『本当の悲しみに直面した時 人は笑うしかない』


私は笑わない



『至上の愛は たやすく至上の憎悪に変わる』


私は怒らない



『悲しみに涙が枯れ果てても 人は血の涙をも流し続ける』


私は泣かない



あんなに悲しかったのに

あんなに愛していたのに

あんなに涙を流したのに


ならば私は狂ってしまったのか

心も鋼に包まれたのか



誰か

私に

教えてほしい


誰か

私を

助けてほしい



心の叫びは もう私自身にも聞こえない

外界への扉を閉じて 心の中に閉じ篭る

そこは冷たく 暗く 乾き 荒んで


やさしかった



私は笑わない――







































「今日の御夕飯はカレーを作りますです」

 調理場の中は、私とセリナの2人だけ。
 珍しい状況だ。
 いつもセリナの傍から離れないクリシュファルス君は、浴室の掃除中。

「美味しいカレーを作って、クリさんと旦那様をびっくりさせてあげましょう……です♪」

 頬に片手を当てながら、静かに微笑むセリナの横顔は、オレンジ色に染まっている。
 窓から差し込む夕焼けはあまりに鮮やかで、電灯をつける必要が無いくらい。


 ……奇妙な話だけど、セリナには夕焼けがよく似合う。
 希望の夜明けでもなく、晴々とした上天の日差しでもなく……
 全てを闇に閉ざす黄昏が。
 ……何故なの?


「〜〜♪〜〜♪〜〜♪カレ〜はカレ〜♪リンゴとハチミツ入れ過ぎたら大変な事に〜〜♪ですです〜〜♪」

 何度聞いても、セリナの歌は意味不明。
 ジャガイモと呼ばれる野菜を指の上でクルクル回転させながら、ナイフを当てて機械のように皮を剥いているセリナ。
 凄い。
 私はひたすらタマネギを炒めている。
 簡単だ。

「……あ!!カレー粉を持ってくるのを忘れていましたです!!」

 30個近いジャガイモの皮を2分もかからず――芽も綺麗に取っている――剥き終えたセリナが、はっとしたように手を鳴らす。
 
「あ、それくらい炒めれば大丈夫ですよ……あのぅ、大変申し訳ありませんが、私がカレー粉を取りに行く間に、ジャガイモを角切りしていただけないでしょか……です」
「了解」
「ありがとうございますです。それでは失礼します……です」

 深々と頭を下げて、セリナが退室。
 夕陽に溶け込む様に消えていった。
 ――ジャガイモの角切り。
 初体験だ。
 事は慎重に処理する必要がある。
 上着の袖をまくる。
 先日届いたばかりの、私専用のメイド服。
 セリナがコーディネートしてくれたけど……ピンク色はやめて欲しかった。
 翼用の穴は開いている。胸のサイズも問題無い。
 ……悲しい。
 それよりも角切り。
 ジャガイモを板の上に乗せる。
 包丁を押し当てる。

 ……ごくり。

 少し緊張。
 ミッション――ジャガイモの角切り――開始。
 えい。

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 ジャガイモが転がり落ちた。
 ……洗えば衛生上は問題無い。
 再チャレンジ。
 むん。

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 ……もう一度。
 とりゃ。

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 てい。

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 ぐいっ……ごろん……ころころころ……

 ……難しい。
 包丁で押し切ろうとすると、どうしても転がり落ちてしまう。
 単純にジャガイモを包丁で破壊したり、粉微塵にするのなら簡単だけど……調理に適した形状に揃えるのは、料理初体験の私には相当困難な行為。
 使い慣れた刃物なら、何とかなるかもしれない。
 『武器を選ばない』のは戦闘者としての最低条件。でも今の私はメイドだ。このくらいの妥協は許して欲しい。
 義手から超重高速振動エストック“ヴェンデッタ”を取り出す。
 長さ1.5mに達する長剣だけど、幾多の戦場を共にしたこの愛剣なら、体の一部も同然に扱う事ができる。
 本来ならエストックは突き専門の武器。でもブレードモードにすれば、特殊重階層固体魔導装甲でもバターのように切り裂く事が可能。
 スイッチを入れる。
 刀身の周囲が陽炎状に歪む。腕に心地良い振動が伝わってくる。
 ジャガイモを板の上に置く。
 “ヴェンデッタ”を押し当てる。

 ……ごくり。

 もう失敗は許されない。
 ミッション――ジャガイモの角切り――再開。
 えい。

 轟音

 全てのジャガイモが床に転がり落ちる。
 ジャガイモだけじゃなくて、全ての食材と調理器具も……
 重心の位置をずらして、バランスを取る私の耳に、

「なにやっとるのだー!!!」
「うわあああ〜〜また俺の屋敷があああ〜〜」

 クリシュファルス君の怒声と、腹黒氏の悲鳴が飛び込んでくる。
 屋敷の右半分が傾いていた。
 壁の裂け目からオレンジ色の光が漏れている。
 状況から判断して“ヴェンデッタ”がジャガイモを屋敷ごと両断したと推測。
 ……また、やってしまった……

「――あらあら、タマネギに火がかけたままですよ」

 カレー粉を片手に戻ってきた、セリナの第一声はそれだった――







「セリナ」

 グツグツ煮えるカレーをかき混ぜているセリナに、私が声をかける。

「はいです?」

 食器を並べる私に、セリナが返答する。

 セリナの姿は、直接には見えなかった。
 私が俯いていたから。

「なぜ、私を雇ったの?」
「はい?…ええと、この御屋敷は人手不足がメイドさん不足で――」
「それは違う」

 セリナの手の動きが停止した。

「あなたのメイドとしての技量は完璧だ。私ばかりか魔界大帝がいなくとも、この屋敷の家事は完全にこなせるだろう。私を新たに雇う必要は皆無だ」
「………」
「いいえ、それどころかメイドの任に就いてから1ヶ月、私がまともに仕事を果した事は無い。アフターフォローコストも莫大だ。私を雇う事は、かえって有害だろう……なぜ、私を雇っているの?」
「………」
「主に見捨てられた私の立場に同情しているの?……いや、それを非難している訳じゃない。勘違いしないで欲しい」

 軍人として、戦士として、『剣』として、幾多の戦場を、幾多の任務を、幾多の困難を乗り越えてきた私には、『同情される』という事が、どれだけ幸運であるのかをよく理解しているつもり。
 世の中には、同情されたくてもされない者が、あるいは同情されるべきなのにされない者が、どれほど多く存在するか。
 それを偽善だとか、自己満足だとか、余計なお世話だとか言う連中は、自分の力だけで解決できる程度の苦難と悲劇しか体験した事のない、幸運な腰抜けだ……少なくとも、私はそう思う。
 だから、セリナが私に同情している件は問題ない。
 問題は、セリナが私に同情する理由がないという事。
 友人である魔界大帝を拉致し、自分も戦いに巻き込もうとした相手に、同情して助けの手を差し伸べたというの?
 そこまでセリナが愚かだとは思えない。
 私は、セリナの真意を知りたかった。
 それがこの唐突な質問の理由。

 ……なぜ、それを知りたいのか気づかぬまま。

「う〜〜〜ん……です」

 こちらに背中を向けたまま、頬に片手を当てて何か考えているセリナ。
 私の手の中で、食器が無機的な音を奏でる。
 ――窓から差し込む月明かりはあまりに鮮やかで、電灯をつける必要が無いくらい――

「う〜〜〜ん……申し訳ありません。私はおバカなので、アンコさんを雇った本当の理由がうまく説明できませんです」

 がちゃ!!

 手を滑らせた。
 予想していたとはいえ、お約束な答えに軽く眩暈がした。
 理由も無しに、私を雇ったの?
 それこそ本当に、私には理解できない。

「アンコさんは、ここの生活に御不満でしょうか?です?」
「……え?」

 ぴたり

 食器を片付ける手の動きが停止する。
 
 不満?
 ここでの生活に?
 ……考えた事も無かった。
 魔界大帝に神族の力を奪われた、虜囚同然の生活。
 武争神族の名門ガルアード家の当主から、使用人に身を堕としめた生活。
 軍人としての戦いの日々からかけ離れた、春の日差しのようなのんびりとした生活。

 そう……
 全てが違うわね……
 あの凍りついた日々から……

 私は考える。
 軍人としての合理的思考ではなく。
 “心”で。
 そして、結論は――

「不満はない」
「わぁ、よかったです!!アンコさんがここの生活に御不満でしたら、私はどうしようかと思いましたです」

 くるりと振り向いたセリナの微笑み。
 懐かしい何かを思い出させる微笑み。
 窓から差し込む月の光にきらきら輝いて――
 ――素直に、美しいと思った。

「……でも、特に御不満が無いのでしたら、今の生活でも私はイイと思うのですが?」

 苦笑。もちろん心の中で。
 いい加減過ぎる……
 ……でも、間違ってはいない。

「確かにそうね……」
「そうですよね♪」

 確かにそうだ。
 やっと質問の真意に気付いた。
 私は不安だったのね。
 兄様と一緒に失った……自分の居場所を確かめたかったのね……

「……あ!そうです!!」

 御玉とカレー皿を持ったまま、手を打ち鳴らせるセリナ。
 本当に器用。

「アンコさんとお友達になりたかったから……というのは、理由にならないでしょうか?……です」
「適切な理由とはいえない説明ね……」
「そうでもないですよ。あの時、私は本気の本気でアンコさんとお友達になりたかったのですから♪……それにです」
 
 チロッと舌を出すセリナ。
 心温まるその微笑み。
 そして、私は気付いた。

「きっと人の心は、言葉では説明できない物なのですよ。特に女の心はね♪……です♪」

 そうか。

 私は好きなんだ。

 ここの生活が。

 ここの人達が。

 そして、セリナが――

「さあ、カレーを運びましょう……です♪」










「――それでですね、あすみさんが作ったケーキが大爆発してしまったのです」
「そう…」
「半径数百mが灰燼に帰してしまったのですが、人的被害は奇跡的に怪我人1人だけで済みましたです」
「そう…」
「その怪我人がかすみさんだったのですが、大した怪我じゃなかったのが不幸中の幸いでした。でも、あとであすみさんは思いっきりお仕置きされてしまいましたです」
「そう…」

 透明な月光が照明代わり。
 静かな虫の音がBGM。
 ベッド脇のチェアーに置かれた、ビスケットとホットミルクの甘い香り。

「お2人ともとっても仲良しさんな御姉妹ですね♪」
「そう……とは聞こえなかったけど……」

 私はセリナの部屋にいる。
 セリナのベッドは、なぜかダブルベッド。
 セリナと同じベッドに寝ている。私が右側で、セリナが左側。
 この状況で、あまり建設的とは言えない内容の雑談をしている。

 ……なぜ、こんな状況に?
 夕食後、皿洗いの最中に、セリナの話にただ頷いていたら、いつのまにか一緒に寝る事になっていた。
 思ったよりも、私は場に流されやすいみたい。

 でも、この感じ……悪くない。

「うふふふふ……です♪」
「何がおかしいの?」
「あのですね、こうしてお友達と一緒に同じベッドの中で、いろんなお話をしたりふざけっこをしたりするのが、昔からの夢だったのです♪」
「そう…」

 友達……ね。
 『友情とは言葉で確かめる物ではない』……と、誰かが言っていた。
 正論。
 でも、セリナの純粋な言葉を聞くと、そんな格言も色褪せて聞こえる。

「夢を叶えていただいて、本当にありがとうございますです」
「頭を下げる事じゃないわ……」

 友達。
 私に最も縁遠い言葉だと思っていた。
 兄様がいた頃は、兄様だけが世界の全てだった。
 兄様を失ってからは、世界の全てを拒絶して生きてきた。
 そんな私に……友達?

 でも、この感じ……悪くない。
 
「アンコさんには、恋人さんはおられるのですか?」

 ホットミルクを吹き出しそうになる。

「唐突ね……なぜそんな事を聞くの?」
「こういう場面でのお約束です」

 相変わらず、セリナの言葉は意味不明。

「恋人……」

 ホットミルクの湯気が、視界を滲ませる。
 幻想と幽玄の世界に、私を誘う。



 恋人。
 愛しき人。

 思い浮かぶのは……やはり兄様。
 ほんの短い間だったけど、確かに私と兄様は、深い愛情で結ばれていた。
 結ばれていた筈だ。
 世間からは、背徳と呼ばれる関係までに……

 両親の顔を知らない私。
 そんな私をガルアード家の子女ではなく、1人の少女として接してくれたのは、兄様だけだった。
 明るく、強く、やさしく、何より私を愛してくれる兄様。
 血縁の垣根を越えた領域にまで、兄様に思いを寄せたのも無理のない事。
 そして、兄様もそれに答えてくれた。
 温かく優しい、夢みたいな日々……

 しかし、兄様が士官学校に入学してから全てが変わった。
 消えたのは笑い声。
 気の利いたジョーク。
 お休み前のキス。
 尽きないお喋り。
 そして私への笑顔。
 部屋に閉じ篭る事が多くなった。
 兄様に以前の笑みを浮かばせようとする私の試みは、全てが徒労に終わった。
 話しかけても、空気のように無視される日々……
 それでも、私は兄様が大好きだった。
 私には、兄様しかいなかったのだから。
 でも、兄様の私への眼差しは、だんだん冷たくなっていった……

 そして、私が兄様に続いて士官学校に入学した頃には、兄様の私に対する態度は、明確な虐待と殺意へと変わっていった。
 私の身体には、軍事訓練とは別の傷が絶える事はなかった。
 あらゆる暴行と罵詈雑言が、兄様から降り注ぐ日々……
 私の14万歳の誕生日、兄様に銃弾をプレゼントされた。
 強力な麻酔弾を。
 這いずり回る事しかできない私を、兄様の見ている前で、数十人の男達がレイプした。
 あらゆる処女を一気に失った。
 1週間後、男達から開放された私は、そのまま兄様に犯された。
 嬉しかった。
 大好きな兄様に抱かれたんだもの。嬉しくない筈がない。
 嬉しさのあまり、涙が出た。
 涙が止まらなかった……

 なぜ、兄様が変わったのか、私にはわからない。
 軍事訓練中の事故で、頭部に大怪我をしたから?
 遺産配分のトラブルで、ノイローゼ寸前にまで強欲な親戚達の相手をさせられたから?
 将官への昇級試験に、5回連続で失敗したから?
 私が過去最高の成績で、士官学校入学試験に合格したから?
 私が入学してから1年で、兄様の階級を抜いてしまったから?
 たぶん、全てが原因ではなく、全てが原因なのだろう。

 日に日に激しくなっていく、兄様の肉体的、精神的、性的な虐待。
 私は全てを受け入れた。
 兄様が命ずれば、私は家畜とも交わり、その汚物を啜った。
 尿道、気管、臍に開けられた穴を通して内臓まで犯されていた私の身体は、自力では食事も排泄もできないまでに壊されていた。
 もっとも、兄様の許可が無くては、食事も排泄も睡眠すらも許されなかったけど。
 でも、私は嬉しかった。
 兄様が私を壊している間だけは、兄様と私は触れ合う事ができるのだから。
 本当に、兄様が大好きだったから……

 そして……
 あの日、真の意味で、私は兄様に『破壊』された。
 病室で意識を回復した私に届いた最初の言葉は、兄様が留置所で自殺したという一報……
 そう。
 本当に破壊されたのは、私の『思い』だ……

 私が“心を凍らせた”のは、自我の崩壊を防ぐための、一種の自己防衛本能だったのかもしれない。
 それが幸せな事かどうかは、今の私にもわからない。
 失われた器官に代わって取り付けられた、機械製の義肢。
 軍人に相応しい、機能性一辺倒の、無骨な義肢。
 私にはお似合いだ。
 でも、1つだけ気に入っている箇所がある。

 きりきり きりきり

 きりきり きりきり

 私はこの音が好き――



「いたわよ……昔はね」

 ホットミルクの湯気が吐息に流される。
 時を超える魔法は終わった。

「今はいらっしゃらないのですか?」

 無邪気とさえ言えるセリナの微笑み。
 でも、その瞳に全てを見透かされる気がして、私は少し目を逸らした。

「さあ……どうかしらね」
「クリさんなんてどうでしょうか?です?」
「!!!……ごほっごほっ……い、いきなり何て事を言うのよ……」

 た、確かに可愛いけど……
 もしかして、私にはその気があったのか……

「あの子には、あなたの方がお似合いだと思うけど」
「そんな事は無いですよ。アンコさんはとってもお綺麗ですし……始めてお会いした時の姿なんて、とっても強そうでカッコ良かったですよ」

 強い……か。
 ほんの微かに、苦笑したかもしれない。
 “強い”――神将元帥という、神族最強の称号を得ている私を評する、最も数多き言葉。
 戦闘力という点で評価するなら、それは事実。敗北の経験は、あの時クリシュファルス君に不意を突かれた時だけだ。
 そう、それは戦闘能力だけの強さ――
 データだけの強さ――
 心はいつも悲鳴を上げているのに――
 自分が強いだなんて、1度も思ったことは無い。
 兄様を失った後、心を凍らせなければ自我を保つ事もできなかった私が、強い筈が無い……

「女は皆そうですよ」

 !!

「私はおバカなので、上手く説明できませんですが……」

 セリナの瞳。
 全てを見透かすような、あの煌き。

「女って、とても弱い存在なんですよ。自分が愛する人…自分を愛してくれる人…そう、自分が依るべき人がいなければ、震えながら泣く事しかできない、とってもとっても弱い存在なのですよ……」

 心を読まれたという衝撃よりも、セリナの呟きが胸に響いた。
 女は弱い……依るべき人がいなければ、震えて泣く事しかできない……か……
 確かにその通りね。
 ここに実例が1人いるわ……

「……でも、です」

 セリナの微笑。
 全てを暖かく包み込む、あの優しさ。

「こんな言葉もありますよ。『女は弱し、されど母は強し』……です♪」

 ?
 何の事?
 ……それよりも、なぜ私の考えていた事がわかったの?
 セリナに尋ねようとした瞬間――

 ボーン……ボーン……ボーン……ボーン………

 玄関に飾られている、恐ろしく原始的な構造の大時計が、時を告げる音が微かに響いた。
 きっかり12回。

「ふわぁぁぁ……です……」

 セリナが小さく欠伸する。
 ……何となく、話しかけるタイミングを失った。

「……そろそろオヤスミしましょうか?……です」
「そうね」

 冷めかけたホットミルクを飲み干す。
 体内時計の時限リミットを、翌日6時にセットする。
 動作が僅かに緩慢な感じ。
 思っているよりも、私は疲れているみたい。

「それではオヤスミなさいです……」
「……お休みなさい」

 就眠の挨拶と同時に、微かな寝息が聞こえてきた。
 隣に顔を向けると、セリナの幸せそうな寝顔。
 なんとなく、可笑しい気分。
 純白のレースカーテンが、ゆっくりと舞う。
 開けられた窓から静かに吹き込む夜風に、微かな冷気を感じた。
 薄手の毛布をセリナと私の胸元に引き上げる。
 部屋が急に暗くなった。
 月が雲に隠れたらしい。
 やさしい闇が、世界を支配する。

 私の意識も暗くなってきた。


 少し柔らかめの枕に、頭を埋める。



 心地良い感触……




 ……意識が闇に閉ざされる……





 ……今日は……どんな夢を見るのだろう……







 ……女は弱い……か……








 ………私……は………








 ………………










 …………






































 かたん

 物音と同時に覚醒。
 全身の運動器官と意識が、レッドゾーンに跳ね上がる。
 あらゆる状況下においても、瞬時に戦闘態勢に心身状態を移行できるのは、軍人としての訓練の賜物。
 ゆっくりと扉が開けられる気配。
 侵入者は――空気分子の振動から判断して……1名。
 静かにベッドに接近してくる。
 月明かりも射さない暗闇の中、ゆっくりと、確実に。
 私は動かない。
 私が覚醒状態にある事を、侵入者に知られてはいけない。
 侵入者はもう足の傍に接近。
 あと半歩間合いに入れば、一撃で侵入者を仕留める事が可能。
 脱力したまま、全身に力を込める。
 20cm……
 10cm……
 5cm……
 1cm……
 ……ゼ――

「きたぞ」

 !?
 心の中で転倒。
 その声は……クリシュファルス君?

「まぁ、みっかおきにこうたいするやくそくとはいえ、よのほうからでむくのは……やはりてれるものだな」

 何を言っているのか理解できない。
 いえ、理解できないのはこの状況。
 隣のセリナを覗いて見る。
 幸せそうな寝顔。
 という事は……クリシュファルス君は、私に話しかけているの?

「くらやみのなかというのも……みょうにこうふんするものであるな」

 ごくり、と唾を飲む音が暗闇に響く。
 何を言っているのか理解できない。
 一体何の理由で、この場に?

「きょうはずいぶんとむくちであるな?……まあよい、でははじめようか」

 はらり

 毛布が剥がされた。剥がされた毛布は隣で寝ているセリナの上に被さった。
 ……って、え?え?え!?

 さわさわさわ……

 ピンクのパジャマの上から脚を撫で回される。全身に熱い震えが走った。
 なに?なに!?
 こ、この状況ってもしかして……


 ……夜這い?


 思考回路がホワイトアウト。
 もう何も考えられない。

 クリシュファルス君が夜這い……この私に……

 ……ステキ……

 ちゅぱ……

 足の指を這うクリシュファルス君の舌の感触。
 それは私から抵抗の意思を消し去るのに、十分過ぎる快楽……
 シーツの端を、思いきり噛んだ。

―ちゅっ―

 足の甲に、軽くクリシュファルス君の唇が触れる。それだけで、体の芯に快感が走る。頭の中は既に真っ白になっていた。ただ、クリシュファルス君の、唇の動きだけをはっきりと感じ取る事ができる。

「………っ!…」

 ふわり、と軽くパジャマの上から、指先が私のふくらはぎをなぞる。
 つつつ、とゆっくり、這い上がってくる指先は、確実に私の身体に点いた火を、炎に変えていった。

「…どうしたのだ?きょうはやけにおとなしいな…」

 クリシュファルス君は、そう呟きながらも、その手を徐々に這い上させていく。

「…っ!…」

 シーツに噛み付いて、必至に声をこらえる。でも、下半身は既に力が入らない。
 それどころか、クリシュファルス君の愛撫に合わせて、勝手に脚が開き、身体がもっと、もっと、とねだっている。

―くちっ、ちゅっ―

 太股を開いた時、私のパンツの中から、粘液が擦れる音が聞こえた。とても小さな音。だから、クリシュファルス君には聞こえなかったかもしれない。でも、私は、顔から火が出るほど恥かしくなった。

「ふむ…こえはだしていないが、ずいぶんかんじているようだな…」

 まるで、私の心を見透かしたように、私の太股の付け根に手を重ねる。それだけで、電気のような快感が、私の中を走り抜け、思わず身体を仰け反らせて、それに耐える。

「…っ!!!」

 そこに、追い討ちをかけるように、中心に中指を立てる。硬くなった肉芽に、直接刺激を加えてくる。頭の中が真っ白になり…

―ピクッ、ビクンッ!―

 軽い絶頂が、私の中を駆け巡った。ぐったりと、余韻に浸る。

「…?!…っ…」

 そのまま手を休めずに、クリシュフェルド君は、スッと手の位置を上げていった。
 太股、腰、脇腹、まるで私の弱い所を全て知っているかのように、優しく、私を愛撫する。

 そして下からパジャマのボタンを、1つずつボタンを外していく。
 そして、私の胸元のボタンを外そうとした時、クリシュフェルド君の動きが急に止まった。

「おや…?」

 何か意外そうな声。そして、その小さな手が、私の胸にあてがわれる。

 ぺたぺた ぺたぺた……

「……この、そんざいのうむをとわれそうなむね……もしやそなたは……」

 ボッ

 部屋が光に満たされる。
 掌の上に発光体を召還したクリシュファルスくんは、可愛い口をパクパクさせて……

「そそそそそそちはぁ!!アコンカグヤぁ!?なぜそちがこんなところにぃ!?」

 ……え?

「ま、まさか……よはまちがえてしんぞくのおんなとはだをかさねてしまったというのか……」

 ……間違えた?
 つまり、クリシュファルス君は勘違いして私を抱いた……と?

 ぷつん

 頭の中で何かが切れた感覚。
 思考が一気にクールダウンする。

「だいたい、なぜそちがセリナのベッドのなかにいるのだぁ!?」
「……セリナに誘われたから……」
「セリナがさそっただとぉ!?そんなばかな……そうだ、セリナはどこだ!?」
「……毛布の下……」
「ぬぅぅ……さてはセリナめ、こんやはよがくることをかんぜんにわすれておったな……」

 頭を抱えるクリシュファルス君。

 状況から判断するに、クリシュファルス君とセリナは、以前から肌を重ねる関係にあったのだろう。ダブルベッドの理由もこれで説明できる。
 今夜2人はセリナの部屋で情事を行う予定だったが、セリナはそれを忘れて私を部屋に招いたと推測。
 私がベッドの中にいるとは思わなかったクリシュファルス君は、間違えて私を抱いたという事か。
 そして、暗闇の中、極力声を抑えていた私を、本来の相手とは違うとクリシュファルス君が気付いた判断材料は、胸の大きさの圧倒的な差だった。
 以上、状況整理終了――

 …
 ……
 ………

 ブチッ!!

 頭の中で、何かが盛大に切れた感覚。

「……こんかいのことは、おたがいいぬにかまれたとおもって、わすれることにしよう……はぁ……よはへやにかえる……」

 暗い面持ちでベッドから降りようとするクリシュファルス君――

 がしっ!!

「ななな!?」
「逃がさないわ」
「なにをするか!?はなせぇ!!」
「あそこまで女に恥をかかせておいて、今更無事に帰れると思っているの?」
「あうううう……お、おぬし、おこっておるな……?」

 ふふふふふふふ。
 私が怒るわけが無いじゃない。

「あわわわわ……ひょうじょうはかわらないけど、こめかみに#マークがはっきりみえるぞ……む、むちゃくちゃおこっておるな……」

 ふふふふふふふふふふふふ。
 なに怯えているの?
 まるで迷子のタヌキリスみたいに。

「よ、よをどうするきだ!?」

 ふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
 決まっているじゃない。

「とって食う」
「んなぁ!?」
「いただきます」
「ひええええ!!!」

 クリシュファルス君を押し倒す。
 ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
 私の抑え込みは完璧。ぜぇぇぇぇぇぇぇったいに逃がさないわ。
 ぺろり、と頬を舐めると、

「ひゃあん!!」

 身体の下の可愛い肢体に、ぶるっと震えが走る。
 ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
 どこから食べようか……

 ――瞬間。

「ふらいんぐぼでぃーぷれすです〜〜……ぐー」

 ぼふっ!!

 !?!?

「ぐぇ……」

 身体の下で呻き声が上がる。
 突然、背中に誰かが飛び乗ってきた。
 後頭部に当たる柔らかい大質量――これは……乳房?
 こんな非常識な胸部を持つ者はただ1人。

「わーんつーだ〜〜です……ふにー」
「おお……たすけてくれセリナぁ!!」

 クリシュファルス君の歓喜の叫び。
 やっぱりセリナ。
 これからが本番という時に……ちっ。

「はやくたすけてくれぇ!!」

 セリナの乱入を、本気でクリシュファルス君は喜んでいる。
 悲しい。
 でも、セリナは――

 ぎゅむ〜〜!!

「え?」
「ぬわぁ!?」

 そのままセリナは私達を抱き締めた。
 ……え?何?

「お二人だけ楽しんじゃうなんてズルイです……私も混ぜてくださいです♪」
「ぬわにぃ!?」
「ちょ、ちょっと……ひょっとして、貴方寝ぼけているの?」
「そんな事無いですよ……すぴー」

 クリシュファルス君が声無き悲鳴をあげたのを、確かに感じた。
 私達を抱擁したまま、器用に牛さん柄のパジャマを脱ぎ始めるセリナ……
 ……って、え?え?え?
 もしかして、このまま……
 ……3人で!?

―ぽむっ―

 セリナが、私達をベッドに押し倒す。
 クリシュファルス君の顔が、アップで目の前に映し出される。

……かわいい……

 クリシュファルス君と目が合った。顔が真赤になる。

「な…なにをみているのだ…」

 クリシュファルス君が顔を赤くして目をそらす。

……凄くかわいい……

「アンコさん、いっしょに楽しみましょうです♪」

 ちゅっ、ちゅっ、と軽く、セリナが私とクリシュファルス君の頬にキスをした。とっても軽いキス。でも、とっても優しいキス。
 その瞬間、私の心に何かが生まれた。上手く言えないけど、確かに、何かが私の中で変わった。

「こらっ、アコンカグヤ…なにをみつめているのだ?…わ?!こら……」

 その次の言葉は出てこなかった。私がクリシュファルス君の唇を奪ったから。
 その時、自分でもびっくりするくらい、優しく、唇を重ねた。

「むぐ…ん…」

 クリシュファルス君は、強く抵抗しなかった。
 上唇、下唇、そして再び唇を合わせる。

―チュッ、んっ、ちゅ…―

 何故かは判らない、いつの間にか、私とクリシュファルス君は、舌を絡めあっていた。暖かい。クリシュファルス君の心に口づけをしているような感覚。

(気持ちいい…キスって…こんなに感じるもの…?)

「アンコさん、うれしそうです♪」

 うれしそう?…私…?

―チュッ―

 私と、クリシュファルス君の間に、透明な橋がかかる。
 私達を抱きしめたまま、セリナは私達を嬉しそうに見つめている。

「さあ、クリさんをもっと気持ちよくしてあげましょうです」
「わっこらっやめるのだ…セリナぁっ!!」

 絶叫するクリシュファルス君。そこもかわいい、反則なくらいかわいい。

「そーれっ!です♪」

 一瞬にして、クリシュファルス君のクマさん柄のパジャマが脱がされる。何て言っていただろうか…『メイドさんの48の殺人技』とか言っていた気がする。

「………」

 思わず、まじまじとその綺麗な裸体を見つめる。余分な贅肉の無い肉体、だからと言って、痩せ過ぎている訳ではない。不謹慎かもしれないけど、美瑛神族にも負けないような身体。そして…その中心にあるものも…

「さぁ、クリさんはよこになってくださいです」

 優しくクリシュファルス君を、ベットに横たえさせる。淡い光の中で、セリナの裸体は美しく輝いていた。

「アンコさん、クリさんを気持ちよくしましょうです♪」
「え…気持ちよくって…」

 セリナの笑顔の先には…クリシュファルス君の…ものがあった。更に顔が赤く、熱くなる。でも、私の口は少しずつ、それに近づいていく。
 強要されたわけではない。かと言って、命令されたわけでもない。自分から、純粋に自分の意志で(気持ちよくしてあげたい)そう思った。

「アコンカグヤ…やめ……」

 クリシュファルス君の言葉は続かなかった。何故だろう。私を見ている、私の瞳を。その表情、瞳……

「ぴちゃっ…ちゅ…ジュルッ!」

 未だ柔らかいそれを、舌先でなぞり上げ、先端から吸い込むようにして口に含む。

「うあっ!」

 クリシュファルス君が声を上げる。透き通った声。
 快感の混じった、そんな声が聞きたくて、柔らかく、そしてじっくりと奉仕したくなる。

―クチュッ、ジュ、ズルッ―

「うわっ…すご……」

 言葉になっていない。でも、どれだけ感じてくれているかは、顔を見なくても、口の中にあるものの熱さと、硬さでよくわかる。嬉しかった。

……嬉しい?……

 頭に過ぎった言葉を考える事無く、私は熱い肉茎に舌を絡ませる。口の中に唾液が分泌され、それと混じったクリシュファルス君の味を感じる。
 口の端から涎が流れ、それを啜る音がベッドルームに響く。
 セリナはそんな様子を微笑んで見ていたが、私が舌先に微妙な震えを感じた時、

「くすくす…もうちょっとで、です♪」

 そう言って、セリナはクリシュファルス君の太股に、指をつぃと滑らせ、その瞬間、

「アコンカグヤ…うぁっ!!」
「ん゛っ…んぐっ…んぶっ…んあっ!」

 クリシュファルス君の叫びと同時に、熱いものが口の中に叩き込まれた。比べ物にならないくらい濃くなる、クリシュファルス君の味。
 あまりの量に、思わず口を離してしまう。それでも、熱い液体は止まる事無く、私の顔を満たしていった。

「…熱い…」

 半ば呆然とまだびくびくと振るえる肉茎を見つめ、そこから出るものを浴びながら、クリシュファルス君の肉茎から滴り落ちるものを舌で舐め取る。

―ぴちゃっ、くちゅっ、ちゅっ―

「んっ…チュッ…んん〜っ」

 私の耳に、もう一つの舌音が聞こえた。ふと気がつくと、目の前に、セリナの顔がアップで迫っている。
 その舌は休み無く上下し、ついさっきクリシュファルス君が出したものを、丹念に舐め取っていた。

「うふふ…いっしょに、です♪」

 私は、何故かセリナを拒絶しなかった。むしろ、セリナに合わせて舌を動かし、丹念に舐め取っていった。
 袋、根元、竿…まるで何も無かったように清めていく。
 そして、先端。セリナが先に辿り着き、美しい唇で全体を包む。そして、頬をすぼませ、中に残っているものを吸い込む。

「うぁ…セリナっ…」

 クリシュファルス君が、快感に震える…ちょっと嫉妬心。

「んん〜っ…チュプッ!」

 口の中から出るところを、目の前で見つめる。思わず、熱い吐息が出る。
 すると、セリナはこちらを向き、顔を近づけてきた。何が起こるのか判らないまま、セリナを見つめていると、そのまま、セリナは私にキスをした!

「なっ…んっ?!!んんん〜っ?!………んっ……ん」

 セリナの意図が掴めず、頭が混乱する私。しかしセリナは、そんな私を落ち着かせるように、限りなく優しく、まるで魔法のように優しく、自然に舌を差し入れてきた。
 私の首に腕を回し、そして少しずつ、セリナは私の口に唾液を流し込んできた。

―チュルッ、グチュッ、グチュ―

…違う、唾液じゃない。この味は…

 セリナの口から流し込まれる、ものの正体を理解した瞬間、私はセリナの首に手を回し、お互いに舌を絡めあっていた。
 お互いの隅々まで、クリシュファルス君のものの味を分け合う。正直言うと、決して美味しいものではない。でも、味わいたい。どうして…

―クチュッ―

 粘液質な音を残して、今度はセリナと私の間に透明な橋がかかる。

「くすくす、です♪」

 まるで、私の心を見透かしているような、そして、さっきの疑問の答えを知っているような表情で、セリナは私に微笑みかける。

「セリナ…?…きゃ!」

 セリナは、素早く私の背後に回りこむと、後ろから抱きつく。そして、両手を私の太股に回し、私の身動きを取れなくする。

「今度は、アンコさんにきもちよくなってもらいますです♪」
「ちょ…私は…」
「さ、クリさん、どうぞです」

 気がつくと、いつの間にか回復していたクリシュファルス君が、パジャマの上から、私の太股を愛撫していた。それだけで体中に快感が走り、セリナに寄りかかる。

「うむ…」

 少し、戸惑った様な表情で、私のパジャマのズボンに手をかける。
 するすると引き下ろされていく、金魚さん柄のパジャマ。実はちょっとお気に入り。
 やがて、飾り気の無い白いパンツだけになった、私の下半身が、クリシュファルス君に晒された。

「アンコさん、きれいですです♪」
「……うむぅ…きれい…だな」

 無意識のうちに、顔を覆う。この気持ちは…

―クチュッ!―

「ふぁっ?!」

 不意に、クリシュファルス君の指先が、パンツの上から、私の秘裂をなぞった。


「おぉっ、いがいにぬれているぞ」

 興味津々というような声で、つぃと指でなぞる。すごい快感。顔が熱くなり、覆っている手にも、その火照りが感じられる。

「……ぁ…っ…ゃぁ…」

 必死になって、脚を閉じようとする。しかし、私の内股にそっと添えられているセリナの手が、私の動きを封じている。
 先程の夜這いの時の、クリシュファルス君の愛撫ですでに濡れていた私のそこは、クリシュファルス君の肉茎を舐めている時に、パンツの上からでも判る状態になっていた。

「…ふむ…」

 クリシュファルス君と、私のそこの距離、約5cm…顔を覆っていても、吐息ではっきりわかほど近くで見られている。既に真っ白な頭の中が、爆発しそうになる。

―ぺたっ、ぺろっ―

「…!!!…っ…はぅっ!」

 爆発。あっという間に絶頂まで追いやられてしまった。
 全身をセリナの身体に委ねる。その豊かな胸が、私の全てを包み込むように受け止める。その間も、クリシュファルス君の舌の動きは止まらなかった。

「んっ…ぴちゃっ…」
「…はぁ…はぁ……っ……ゃぁ……っ」

 敏感な、内股の一番敏感な部分を、まるで知っていたかのように唇を滑らせる。軽く吸われる。その度に、私の身体はピクッと震える。
 何かに堪えながら、薄く目を開くと、ピンク色の印がひとつ、私の太股に刻まれていた。そして、クリシュファルス君は、その舌をパンツの縁をなぞるように蠢かせる。

「…ぅっ…はぁっ…!」
「アンコさん…かわいいです♪」

 セリナの両腕が、ふわりと胸のほうに回される。右耳の間近で、囁くような優しい声が、聞こえた。

…(可愛い)?…

 初めて投げかけられる単語。私の、何かに光が差し込まれるような。

「クリさん、そろそろぬがせてあげてくださいです♪」
「…え?…」

 半ば呆然とした頭の中に、セリナの声が響く。

―シュルッ―

 何が起こったかを理解するのに、数刻を要した。

「……ゃぁっ…」

 思わず、そこを両手で隠す。
 クリシュファルス君の目の前に、私の部分が晒された。ふと、こちらを見つめてくる。かわいい。厭らしくない、でも何を言いたいのか良くわかる。

(だいじょうぶだ)

 そんな言葉が私の頭の中に響いた気がした。クリシュファルス君の優しい思考が視線を通じて伝わってくる、そんな気がする。

「…ぁ…」

 無意識に私の両手が、太股へ移動していく。そして、本当に私のその部分が、クリシュファルス君の目前に晒された。

―チュッ!―

「…あっ」

 既に硬くなっている肉芽に、軽くキスをされる。それと同時に、セリナは私の首筋にキスを重ね、ゆっくりとパジャマに手をかけていく。

―ぱさっ―

 軽い音を立てて、パジャマがベッドの横に落ちた。明かりの中に晒される、半分機械の身体。そして、ブラを着ける必要の無い胸。

「きれいです…」
「……ぁ……ゃ……」

 理解できない感情が、私の中を埋め尽くす。

「本当にきれいでかわいいです…クリさんもそう思いますよね?です♪」
「…そうだな……よ…よもそうおもうぞ…」

 ちょっと顔を赤らめて、そう答える。そして再び私の身体にキスをする。太股、下腹部、臍、腹、そして…胸。クリシュファルス君は、機械、生身を問わずにキスをしてくれた。

「ふふふ、アンコさん、キスされるたびにピクン!ってするんです♪」

 セリナの柔らかい胸が、私の背中に押し付けられる。クリシュファルス君とセリナに挟まれ、肌から直接温もりが伝わってくる。暖かい。

―ぎゅっ―

「??…どうしたアコンカグヤ………」

 気が付くと、私はクリシュファルス君を抱きしめていた。

「…あの………もっと……」

 消え入りそうな声で、私はクリシュファルス君を求めた。私の心の奥から生み出される感情、それは数万年ぶりの感情。どんな感情か、という事はうまく説明できない。でも、その時こう思ったのかもしれない。

…(ありがとう、そして、さよなら)…

 もっと、何か話し掛けようとするが、上手く言葉に出来ない。(あの…その…)ばかり。その言葉を吸い込むように、クリシュファルス君がキスをした。
 そして、クリシュファルス君の小さな身体が、私を少し、持ち上げた。私も少し腰を浮かせて、次の瞬間を待った。

―クチュ、ジュプッ―

「んんん〜〜っ!」

 クリシュファルス君の、熱くて、硬いものが私の中に入ってくる。ゆっくりと、時間をかけて、私の一番深いところまで届いていた。

―ポタッ、ポタッ―

 気が付くと、キスをして繋がったまま、左眼から涙が溢れていた。その涙は、私の頬を伝い、クリシュファルス君の右肩を濡らしていた。

―チュッ―

 その涙を、セリナがキスした。そして、こちらに微笑みかける。まるで、私の全てを知っているような瞳。

「ちょっと、しょっぱいです」

 そう言うと、私の首筋に舌を這わせる。ぞくぞくするような快感。

「うふふ、です♪」

 セリナは微笑むと、私の両腿に手をかけた。そして、クリシュファルス君と繋がったままクルリと私を半回転させ、今度はセリナと向かい合わせになる。
 まるで、クリシュファルス君が、赤ちゃんになった私をおしっこをさせているみたい。しかし、その部分はいやらしい音を立てて、必死になってクリシュファルス君を咥えている。

「ふあぁぁっ!」

 今までと違う部分が擦れあう快感に、思わずセリナに抱き付いてしまう。セリナはそんな私を優しく抱きとめる。
 そして、耳、首筋、鎖骨…ゆっくりと舌を這わせ、そして胸の先端に辿り着く。

「やっ!ああっ!」

 クリシュファルス君が、私の左の乳首をつまむと同時に、セリナが残りの乳首を唇ではさみ、軽く吸い上げる。快感にのけぞる私。
 ビクン!と身体が震える。セリナが、繋がっている所の上にある肉芽を剥き上げ、軽くつついたから。

「くぅ!」

 クリシュファルス君が声を上げる。今の刺激で、強く締め上げたらしい。気持ちよさそう、何だか嬉しくなる。

―グチュッ、ズッ、チュプッ―

「クリさん、少しアンコさんの脚をもちあげて下さいです♪」
「む…こうか…?」

―グチュッ!―

「んぁっ…」

 クリシュファルス君が、私の太股を後ろから抱え込むようにして、私の脚を広げる。セリナに、クリシュファルス君と繋がっている所を間近に見られている。

「いや…お願いだから見ないで…」
「どうしてです?…とってもきもちよさそうです♪」

 そう言うと、セリナはさらに顔を近づけ、クリシュファルス君ごと、その部分を舐め上げた。

「あっ!ふぁぁっ!!」
「わっ!…うっ」

 私と、クリシュファルス君が同時に声を上げる。
 そのまま、顔を下に移動して、クリシュファルス君の袋を口に含む。それと同時に、私の内股に指を這わせ、休み無く快感を与えてくる。

「うっ!アコンカグヤ…よは…もう…」
「お願い、そのまま…」
「くっ!!」
「んあっ…ああぁぁっ!」

 私の一番奥の壁に、熱いものが叩きつけられる。その熱は、断続的に吹き上げ、私の内部を一杯に満たしていった。

「あ…あぁ…」

 猫が背伸びするように、痙攣して絶頂を感じる。クリシュファルス君は、脱力してベットに倒れこみ、私は、セリナに寄りかかっていた。

「はぁ…はぁ…」

 少し柔らかくなったクリシュファルス君のものが、まだ私の中にある。ちょっとした幸福感に包まれる。

「くすくす、です♪」

 目の前で、セリナが悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「セリナ…?」
「まだまだこれから、です♪」
「これから……きゃ…」

 私の言葉が終わらないうちに、セリナは私のお尻に指を伸ばして、後ろの穴を刺激してきた。

「やっ…セリナそ…んっ…」

 私の抗議も、セリナのキスによって封じられてしまった。瞬く間に舌が絡められ、吸われる。
 甘いキスに、すぐにトロンとなってしまう。その隙を突かれた。

―ツプッ、ズッ、ズブッ―

 中指が、ゆっくりと、厭らしくうねりながら奥まで差し込まれた。そして、お尻越しに私の中にあるクリシュファルス君のものを刺激する。

「うわ…」

 後ろで、声がした。クリシュファルス君の声。
 次第に、私の中で熱く、大きくなっていく。充足感に似た快感。

「アンコさんは、こっちでも気持ちいいんです♪」
「いやぁ…恥ずかしい…」

―グプッ、チュクッ、ズプッ―

 優しい指使い、でも確実に快感を与えてくる。
 次第に柔らかくなる私の後ろ。そして、ある願望が芽生えてくる。でもそれは…

「クリさんも、いっしょに、です♪」
「え?よもか?…いやしかし……」

 そんな会話の直後、もう一本、指が加えられた。ヌルリと、簡単に飲み込む。そして、そのまま、お尻ごと左右に広げられる。
 クリシュファルス君に、私の全てが曝け出される。いやらしくクリシュファルス君のものを咥える私、そして、もっといやらしい私の部分も。

「ク…クリシュファルス君…」
「…なんだ…?」
「私を…私を嫌いにならないで…」

 クリシュファルス君の目を見て言えなかった。

―ツプ―

 新しい指…人差し指が、後ろの穴に入れられた。すごく優しい、細い指。ゆっくりと、セリナの指が抜かれ、1本だけになった。
 見なくても判る、感じていた。それが、クリシュファルス君の答。

―ズプ―

 もう一本、今度は中指。ゆっくりと出し入れされる。もう、我慢が出来なかった。

―ジュプッ―

 腰を上げて、クリシュファルス君のものを引き抜く。クリシュファルス君と私の出したものでドロドロになったものが、姿を現す。

「あっ…」

 先端が、後ろの穴に触れる。ぞくり、とした快感が背中を走る。
 ゆっくりと腰を下ろし、力を抜く。少しずつ、クリシュファルス君を受け入れる。

「んあああっ…」

 1番太い所が通過する。限界まで開かれ、その後は、一気に根元まで受け入れた。
 思わず、セリナの手を握り締める。セリナは微笑んで、握り返してくれた。

「う…うわっ…」

 クリシュファルス君が、声を上げる。
 嬉しくなって、きゅっと締め上げ、腰を上下する。また、声を上げる。

「あんっ、ふぁ……あ…」

 膝をついて、腰を上下すると、さっきまでクリシュファルス君が入っていた所から、ドロリとしたものが流れてきた。そこに手を当てると、ぬるりとしたものが手に溜まる。

「…セリナ…」
「???…アンコさん?……きゃ…」

 それを、セリナの胸に塗りつける。全体に伸ばして、胸をマッサージする。柔らかいセリナの象徴、その中心で、綺麗な乳首が硬くなっていた。

「んっ…ちゅっ…」
「あんっ…アンコさん…じょうず…です」

 口の中に、私とクリシュファルス君の味が広がり、かわいい声でセリナが悶える。セリナが膝立ちになって、きゅっと私の頭を抱える。
 乳首を口に含んだまま、手を下の方に滑らせた。綺麗な肌が、手を通しても良くわかるような、すべすべした肌。

―クチュ…

「んあっ♪」

 セリナの良く通る声が、部屋に響く。その部分は、既に十分に潤い、私の指を簡単に飲み込んでいた。
 指を軽く前後に動かすと、そこからピチャピチャとかわいい音がする。そして、それに合わせて、美しい声が聞こえる。まるで、竪琴のように…

「あっ…ああんっ!」
「セリナ…可愛い…」

 そして、空いた手をセリナの後ろに回す。お尻にある、小さな窄まりを探すと、軽く押し当てて、刺激する。
 ピクッと反応して、セリナが私に抱きつく。反撃開始、と思ったら、

「よをむしするとは、いいこんじょうだな」
「クリシュ…ひあっ?」

 クリシュファルス君が、私の腰を掴んだと思うと、一気に奥まで突き上げてきた。頭の先まで、串刺しにされるような快感が走る。
 そのまま、軽くグラインドされ、身体の奥を掻き混ぜられる。

「あひっ…いやっ…激し…っ」
「ふあぁぁ…アンコさん、きもちいいです♪……んっ…」

 衝撃にも似た快感に、思わず両手の指を、更に深くセリナに挿れてしまう。しかし、そんな激しい愛撫も、セリナは快感に変えてしまっていた。
 また、セリナとキスをした。もう何度目か判らないが、言葉以上に私の気持ちを伝える事ができた。

「くっ!…もう、よは…」
「ぷぁ…そのまま…出してっ…お願い…っ…」

―ブピュ、ドク、ビクッ―

 熱の塊が、今度は後ろの穴に注ぎ込まれる。私は、その余韻に浸る事無く、クリシュファルス君のものを引き抜いた。

―ブピュッ―

 多量に注ぎ込まれた、クリシュファルス君の精液が、後ろの穴から噴き出し、太股を伝っていく。

「はぁ…はぁ……きゃ」
「うふふ…クリさん、こんどはセリナにもしてくださいです♪」

 セリナが、私を押し倒して、クリシュファルス君を誘う。

「…よし、でも、もうこれでさいごだぞ…」

 クリシュファルス君が、それに応じ、セリナのそこに肉茎をあてがう。急に、激しい嫉妬心が芽生える。

「ク…クリシュファルス君…私にも…私にもして…」
「もう2かいもしたではないか?」
「いや、私もして欲しい」
「しかし…」

 突然の私の我侭に、戸惑った表情を見せる、クリシュファルス君。

「私だって…私だって……んっ?!」

 私の、理不尽な我侭の台詞は、セリナの唇で防がれた。それは、ディープ・キスではなくて、本当に軽い、フレンチ・キス。
 そして、唇を離した後、セリナは私を優しい瞳で見つめた。その瞳は、そう、まるで母親のような…

「アンコさん…」
「…セリナ…」
「クリさん、一緒にきもちよくしてくださいです♪」
「…いいの?セリナ…だって私…」
「もちろんです!たくさんのほうが楽しいです♪……それに……」

 セリナは、私にしか聞こえないくらいの声で、確かにこう言った。

…素直なアンコさんは…とっても素敵です…

 その瞬間、私は全てを悟った。初めから、そう、出会った最初から私に与えてくれた、セリナの温もりと、限りない優しさ。
 そして、その暖かさで次第に溶けていった、私の凍りついた『心』と『刻』を。

「セリナ…」

 また一筋、私の左眼から涙が流れ落ちた。それを、そっと唇でセリナは受け止めた。そして、明るくクリシュファルス君に催促した。

「クリさん、早くです♪」
「うむ…しかし、どうやるのだ?…2本にするのは…」
「こうやるのです♪」

 そう言って、セリナは私の腰に押し付けるように、腰を揺らす。

「あっ!」

 セリナと私の肉芽が、擦りつけられる。まだ、さっきの余韻が残っている私は、その刺激だけで身体を仰け反らせた。

「なるほど、ではいくぞ…」

―ズルッ、ズッ、ズッ―

「あああぁっ!」
「はぁぁっ!」

 私と、セリナが声をハモらせる。私と、クリシュファルス君のでドロドロになっているものが、私とセリナの肉芽を擦り、秘裂を刺激する。
 どちらとも無く私と、セリナは抱き合い、腰を振り、快感を求めていた。

「ふぁ…あっ!…ひあっ!」

 絶え間なく、声を上げるセリナ。その表情は、本当に幸せそうだった。その透き通るような白い肌は、ほんのりとピンク色に染まり、豊かな胸は、クリシュファルス君の動きに合わせて揺れ、先端の乳首が私のものと擦れ合い、微妙な快感を生んでいた。

「あああんっ!!」

 ひときわ大きな声を上げて、セリナが仰け反る。
 その拍子に、私の敏感な所に強くクリシュファルス君のものが押し付けられ、私にも強い快感が与えられる。

「やっ…ああっ!」

 その時、体力も意識もほぼ限界の中で、私はセリナに変化が現れるのを見た。
 身体全体に、淡く光る文様が現れ、まるでセリナの全身を愛撫するかのように包んでいた。あの文様は…確か…

「ふあぁぁっ!セリナは…もうっ!!」
「くっ!よもげんかい…」
「ああっ…あああぁぁぁぁっ!」

 まるで、フラッシュのように強い光にも似た快感が、私達を襲い…クリシュファルス君は、私達に信じられないくらい大量の精液を浴びせた。

「はぁ…はぁ…です♪」
「もう、よはむりだぞ…」
「…ぁ…はぁ……」

 全員が、抱き合ったままベッドに倒れこみ、荒い息をついていた。
 そして、お互いに見つめ合い、誰からとも無く、3人で舌を絡めあっていた。

『んっ…ぴちゃっ…んんっ…』

 心地よい疲労感の中で、私は不思議な開放感を感じていた。
 本当の私、素顔の私。やっと、素直に向き合えるようになった。
 意識が、少しずつ遠のいていった。心の中で、二人に語りかけながら…

…セリナ…クリシュファルス君…本当に……

(ア・リ・ガ・ト・ウ)









 小鳥の囀り。
 透明な空気の匂い。
 瞼の裏に朝日を感じる。
 私は覚醒した。
 上体を起こす。
 心地良い気だるさの中、眼下にはセリナの解かれたプラチナブロンドが広がっている。
 私の膝の上で、セリナは眠ってしまったのね。
 黄金の髪を静かに梳く。
 何かやさしい気持ち……

「そちも……いや、そなたもめざめたか」

 ベッドの上で胡座をかいてる全裸のクリシュファルス君が、疲れた様に肩を揉んでいる。
 まだ眠そう。心なしか頬が窪んで見える。
 受け責め半々とはいえ、2人分の相手をしたのだから、疲れたのも当然ね。
 枕元に置かれた水差しを取る。
 
「お疲れさま」
「う、うむ……」

 受け取ったコップの水を、未知の数式を眺める数学者みたいな目付きで見ているクリシュファルス君。
 やっぱり可愛い。
 傍に接近したいけど、膝の上にセリナがいる。

「ぬおお?」

 腕を掴んで引き寄せた。
 軽く抱擁。
 口元に愛液の跡が残っている。
 舐め取る。

「こ、こらこら……」

 クリシュファルス君は赤面して照れている。
 でも、抵抗は無い。
 つい先日までは、私に露骨な敵意と警戒を見せていたのに。
 ……いえ、それは私も同じ。
 心を凍らせて生きるのも、場に流されて生きるのも、外界を拒否する事には変わらない。
 それは心を閉ざし、己の内面世界で生きること。
 クリシュファルス君やセリナ達に対しては、常に心にフィルターをつけて接していた。それが当然だと思っていた。
 でも――

 『男と女は、1度肌を重ねてしまえば、文字通り裸の付合いだ。そこには立場も打算もプライドもへったくれも無い。ただ有るがままの関係になるだけ』

 ――とは、先人の言葉。
 そう、心の中の気負いが無くなった。
 重い荷物を背から降ろした感覚。
 今の私は、私そのままを表現できるだろう。
 ……子供の頃、同じ私がいたような気がする。
 なんだっけ?

「んん……ですぅ……」

 膝の上でセリナが身じろぎ。
 その髪を梳くおうとして、私ははっとした。
 セリナはもしかして、これを狙っていたの?
 ……だとすれば、全ての行動に説明がつく。
 苦笑。
 見た目によらず、策士ね。貴方って。
 ありがとう。セリナ……

「……ふわぁ……あ、クリさんにアンコさん……おはようございます……です……」

 目を擦りながら、上体逸らしの要領で頭を上げるセリナ。SEXの時も思ったけど、本当に身体が柔らかいのね。

「おはよう、セリナ」
「うむ、おはようだセリナ……しかし、そなたもあんがいくえぬやつであるな」

 クリシュファルス君も苦笑している。
 私と同じ思いなのだろう。

「……え?…あのう、なぜクリさんとアンコさんが私のベッドの上に……それも裸で抱き合っていて……それに私も裸です……」

 きょとんとするセリナ。

「え?」
「なにぃ?」

 それからはっとしたように、

「あのう、私はおバカなのでよくわかりませんが、もしかしてお2人とHしちゃった……のでしょうか?です?」

 額に正体不明の涙滴状物体を浮かべるセリナ。クリシュファルス君も浮かべている。私も同様だろう。

「あ!!そういえば昨日はクリさんが私の部屋にいらっしゃる日でした……私、忘れていましたです……もしかしてこの状況は、私が寝ぼけてお2人を襲っちゃったという事なのでしょうか……私は寝ぼけると何をするのかわからないらしくって……た、た、た、大変申し訳ありませんです!!!」

 ……前言撤回。
 やっぱりセリナはセリナね……
 ベッドに額を擦り付けるセリナを見ながら、クリシュファルス君も頭を抱えている。
 でも、すぐにセリナは頭を上げると、

「……でも、みんなで楽しくHするのもイイですよね。よろしければまたしてみたいです♪」

 チロっと舌を見せて、ウインク。
 更に前言撤回。やっぱり彼女はよくわからない。
 ちょっと溜息を吐く――

「あ!!アンコさん!!」

 セリナが私を指差している。驚愕に瞳を見開いて、でも最高の笑顔で。

「アコンカグヤがどうしたのだ?」
「アンコさんが笑ったのです!!ほんの一瞬でしたが、確かにです!!」
「な、な、なにぃ!?それはまことかぁ!?」

 笑った……私が?
 本当に……私は笑えたの?
 
「私はおバカですけど、視力には自信があるのです!!間違い無くセリナさんは笑っていましたです!!」
「ううむ……そのせいきのいっしゅんをみのがすとは……魔界大帝のなおれだ!!いっしょうのふかく!!」

 ……そんな珍獣を見るような目で見ないで。
 でも、私は心地良い幸せに包まれていた。
 笑えたのね……あの時と同じように……
 昨夜みたいに、2人を抱き締める。
 ちょっと驚いたみたいだけど、2人とも優しく受け止めてくれた。
 ありがとう、セリナ……クリシュファルス君……


 ――その日以来、過去の夢を見る事は無くなった――
TO BE CONTINUED

Back
小説インデックスへ