。
 半強制的に開かれたあずさの股間の、愛液に濡れて肌に密着した陰毛と、大きく開いて肉棒を受け入れぐちゃぐちゃと音を立てる秘裂すら、耕治の絡み付くような視線に晒される。
 それはあまりに淫靡で、また美しい光景だった。
「やだ・・・見ないで・・・」
 羞恥のあまり両手で顔を隠し、泣きそうな声で訴えるあずさ。
「奇麗だよ、あずさ」
 少しやり過ぎたかと思った耕治は、顔を寄せて陳腐だが本心からの言葉を囁き、手を握って横に退け涙の浮いたあずさの顔を覗き込んだ後、桜の花弁のような唇を自分の唇で塞ぐ。
「んん・・・ふぅ・・・」
 無抵抗になすがままになっていたあずさだが、すぐに積極的にディープキスを返し、耕治の身体にしがみ付く。
 もう言葉は要らないと考えた耕治は、身体全体を揺らして大きくあずさの膣内を抉り、同時に密着した乳房や肉芽を全身で擦る。
「んんんっ・・・ぷは! あぁぁっ・・・んむぅっ」
 軽くイったあずさは、口を離して大きな喘ぎ声を上げるが、耕治がすぐに逃げ出した唇を追いかけて奪い、彼女の膣内だけでなく口腔も犯す。
 あずさの口の中を耕治の舌が縦横に蠢き、あずさもそれに纏わり付くように舌を絡め返す。
 その間も耕治の肉棒が熱い胎内を突いたり抉ったり掻き回したりし、イったばかりのあずさに変化に富んだ刺激を与える。
 耕治の胸で擦れる乳首も、結合部の上で擦れる肉芽も、あずさを2度目の絶頂へ押し上げていく。
「んっ・・・んんっ! んんんっ・・・ふはぁっ!」
 口を塞がれたまま切羽詰まった喘ぎ声を上げるあずさを、ようやく耕治の唇が開放した。
 大きく息をつくあずさの口から、涎が一筋垂れるが、何故か耕治はそれを汚いとは微塵も思わず、逆に美しいとすら感じる。
「あっ! あはぁ・・・あんっ! ふあっ、ふあぁっ!」
 自由になった口で我を忘れて甲高い喘ぎ声を上げ、耕治の動きに合わせて腰を振り上げるあずさ。
 その声と動きで今にも射精しそうになりながら、耕治は荒い息を吐いてあずさの熱い膣内を無茶苦茶に突く。
「あぁっ! んあっ・・・こうじ・・・ふあぁっ!」
 浅い絶頂を何度も感じるあずさが、涙を流しながら自分を抱く男の名を呼び、腕と膣で締め付ける。
「くっ・・・」
 上り詰める寸前までいった耕治が、腰の動きを素早いものにして、蠢く膣内を肉棒で小刻みに突く。
「あぁぁ、はあぁっ! あんっ・・・ふあっ・・・ああぁっ!」
 頭を振って長い髪を振り乱し、快楽に耐えるあずさだが、すぐに限界に達した。
 男に抱かれるのは初めてではないが、深い絶頂に達するのは初めてのあずさは、全身に走る未知の甘美な感覚に脅える。
「ひぃっ! ダメッ、ダメッ・・・ダメぇぇっ!!」
 身体が落下するような感覚に、耕治の身体に全力でしがみ付く・・・が、感覚上の落下は止まらない。
「はっ、ああっ、ああぁっ!」
 泣き声を上げるあずさの背筋に電流が走り、一瞬遅れて全身の筋肉が張り詰め、振り乱す顔の周りで輝く涙と汗が宙に舞う。
「あっ・・・ああっ・・・あああっ・・・あああああぁぁぁぁっっ!!」
 絶叫に近い嬌声と共に、あずさは今までの生涯で最高の快楽を感じ、食い千切るような膣圧で肉棒を締め上げる。
「くはあっ!」
 耕治はその締め付けに耐えながら最後に数度突き、残っていた理性の欠片を総動員して胎内に射精する本能を押さえ、あずさの膣内から暴発寸前の肉棒を引き抜いて濡れた秘裂に数度擦り付ける。
 その瞬間亀頭の先端が噴火して、断続的に大量の白濁した体液を射精し、あずさの下腹部から鳩尾までを汚す。
 長く続く本当の絶頂を味わうあずさは、自分の身体に熱い飛沫がかかるのを、意識の隅で感じていた。

 己の欲望の全てを吐き出した耕治は、自分の体液がつくことも構わずにあずさを抱しめ、余韻を味わっていた。
 しばらくしてから身を離し、朦朧とした表情のまま荒い息で美しい胸を揺らすあずさを見ると、愛情、友愛、情欲、憐憫、罪悪感、後悔・・・次々と複雑な感情が湧き起こり、軽く混乱する。
「・・・こうじ・・・」
 だが、小さく自分の名を呼び、いとおしいげに自分を見詰めるあずさと視線が合うと、その時湧き起こった感情だけを素直に表現し、もう一度彼女を抱しめた。



 その頃美奈は、教室の窓際にある自分の席に座り、午前中最後の授業を受けながら、木枯らしの吹く外を眺めていた。
「(お姉ちゃん、もう寮に帰ったかな?)」
 姉のあずさは昨日、完全に怪我の癒えるまではと引き止める叔父夫婦を振り切り、今日寮へ戻ると言っていた。
 無意識に視線を数キロ先に見える、自分達の働くPiaキャロットの看板に向けるが、林立する建物に隠れて、その近くにあるはずの寮は見えない。
 退屈な授業を聞き流し、姉へ想いを飛ばすと、必然的に手首の傷へと思考が向く。
 手首の傷=自殺・・・直接的すぎて短絡的ともいえる連想であるが、美奈には動機に心当たりがある。
 姉は包丁の扱いのミスだと言っていたが、その言葉を素直に信じられない。
「(お姉ちゃんも、お兄ちゃんが好きだから・・・)」
 そっと心の中で、姉や恋人の前では気付いていないふりをしている事実を呟く。
 妹の恋人を好きになるなど、潔癖な部分のある姉には耐え難い苦痛だろうが、純粋な感情は理性や理屈で押さえられる物ではない。
 その事は美奈も、痛いほど理解している・・・姉を押しのけて、彼を手に入れた時に。
「(もしお姉ちゃんが、自分の想いをお兄ちゃんに告白したら・・・そうしなくても、お兄ちゃんがその事に気付いたら・・・)」
 自分では、女としての魅力では姉にかなわない・・・美奈は幼い頃から、そう信じ込んでいた。
 それでも美奈は、彼は魅力の差だけで自分を裏切らないだろう、という程度は自分の恋人を信用している。
「(でも、傷ついたお姉ちゃんから平気で目を逸らせられるほど、お兄ちゃんは冷たくなれない)」
 それが彼・・・前田耕治という少年の長所であり、また絶対的に信用できない部分であった。
 普段彼は美奈のために、無意識の内に姉を女として見ないよう気を付けている・・・それは言い換えれば、彼はもう姉に異性としての好意を持っているということだ。
 今彼の目は、普段より確実に姉に向けられており、ちょっとしたきっかけでその事を自覚するかもしれないし、今はそのきっかけが姉の周りに溢れている。
 先刻も考えた通り、純粋な感情は理性や理屈で押さえられる物ではない・・・そうなれば、美奈に彼を繋ぎ止める自信はない。
 その他にも心配が一つ・・・もし彼が下手に冷たく接したなら、姉は今度こそ致命的な傷を心に負ってしまうかもしれない。
 姉のあずさは、周りの人間や姉自身が思っているほど強い人間ではない・・・むしろ人並み以上に弱く、傷付きやすい少女だ。
 妹の美奈しか気付いていない・・・あずさ自身も気付いていないかもしれないが、彼女は昔から妹や親代わりの叔父夫婦の為に、”頼り甲斐のある長女”という仮面を被っている。
 しかしどんな仮面を被ろうとも、その下には驚くほど繊細で脆い素顔があり、美奈も(半ば以上”素”だが)理想の妹の仮面を被り、なるべく姉に無理をさせないようにしてきたのだ。
 だが今までそうしてきたからといって、姉のために彼から身を引くことなど出来そうにないし、例え美奈がそんな事をしたとしても、今度は姉が自分自身を許さないだろう。
「(お兄ちゃんと、お姉ちゃん・・・美奈はどうすれば良いの?)」
 どちらも美奈にはかけがえのない存在で、どちらかを優先することなど出来そうにない。
 また、もしどちらかを取ったとしても、確実に両方が傷付き、下手をすれば両方を失うかもしれない。
 恋人への想いと姉への想い・・・二つがどろどろに混ざり合って、美奈の思考は袋小路へ迷い込んでいく。

 この時すでに、美奈の想像する最悪の事態の大半が現実の物となっていることに、今の彼女が気付くはずもない。



 欲望の後始末をした後、ベッドの中であずさが耕治にすがり付くと、耕治は当然のように受け入れてくれた。
 その優しさと温かさが、あずさには有り難く、また辛い。
 彼の温もりに頼り切ってしまいそうな自分に気付き、それから何とか決別しようと、あずさは全てを話すことにした。
 ずっと抱いていた自分の想いと、手首を切った理由・・・あの日、彼と妹の愛し合う行為に聞き耳を立てて、自分が何をしたのか・・・
 自嘲気味に死んでも知られたくなかった事実を語り、彼が自分に愛想を尽かせてくれれば良いと思った。
 しかし全てを聴き終えた彼がしたことは、涙を流すあずさを黙って抱しめることだけだった。
 この状況で話せば、彼は必ず受け入れてくれる・・・そう無意識に計算したのではないかと、あずさは自分で自分を疑う。
 正直に話すことで、今まで背負っていたものは軽くなったが、彼女は新たにもっと重い負荷を背負ったような気がした。
Piaキャロ2R 第2話「弱い部分」

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