Maker's Made

Maker's Made 6th Story
 叫んだ後にいきなり冷静さが体の中に戻ってきた。体は弄ばれているが周囲の状況を確認できるほど醒めていた。こんなことは今までに一度も無かった。普通ならただ性欲に振り回されるだけのはずなのに、だ。
 どうも、あたしはさっきのエレベーターから離れ、部屋の中心部まで引きずられてきたようだ。周囲ではなおも嬌声と咆哮が入り混じっている。さらに天井あたりにはモニターが付いているようであの男の汚い顔とひきつった笑顔がその一つに映っていた。しかし、状況を把握したところであたしには抵抗の余地は無い。
「あぐ…あぁん!」
 体の内部を突き上げる衝撃がリズミカルに痛みと快感を与えてくる。頭は冷めているが体はもう完全なる性の奴隷である、魔物の巨根の動きに合わせ、自らも腰を精一杯動かしている。
(もう……駄目なのかな…)
 絶望しか目の前に無い。冷静さを取り戻したのが逆に辛い。このまま狂っていればこれから先の運命を考えずにすんだであろうものを…
ガァン!
「!」
その部屋にいるすべてがスピーカーから流れてきたその破壊音に驚いた。
「ここか…」
 男が映っていたモニターとは別の画面に黒髪の青年が映った。レイだ!
「大当たりだ。お前もこの施設の一部となって……違うな…」
 汚い男がその台詞に続いた。おそらくここの上層に2人はいるのだろう。
「かすみさんは…何処だ…」
 カメラがレイの顔をアップで映した。その表情は冷たかった。今までの笑顔はただの幻だとでも言いたげにその顔は殺意に満ちていた。
「『クリムゾンデモンブライド』のことか…見せてやるよ。」
 ……何が起こっているのかさっぱり分からない。が、レイの顔が何かに照らされて明るくなっていた。
「…彼女達を解放しろ、そうすれば五体満足で帰してやらんことも無い。」
 今言った言葉から分かった。彼はあたし達が化け物に犯されているところを見せられているのだ。しばらく麻痺していた羞恥心が再び頭をもたげ始めた。目頭が切なくなり、顔を隠そうと手で覆ったが巨人の一体に遮られた。
「ほぅ私を捕獲するつもりか、まぁ焦るな。…こういった趣味でないならこちらで楽しんでもらおう。私の最高傑作だ。 バディ!上がって来い。」
「コードネームMaker…この場で確保する。」
 レイは今まであたしに見せたことも無いような凛とした声を出した。それから、女性たちを輪姦していたうちの1体が立ち上がり、エレベーターに乗り、上へと上がって行った。
「レイ!」
「……すみません、かすみさん。出来るだけ早くに助けられるよう、努力します。」
 モニターに映っているレイは確かにそう言った。
ガコン
 一つのモニターがその巨人の一団を見せた。
「さぁ…私の最高傑作達だ。せいぜい抗ってくれたまえ。」
「…悪いな。こっちにゃ楽しんでられるほどの悠長な時間は無いわ。早う終いにしたるわ。」
巨人たちは壁にかけてある巨大な剣を6本すべての手に収め、構えた。
「こいつらには知能がある。剣技も教え込んであるから十分に楽しめるだろう。いけ!」
 巨人たちは映像から消え、現れながらレイのいるモニターにたどり着いた。一匹目がすべての手を広げ、一気に挟み込んだ。
 一瞬ひやりとしたがレイはその怪物の背後に着地し、胴体に剣を突き立てた。が、それは金きり音がして弾かれた。
「レイ!そいつらの体に剣は効かないわ!注意して!」
 この下半身の疼きとあたしを捕らえて離さないこの怪物を倒すことが出来れば加勢が出来たのに…などと考えたが、それもすぐに消えた。あたしが行ったら逆に足手まといになる。さっきもそうだった……とすぐに思い直した。
「アドバイスありがとう、かすみさん。そんじゃ、行きます。」
 すると彼の持つ剣が青く光り始めた。そして先ほどと同じ部分、同じ速度でその部位を切りつけた。すると、一切弾かれることなく、いや、一切の抵抗が無く演舞をしているかのごとくスムーズに切断した。
「なっ!?」
誰でもそう思っただろう。だが、巨人の胴はずるりと落ち、崩れた。
「いくらなんでも生物の限界までは超えてないか…」
 味をしめたように彼の動きは良くなり、20秒ほどで10体すべてを切り伏せた。凄い、その一言ぐらいしか喘ぎ続ける口から出なかった。
「なぜだ!?なぜ私の最高傑作の装甲を突き破れる!?」
「簡単な話だ。衝撃には強いが所詮生物だ。熱の方に耐性があるとは思わないね。」
「………」
「しかも、今のは10000℃クラスの高熱だ。はっきり言って小さい太陽を受け止められるかという話だ。無理だろ。」
 形勢は一気に逆転した。もう、相手はレイに何も対抗できない。そう思っていたが…
「がああああああああっ!!!!」
 男はやけくそになりながらレイに突進して行ったようだ。モニターを移動していることから距離が縮まっていることが良く分かる。そして二人が同じ画面に映ったときにレイは横へと避けた。なぜ、彼ほどの精凝器の力を使える人物ならこれぐらい受け止められるはず…
 が、その理由は単純であった。別のモニターのあたりから石が砕けるような音がした。そこはコンクリートの壁であったが、深く抉れている。そう、あの男も精凝器行使者であった。
「ふぅん…それなりに使えるようだな。」
「……貴様…私のコレクションを…」
「ほぅ、まだ向かってくる根性があるようだ。身の程知らずか…戦士としては3流以下か…」
「そんなもの…!」
 再び駆け出したその男をレイは触れることなく突き飛ばした。そして、男が崩れたコンクリートの画面に映ったときにこう言った。
「セカンドゼロ…この通り名は知らないのか?」
「!!!」
「それが俺だ。お前とは格が違いすぎる…さぁ、下の女性を解放してもらおう。」
「ぐっ、私の特殊能力を把握してから吐く台詞だな!『セカンドゼロ』!」
 すると奴の左腕は形を失った。グジュグジュと形を変え、小さなパーツに分裂した後、部屋中に飛び散った。
「………」
 そんな中でも彼は冷静に見えた。剣を構えた状態を崩さず、目の前の敵に視線を注いでいる。
バシュ!
 どこかのスピーカーからそんな音がした。そして、レイが大きくよろめいた。なぜだか分からないが顔を手で覆っていた。しかし、怪我は無い。
「ほぅ…防御できたようだな。でも、次はどうかな?」
「くっ…」
 レイは何者かによって踊らされていた。あちこちのスピーカーさっきの発射音が聞こえ、レイはそれに合わせるようにして動き回っていた。レイが避けた部分には無数の弾痕が現れた。
「ふふふふ…私の精凝器は部屋中に撒いた小さな部位。そこからでも精凝器の力を行使できるというものだ。全方位からの攻撃をお前だろうが防ぐことは出来まい。」
「やっぱり戦いは三流だなあんた。ネタとタネはもう少し引っ張らないと面白くないな。」
そういうとレイは立ち止まった。画面からは何も分からない。が、奴の顔がいがむ。
「……どういうことだ!私の攻撃が効かないなど!」
「やっぱりふざけてるなあんた。二流以上の精凝器行使者なら自分の周りに常時エネルギーのバリアを張るのが普通だ。そんなことも出来ないし、知らない人間がいくら強化したイミテイターを作ったところで…精凝器行使者には勝てない。つまり、兵器としては失敗作のままだ。」
「しかし、これは防げまい…!」
 爆発音がすべてのスピーカーから流れた。レイがさっきまでいたモニターは白煙で満たされていた。まさか……
「ん〜確かに火力を上げた攻撃は防げない。だがな、俺はある能力に目覚めている…実はな、周囲1km以内にあるエネルギーの存在を脳内で視覚イメージ化することが出来るのさ。一度エネルギーを放ったあんたの腕のパーツのありかを全部言い当てることも出来るさ。」
「…ぐむ…」
 再び爆発音。今度もレイのいたモニターが白く隠された。しかし、今回は他のモニターすべてが白い…まさか…
「発動するのを確認して避けることを見越して全方位に放ったのはいい考えだ。しかし、自分の方に飛んでこないことなんて分かるさ。悪いが、エネルギーを見る目を得て以来、半端無く神経系が活性化してるんでな。世界がスローかかったように遅く感じられるんだよ。このぐらいの攻撃なら『見てから』避けられるね。さぁ、観念しな!」
  そうするとレイは衝撃波を連続で放ったようだった。その威力に哀れな男は壁際でのたうち回り、うずくまった。

・・・・・・・・・・

 レイがジーンズのポケットから取り出された特殊な形をした手錠をかけられたそのメイカーなる男はレイの言うことに素直に従い、エレベーターを二人して降りて来た。その侵入者を察知したあたし達と交接していた残りの怪物はすぐに警戒に入ったものの、1歩も踏み出す時間も無いうちに首が飛んでいた。
「『堕天使は笑うか、否か!』」
彼が叫んだ。すると項垂れる女性の中の一人が…
「はぁ…『否…堕天使は神の裏の顔なり……笑うことなし』…はぁ…」
 どうも彼の仲間がいたらしい。あたしよりも先に彼女の方へと駆け寄り、話を聞いていた。しばらくしてあたしのほうによってきて抱きついてきた。
「あっ!?」
「……すみません。僕の…失態で…」
「それよりも、あすみの事、ここにはいないわ。」
 そう、敵がいないので分かるがここには紅い髪をした人物はいない。
「どういうことだ!」
 レイがメイカーの胸倉を掴んで問いただす。
「クククク…この先のマザールームにいるさ…あそこの扉だ…」
「かすみさん、行ってきます!」
「待って、あたしも連れてって…」
 彼が行きかけたが、すぐに足が止まり、こちらに振り向いた。するといきなり顔が赤くなった。
「……あなたはここで女性達とこの下衆野郎を確保していてください。僕一人で十分です。それに、あなたがまた危険になるかも知れませんし。」
「………」
「それに…一糸纏わぬの女性と一緒になって戦うなんてキツイでしょ。」
 あたしも顔が赤くなった。そういえばあたしや他の女性は生まれたままの姿でいるわけだ。
「…わかった。妹を…お願い…」
 彼は頷いた。その顔は笑顔に戻っていた。彼が駆け出そうとしたとき地響きが聞こえた。
ゴゴゴゴゴゴ…
「何?地震!?」
「違う、人口浮遊島(メガフロート)で地震なんてあり得ない!?」
「ククク…マザーが来たようだ。」
 汚らしい服が哀れさをさらに演出している男がそうこぼした。すると正面の扉が何者かによって踏み倒された。中から出てきたのは…
「あすみ!」
「お姉ちゃん!そんなところにいたんですかぁ!」
次に壁が崩れてきた。その奥から緑の塊がこの部屋の寸法いっぱいになって迫ってくる。
「どうしたのよ!あれは何!」
 あすみに焦りながら聞いた。
「それはあすみが聞きたいですぅ!真沙羅君と一緒に攻撃しても全然きかないんですよ!」
 確かに、あすみの使い魔の猫又、『真沙羅』が肩の上に乗っていた。
「僕の魔力とあすみちゃんの魔力を併せても意味が無いね。とてつもない生命力だよ、これは…」
 猫又が冷ややかにそう言った。(猫の分際で!!)
「あれが…この施設の中核、すべてのコレクションの母であり、私の仲間の成れの果てさ。今ではあんなに巨大化しているがね。イミテイターを基盤とした生物は胎内に着床1週間で出産するため、当初、母体は養分を胎児に吸い取られて死亡する。だが、アレのおかげで安全な生産が可能となった。老廃物はもちろん、すべての物質を分解、再構成できる体を持った私の仲間は母体に高濃度の栄養分を与えたりと、臨月までの世話をしてくれる。アレこそが私の研究の…真髄だ!」
 あのスライムが元人間だったなんて。あそこまで第三次生物に侵食された人間はついぞ見たことがない。
「おっと、人質の8割がたはあの中で世話を受けている。全員助けたかったら攻撃しないことだな。」
「……!…なんだと!」
 こちら側では緑の体の内部は見えない。つまり、うかつに攻撃をすればこの生物はおろか、今まで連れ去られてきた人たちも巻き添えにしてしまうということだ。そして、そのゲル上の壁はゆっくりとこちらへ寄ってくる。逃げ場無し。もう、八方塞である。
「……やるしか…無いですね。」
 レイがそう切り出した。
「かすみさん、私が指示するとおりに各部位を切断していってください。」
「レイ!あなた何言ってるのよ!一般人を殺す気!?」
「レイの言っとることはちゃんと筋が通ってる。安心せぇ。」
後ろを振り向くと4人の人物が立っていた。
「お前等!ナイスやな、ホンマに!」
「で、エネルギーの位置が分かるんやったらオッドアイは覚醒済みか?」
 背の小さい男の子(?)がそう言った。
「ああ、当然。Breading!!俺がつけたマーカーまでの組織を破壊それを俺とサンゾー、サラでやる。その部分から誘拐された人物の救助、マコト、カイ、頼むで。ウネウネしてる触手に絡まれないように!」
「分かったよ。ほんとなら一発でふっ飛ばしたいとこなんだがな。」
髪の長い青年がだるそうに返事をした。
「報酬5割減は痛いしね。」
 その中で唯一の女の子がそう付け加えた。
「それじゃ、行きますか!」
 レイがそう叫ぶと一斉にその4人とレイの5人がその肉壁へと飛び出した。
そこからは正直良く覚えていない。全員精凝器行使者なのか重力や風の抵抗、筋力の常識を超越した動きで仕事を始めたからだ。さらに、今まで襲われていたことにより疲労がピークに近かった。なので、余計にその現場を見る機会を失った。あたしは妹に支えられないと立っているのも困難な状態だった。
 しばらくして、5人の動きが止まった。
「終わりか?」
 一番体躯のいい短髪の青年が言った。
「ああ。止めを刺す。」
 そうレイが返答したぐらいから部屋中の空気がレイの側へと強く集められ始めた。5秒ぐらいそれが続いただろう。空気の動きが止まった。するとレイの左の手のひらには青白く、真珠大の大きさの球体が浮かんでいた。
「…ごめんな。もっと早くに救いたかったんだが…せめて、楽に…」
そう、小さな呟きが聞こえた後、煌々としたその珠を握り締め、拳を前へと突き出した。何が飛び出したかはレイの後ろから見ていたので分からなかった。だが、さっきの作業でいろいろな部位がえぐられ、ちぎられていてなおも蠢いていたその『元人間』はレイの放った『球』による爆発で跡形も無くなるほどに吹き飛ばされ、活動を停止した。
「……やったの?」
恐る恐るレイにそう聞いた。
「はい、Mission Complete ! お疲れ様です。」
 あたしと妹にいつもの笑顔でそう声をかけてくれた。あたし達はつられて笑い返した。

しかし、気になったことが一つある。彼の左目だ。以前に見たときは外国人独特の碧眼だったのに、今では爬虫類のように瞳孔が縦に広がり、銀に輝いていた…その理由を知ったのはこの後のことだった。

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惜しかったなぁ…あのときにちゃんとあなたに接しておけば……「無理だ」って?……どうかしら?………いつになく自信に溢れてるって?…う〜ん、まぁいろいろあったからかしら。ふふふ…でも、別れる前のことは今でもショックだな………うん、そうだね。ふふふ、今の台詞、「年寄りくさい」わね!………あははは………うん、それでもあたしは…慣れてるし、いろんなことに期待したり、それに裏切られて凹んだり…みんな、そうやって強くなっていくんじゃないかな?………

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〜〜〜6th Story End〜〜〜

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