Odd Mens In The Halloween |
ODD MENS IN THE HALLOWEEN |
朝の大阪、三宮の駅前広場。空気が澄み切っている。 車が多く通っているが、気になるほどではない。 一人の女がベンチに座っている。駅前広場の中だ。 女は胸がでかく、赤髪をポニーテールにしていた。 彼女は西野かすみと言う退魔師だ。 代々退魔師の家系で、母親は業界ナンバー1の魔術師だ。 だが彼女はいまいちぱっとしない。 「よお、あんたが西野かすみさんか?」 カウボーイハットに皮ジャンの男が彼女に話し掛ける。 「ああ、あんたが応援の…」 かすみは嫌そうな顔で答える。 「協力だぜ。小島勝一だ。まあ、よろしくな」 小島は紫煙を吐いた。煙草の煙が空に舞っていく。 「どっちでも変わらないわ。資料はこれよ。そっちはどこまで解ってるの?」 小島は資料を受け取った。小島は座らずに煙草をふかす。 「まあアテぁあるさ。こんだけありゃ、奴をシメるなあ難しかぁねえ」 小島が歩き出し、ついて来いと合図する。 「そう、大した自信ね」 あまり会話は弾まなかった。かすみは妹のあすみとの会話を思い出す。 「おねえちゃん、仕事が!仕事が来たですぅ! 退魔師協会からでぇ、使い魔の密売の摘発だって書いてありますよぉ!」 あすみはやや明るい色のショートカットだ。 彼女たちの事務所だ。そこでの会話だった。 「でかしたわよあすみ!それで相手はどんな奴なの?詳しく聞きたいわ」 あすみは資料を渡す。子供っぽい声だ。 「ええっとぉ…相手は魔術師さんで、ジャック・オランタンさんですぅ」 「いつもだけど敵に「さん」づけはやめてって言ってるでしょ?」 かいつまむと要約はこうだ。 相手は魔術師ジャック・オランタン。 オランタンは素人に妖魔を密売していた。その悪用で多数の被害を出している。 それを捕縛、もしくは捕殺することが彼女たちの任務だった。 「でもこれ大阪よ?交通費とか出るのかしら…」 大阪は土地鑑の無い場所だ。かすみは依頼に不安を感じる。 「それなら安心ですぅ!交通費全額免除に案内人さんもいるそうですよぉ!」 あるみが明るく言った。楽天的な性格の娘だった。 「案内人?」 それが小島勝一だった。 ジャック・オランタンが男を誘拐した。ある会社に頼まれての事だった。 小島はその男を取り戻す依頼を受けていたのだ。依頼人は男の家族だった。 誘拐された男は汚職がらみの証人だ。 都合の悪いことを喋られせないための誘拐だ。殺さずとも黙らせる手段はいくつかある。 そして小島は大阪の男だった。かすみとの協力は好都合だったのである。 そうして、小島とかすみが三宮にいる。 「オーケー嬢ちゃん、ここで待ってろ。ちょっと話つけにいくからよ」 地下街の前だ。天井を這う配線に汚水にぬれる地面、漂ってくる料理の匂い。 昼でも暗いアンダーグラウンドな雰囲気があった。 「そう、あたしはここで待ってた方がいいのかしら」 小島はしばらくかすみの目を見る。 「そうだな。こっから先は行かねえのがいいだろうよ。嬢ちゃんにゃ目に毒だ」 小島は静かにだかきっぱりと言う。 「人を半人前みたいに言わないで。やっぱりついて行くわ」 かすみは長い赤髪を揺らした。小島は舌打ちをする。 「なら構わねえがな…ここにゃここのルールってもんがある。 そいつだけは知っててくれよ?面倒はごめんってぇ奴だ。解るか?ん?」 二人は足早に歩き出す。露天の商人が迷惑そうに見ている。 「はいはい解ったわよ!面倒は起さない!これでいい!?」 「だから心配だってんだ…」 地下街の路地は曲がりくねって、だんだんと暗くなっていく。 幅は人が3人やっと通れるくらいで横に怪しい店が連なっている。 「あれ、L−Dじゃない…なんでこんな所に売ってるのよ!」 かすみが小声で囁く。 「言ったろ?ここぁそういう所だってこった。放っといとくこったな。 大した代物じゃねえ。そう物騒なこたぁしねえのはここの不文律だ。 店先で暴れんのもNGってもんだぜ」 かすみは納得しない顔で頷いた。 「そう…わかったわ」 地下街はどんどんと続いていく。 地面は黒く染まったコンクリートで、天井は配線が絡まりあい蛇のようになっている。 店先には過激なものが増えていたが、かすみは極力見ない事にした。 そうして彼らはその店先についた。根津ペットショップと書かれている。くすんだ色合いの看板だ。 表には兎や犬やらを売っておる。だが奥からは魔物の気配がしていた。 「ちょっと!魔物の密売は第2級違法行為よ!あんたそれを解ってて…」 小島がかすみを口を塞ぐ。そして耳元で囁いた。 「んなこたぁ知ってるさ。ここぁちゃんとした使い魔の売り場だよ!闇高野の認可も受けてるぜ。 ちゃんと認可印があんだろうが!」 やはり小声で言った。 退魔師の中には魔物を使う能力者もいた。魔物も人間を襲うものだけでもなかった。 だから人間に使われる魔物、使い魔というのがいるである。 退魔業界も資材不足のため、民間に使い魔の販売を委託することがある。 「やあどうしましたいジョーの旦那。今日もいいのが入ってまさぁ。 黒塚で採りたての雷獣ですぜ。おや?そこの美人はどなたですかい? 女でも作る気になりやしたか」 かすみが小島を振り払って叫ぶ。 「誰がこんな男なんかと!それよりもあなた!魔物を売り買いするなんて何考えてるの!? 魔物の味方をするなんておかしいわ!」 待て待てと小島が割って入る。 「まあ落ち着きな。主義主張は結構なこったがここぁそう言う所だっつったろ? それにあんたは使い魔が気に入らねえみたいだがそれ言っちまうのは俺はいただけねえな」 かすみは使い魔自体否定する。しかし使い魔は退魔師にとって不可欠であった。 「どうしてよ!あんなものは殺すしかないのよ!人のものだとか知った事じゃないわ! 魔物は殺す!それがあたしの正義よ!」 かすみは怒鳴る。今まで我慢してきたものが噴出したのだ。 「ハッ。こんなセリフ聞いた事あるか?「悪魔みたいな人間もいるが人間みたいな悪魔もいる」ってな。理屈ぁ解んだろ?そういうこった。それに使い魔を否定しちまったら困るのはあんたら退魔師だぜ」 小島は面倒臭そうに言う。 「そうよ!悪魔みたいな人間と悪魔は殺すだけしかないのよ!他人のだとかそんな事知らないわ!」 彼女は10代のころ、誘拐され魔術師やその使い魔にレイプされた経験がある。 その上娼館に売られもした。 それが魔物とそれを扱う者に異常な憎悪を抱かせるのだ。 「ハン。やっぱり手前の理屈はそうか。昔に何があったか知らねえがな。 いつまで泣いて喚いてるつもりだ。そんな奴ぁどこにでもいるんだよ!」 だが小島はそんなのは自分勝手な理屈だと断じる。 その悲劇もありふれたものでしかないと告げた。 「あなたに何が解るっていうのよ!」 彼女は小島の頬をひっぱたいた。 だが小島は避けずにぶたれていた。かすみに気づかれないように呪符をばら撒く。 「ハッ。たしかに俺の勝手な考えにしかすぎねえがな。でもこんだきゃあ解るさ。 手前に口で言っても通じないって事ぁな!!」 小島がかすかに呪文を唱える。かすみの周りに泥でできた手がいくつも出てくる。 泥手は彼女の足を掴んでしまった。 「やっぱり下種ね…」 かすみは背中の筒に仕舞っていた日本刀を抜く。 彼女が朱雀と呼んでいる刀だ。 朱雀で彼女は泥の手を切り裂くがすぐに再生される。 液状のものを切っても意味が無いのだ。 「くっじゃあ…」 彼女の刀の周りに水滴が集まって氷の塊になる。 彼女は氷の刃を飛ばした。霧刃という彼女の必殺技である。 彼女を抑える泥手は吹き飛んだが次の手が迫ってくる。 「じゃあな。しばらくそいつらと遊んでるこった。 俺ぁ仕事してくるぜ」 ふと見ると小島がいない。店も何時の間にか廃墟になっている。 小島の声はその中からしていた。 「幻術!?やっぱり下種ね…」 かすみは朱雀を構える。 一方小島は根津の店の中で椅子に座る。 「すまねえな。ちょいとゴタついちまった。迷惑料にとっとけ」 小島が千円札を何枚か根津に遣す。 根津はハンチング帽子に汚れたコートを着た、小猾そうな男だった。 「へっへっ、お互い様でさぁ。で、今日は何の御用で?女連れで買い物ってわけじゃあなさそうでやすねぇ」 根図が揉み手をして笑う。 「まあな。根津。手前はジャック・オ・ベアー仕入れてるよな?」 小島が煙草を吹かす。煙はゆっくりと立ち上る。暗い店内には似合っていた。 「へえ。それじゃ仕入先の事ですかい?確かにジャック・オランタン様でさぁ。 捕り物が始まるんで?」 小島は黄ばんだ古椅子を動かす。根津は用心深い男だった。地獄耳である。 「そういうこった。売ったなぁ、こいつらか?」 小島はかすみの手渡した資料を見せる。 「へえ、2、3人は心当たりがありやすねえ。へっへ。いつもお世話かけまさぁ」 小島は根津を逃がす代わりにジャック・オランタンの情報を手に入れるつもりなのだ。 「ハン、持ちつ持たれつって奴だ。気にするこたぁねえ。で、奴はまだ三宮にいるのか?」 根津はにやにや笑って手を出す。ここから先は別料金でさぁ、と顔が言っていた。 小島は苦い顔でさらに万札を2枚出す。 「へへへどうも。そうですぜ。少なくとも取引は三宮でやりやしたねぇ… あと、そのジャック・オ・ベアーの残りがありやすが買っていきやすかい?」 オランタンの位置を特定するにはジャック・オ・ベアーが不可欠である。 使い魔など、相手に関わったものがあると魔術は成功しやすい。 それを見越して根津は言っているのだ。 「割増は効くか?」 小島がめんどくさそうに言った。 「へえ。お礼も兼ねまして、4万7千でさぁ。適当でやしょ?」 丁度小島が出せる限界の額だった。小猾い商売人だ。 「相変わらずだな手前は。まあそう言う所が頼りになんだけどよ」 小島が万札を出し、木札を受け取った。その中に魔物が封印されているのである。 次に小島はケータイを取り出した。そしてどこかへ電話する。 「よう、兎の旦那。元気か?仕事の話だ」 電話の先の声が答える。賢そうな、冷静な声だった。 <はい、小島さん。今日は何をお探しですか> 相手はワイト・ロビーと名乗る魔術師だった。結界系の魔術を得意とする男だ。 「人だよ。悪ぃがちょいと来てくんねえか?場所は根津の店だ」 小島が店の場所を言う。 <わかりました。3分ほどすればそちらに行けると思います> 魔術師は転移できる魔法も身につけていた。 「オーケー。相変わらずだな。頼むぜ」 <はい。少々お持ちください> 小島は電話を切ると根津の店を出る。 「じゃあな。商売人」 「へへへ。毎度あり」 小島は通路に出る。かすみは泥手に掴まったままだ。壁に貼り付けられている。 だがそれだけで何もされていない。 「このクズ!許さないわよ!」 かすみはもがいているが、勝負はついていた。 「まあ待ちな。もう少しすりゃあ奴の尻尾は掴めるぜ」 そう言うと小島はドアをあける。先ほどまで無かったドアだ。 青い扉で兎のマークがついている。 これがワイトの魔術だった。結界内ではある程度自由自在なのである。 彼の結界は三宮を覆っていた。 ドアを開けるとそこは古風な英国風の部屋だった。 落ち着いた色の家具、黒く輝くフローリングに洒落た小物類。 その奥にワイトはいる。彼は椅子に腰掛けていた。丸テーブルでお茶を飲んでいる。 「よお、兎の旦那。また会ったな」 小島が気安く話し掛ける。 「ええ。3日ぶりでしょうか。誰をお探しですか」 ワイトは兎の頭に人間の体がついていた。半魔、いわゆる魔物と人のハーフなのだ。 上等なスーツを着てコリコリとニンジンを齧っている。 「こいつさ。ジャック・オランタンだ」 小島が魔物を封じた木札を渡す。 「ふむ、使い魔ですか。これなら大丈夫でしょう。少々お持ちください」 ワイトは空中から地図を取り出す。そして木札に手を当てると、呪文を唱えた。 広げられた地図に赤い点が出てくる。インクがにじむような感じだった。 それはある廃ビルを指していた。ジャックオランタンの居場所だ。 「これで良いですね。おそらくはここかと。料金はいつもどおり5万円です。 領収書は今出しましょう」 ワイトが開いた手にはすでに領収書があった。 「OK、相変わらずいい腕だな。金は振り込んどくぜ」 小島は言うとドアに向かう。 「はい。毎度ありがとうございます。幸運を」 後ろでワイトが言った。小島は軽く手を振る。 外に出るとかすみはまだ抑えられていた。 「放しなさいよこの馬鹿!」 かすみは小島を睨む。 「言われなくても。今放すぜ」 小島が呪文を唱えると泥手は紙に戻り、小島の手元に戻った。 「このっ…!」 かすみの拘束が解かれる。かすみは朱雀で小島に斬りかかった。 小島はジャンプして避ける。天井の配管に捕まり、トカレフを抜くとかすみを撃つ。 「ぐっ…」 足を狙った銃弾はかすみのかかとに当たった。 かすみは体勢を崩して倒れる。小島は天井からジャンプすると、かすみの前に立った。 「立てよ。こんなもんじゃねえだろ?お前はよ。ムカつくならかかって来い! でもその前にこいつをやるよ。奴の居場所だ。あと奴の使い魔も置いとくぜ。せいぜい参考にするこった」 小島は地図と魔物を封じた札を置くと、走り去っていった。 「早くしねえと俺が全部片付けちまうぞ!」 遠くから小島の声がする。かすみは呪文を唱えた。ジャック・オ・ベアーが木札から出てくる。 「人を馬鹿にして!許さないわ…言われなくても行ってやるわよ!」 かすみは地図をしまうと、ジャック・オ・ベアーと向かい合う。 「自分を攻撃しろ」かすみはそう命令を出した。 かすみは使い魔は嫌いだ。しかし基礎知識として扱い方は知っているのだ。 ジャク・オ・ベアーはハロウィンのカボチャ提灯に人間の胴体をつけたような姿だった。 幼児位の大きさで体はミイラのようだ。鋭い爪と牙がある。 「ふうん…大した魔力はないわね…本来は人海戦術で使うものなのかしら?」 ジャック・オ・ベアーが牙を向いて飛び掛ってくる。 かすみは爪の一撃を朱雀で受け止めた。そのまま蹴り飛ばす。 ジャック・オ・ベアーは遠くに飛んだ。しかしまだこちらに向かってくる。 「やる気満々って感じね…いくわよ!」 かすみは霧刃で氷を飛ばした。1本は敵に当たったが残りは避けられる。 さらに敵は腕からツルを出す。魔物はツルを周りのものに引っ掛けて飛んだ。 ツルを使って不規則な動きで近づいてくる。 「やるわね…じゃあこれはどう!?」 霧刃の連打だ。氷の刃がいくつも敵に向かう。 だがすでに敵は近づいていた。 天井に張り付いて避けるとツルを鞭のように使って攻撃してくる。 「この程度で!」 かすみは刀でツルを切り払う。ジャック・オ・ベアーは蔦をいくつも出して攻撃してくる。 だがそれも全て切り払った。 かすみは思い切りジャンプすると天井に張り付くジャック・オ・ベアーを突き刺した。 魔物の体から血が吹き出て、魔物の体が崩れていく。 かすみは勝ったのだ。 「馬鹿にしてくれたわね、あいつ…絶対見返してやるんだから!」 かすみは地図を手に走り出した。 |
次頁>> |
[ インデックスへ ] |
Odd Mens In The Halloween |