点在する薄明るい街灯しか光源の無い深夜の公園は、昼間とは全く違う顔を見せる。
 やや市街地から離れた場所にあるこの中央公園も、昼間は子供達の歓声や散歩する老人などの笑顔の絶えない、広大な芝生と花畑をメインとした絶好のリラクゼーションスポットなのであるが、深夜の公園というものは、どこでも怪談話の舞台にしかならない無気味な空間だ。それはこの中央公園も例外ではなかった――少なくとも今夜までは。
 真冬のこの季節は虫の声も聞こえない。陰鬱な静寂だけが支配する空間であった中央公園は、だが今宵、銃声と爆音、閃光とレーザーサイトが乱舞する、戦闘空間と化していた。

「クルィエさん、大丈夫ですかぁ?」

 あすみの半泣きの声に、クルィエは苦笑いを浮かべようとして失敗した。血に染まった右肩の弾痕に無理矢理指を掻き入れて、変形した銃弾をほじくり出す。気絶どころかショック死してもおかしくない激痛に、クルィエはやや眉を潜めただけで耐えた。左脇腹の弾痕は貫通したらしいので、この身の気のよだつ摘出は必要無いのがせめてもの救いだろう。
 中央公園の更に中心部にある林の中――身を潜めるには最適だが、逆に脱出するには最悪の環境に2人と一匹は追い詰められていた。
 数十人の完全武装の兵士――内閣特務戦闘部隊は、まさに蟻の這い出る隙間も無い完璧な包囲陣を整えて、獲物を捕らえようとしているのである。

『使用人風情に、主が斯様な心配する必要はありませぬぞ』
「使用人風情で悪かったな……で、どうだ?」

 闇の中を、それより尚暗い影が走り、2人の前に影と化した真沙羅が現れた――らしい。周囲の闇と同化している為、あすみには声と僅かに揺れる下草の動きでしかその存在を確認できなかった。クルィエにはよく見えるらしいが。

『駄目だ。脱出できる道も隙もどこにも無い』

 妙に人間臭い動作で頭を振る(らしい)黒猫の姿に、あすみとクルィエは同時に天を仰いだ。

『それに、彼奴等は人間の分際で妙に強い。偵察がてらに2人ほど始末してきたが、危うく此方が滅ぼされるところであった。口惜しいが、一斉に攻められたらひとたまりも無いぞ』

 そう、それが最大の問題であり、こうして追い詰められている状況を担っているのだ。
 元々、内閣特務戦闘部隊はマスタークラスの戦闘能力者、退魔師で構成されている国内最強の戦闘部隊なのである。その強さは、その身を影と化し、あらゆる防御を無効化する『二次元の刃』を自在に操り、猫又としてはかなりの実力を持つ真沙羅ですら、一対一でなんとか倒せるほどだ。仮にSRMC値に換算すれば10前後。これでは退魔師としてはかなり優秀なあすみでも、文字通り子供扱いされるだろう。そんな兵たちが完全武装を纏って数十人――その物量作戦の前には、あすみをかばった為とはいえ、クルィエですらこうもあっさり銃弾を食らう結果となってしまった。すぐ空の上に天界軍の次元艦隊がいるので、普段以上に神族としての力を封印しなければならない事情もあるのだが。

「完璧な円形包囲陣を敷き、時間をかけてジワジワと輪を縮めて、ターゲットを仕留める作戦か。獲物を一匹も逃さない時に使うやり方だ。まいったな……突破口が無ぇ」
『空はどうだ?我が身体を影と化せば、闇夜に紛れて逃れらうるだろう』
「向こうに探知装置付きのスナイパーがいないって保証がありゃな」
『むぅ』
「奴等は俺達が動くのを待っているんだ。何とか隙を見つけるまでは、ここを動かない方が――おい、どうしたお嬢ちゃん?」

 先程から俯いたまま押し黙っているあすみの姿に、クルィエはなんとなく声をかけた。声をかけてから、内心舌打ちした。
 自分は、いつからこんなにお人好しになったのか――

「……お姉ちゃん、一体どうしちゃったんでしょうかぁ……」

 あすみの横顔からは、普段の明るさが完全に消えていた。このまま闇の中に溶け消えそうな危うさがあった。
 真沙羅が白猫の姿に戻り、体育座りで思いに沈むあすみの足に頭を寄せる。
 話してみな――と、クルィエが呟いた。微かにあすみの顎が頷く。
 あすみの話によると、かすみは数日前に喧嘩した直後から、まるで人が変わったという。普段は短気でかなり気が強いものの、さっぱりとしていて根は優しい姉が、まるで逆――冷静にして冷酷、そして限りなく邪悪に。
 表向きはいつものかすみと変わらなかった。だが、実妹であるあすみには、その内面の変化が如実に感じられたのだ。
 あまつさえ、どうやらIMSOを始めとした国家機関や退魔組織に根回しをしているという噂が社内にも立ち始めた時、あすみは密かに真沙羅と共に姉を監視していた。
 そして、ついにセリナと佐藤さんを捕らえて拷問している現場を目撃し――今のような状況を作る結果となったのである。

「…………」

 ……話を終えた後も、あすみは俯いたままだった。その小さな肩に手を置こうとしている自分に気付いて、クルィエは再び舌打ちした。それから、ふと何か思いついたように、無精髭の目立つ顎に手を当てる。

「俺が思うに――そのお嬢さんは何らかの形で洗脳されてるな」
「本当ですかぁ!?」
『ふん、何を根拠に――』

 ――その瞬間だった。
 
 とん

 丁度3人の座る木陰の間に、懐中電灯状の白い円筒が落ちてきた――刹那、クルィエと真沙羅が飛び退こうとする間もなく、円筒から薄紫色の煙が噴出して、瞬く間に周囲に充満する。

(ガスかっ!?)

 クルィエの全身が総毛立った。咄嗟に口を袖で塞いだが、浸透性なら意味は無い。当然、すぐにこの場を離れようとしたが、周囲のあらゆる場所から薄紫の煙が立ち昇っている。どうやら相手は、この公園全体にガス発射装置をばら撒いたらしい。

「殲滅戦に来たか!!」

 まさか、こんな大雑把な手段に出たとは、自分の読みが甘かったか……と、クルィエは覚悟を決めて、正面突破に出ようと身体を起こした時――ある事に気付いた。

(毒の症状が出ない?)

 この場合、遅効性の毒を巻いても意味が無い。速効性のある致死毒を撒くのが当然だろう。だが、特に身体の異常が無いのだ。
 こちらを追い立てる為だとしても、こんなに煙をばら撒いては包囲する側が不利になるだけである。はたして、この攻撃には何の意味があるのだろうか?
 だが、その答はすぐにわかった――

「なぁ、どう思――」

 あすみに振り向いたクルィエは、ぽかんと口を開けた。

「ふあぁ…ああん……あふぅ」

 あすみはその身体を草むらに横たえて、のたうつように悶えていた。その顔は桜色に火照り、快楽に恍惚となっている。震える手は全身を掻き毟るように愛撫して、もどかしそうに服を脱ごうとしている。

「……毒ガスに苦しんでる――ってわけじゃねえらしいな」
『なるほど、この手で来おったか……』

 どこか疲れた口調で、純白の猫が呟いた。

『この毒煙には――強力な催淫の術が施されておる。我々に効果が無いところを見るに、女性用らしいな』
「……なぜそんなモノを? 致死性のガスを使えば一発じゃねぇか」
『これは我々の動きを封じる為のものであろう。確実に仕留める為にな……そして、その手段は主にとっては極めて有効なのだ』

 嬌声を上げながら自分を慰めようとするあすみを横目で見ながら、真沙羅は話を続ける。

『主は――いや、西野家の女は、なぜかこの手の攻撃に極めて弱いのだ。強大な力を持つ妖魔を倒せても、それより遥かに弱い淫獣にコロリと負けおる。一度こうなってしまったら、肉の疼きが完全に治まるまで正気に戻らぬだろう』
「……なぜそんなわけのわからねぇ体質なんだ?」
『知らぬ。おそらく宇宙の意志であろう』

 クルィエはいつになく盛大な溜息を吐いた。

「とりあえず、この嬢ちゃんを何とかしなくちゃな……」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※



『――本来ならば、きさまが如き下賎の者に、主に触れさせるなど言語道断なのであるが……』
「うるせぇ、非常時だ。お前も見てないで手伝え」
『やむをえん』

 影と化した真沙羅の身体が、黒い触手状の闇に変貌する。
 どこか投げやりな仕草で、クルィエはあすみを抱き寄せた――

「ふぁああん!!」

 クルィエの舌がほんの少し首元を這っただけで、あすみは身体中を震わせた。催淫作用のある毒ガスの所為で、あらゆる個所が性感帯になっているのだ。

「身体を楽にしなお嬢ちゃん。そう震えていちゃあ、せっかくの美人が台無しだぜ」
「クルィエさぁん……」

 背中から抱きかかえるようにあすみを抱き締めて、服の上からあまり豊かとは言えないが、形の良い胸をごつい手が弄り出す。見た目に似合わぬ繊細な愛撫に、元から荒かったあすみの喘ぎ声はますます熱が篭ってきた。

「きゃぅうん……だ、だめですぅ……」

 クルィエの足があすみの太ももをに絡み、大きくかき開いた。タイトスカートが裂けんばかりに開かれて、子供っぽい下着が丸見えとなる。その下着はもう熟れた秘所が透けて見えるくらい、ぐしょぐしょに濡れていた。

「綺麗だぜお嬢ちゃん……お前の身体はビューティフルだ。パーフェクトでユニバースで完璧超人だ」
「ああぁ……嬉しいですぅ……ああん!!」

 くちゅ
 下着の上からクルィエの中指があすみのクリトリスを押し潰した。そのままくにゅくにゅと小刻みに撫で回す。まるでおもらししたかのように、あすみの秘所は愛液でびしゃびしゃになった。

「ひゃうううん!!ダメ、だめですぅ!!ああぁん!!」
「まだまだこれからだぜ」

 ぷるん、とあすみの小ぶりな乳房が揺れた。いつのまにかクルィエがあすみの上着とブラを脱がしていたのである。ピンク色の乳首はもう痛々しいくらい勃起していた。その乳房を根元から先端まで両手で搾り取るように、念入りにマッサージする。

「んはぁ!!もっとぉ、もっと豊乳マッサージしてくださいですぅ!!」
「ああ、こうして揉んでもっともっと綺麗な胸を大きくしてやろう。かすみやセリナお姉ちゃんよりも大きくしてやるからな」
「あああぁぁ……嬉しいですぅ」
『プリティーキューティーな主よ。我も行きますぞ』

 黒い影の触手と化した真沙羅が、あすみの全身に絡みついた。服の内側に紛れ込み、あらゆる性感帯を同時に愛撫する。特にパンツの中に潜り込んだ細い触手がクリトリスをきゅっと絞り、小陰口を撫で、膣口を弄り、アナルまでも突つくと、あすみは獣のように快楽の雄叫びを漏らした。

「ふひゃぁああん!!そんなところぉ!!ましゃらちゃんダメですぅ!!」
「俺のも頼むよ」

 ふと、涙と涎を流して喘ぐあすみの頬に、固く熱いモノが押し当てられた。それがクルィエの勃起したペニスだと気付いた時には、あすみは無我夢中でその肉棒を口に含んでいた。グチュグチュと卑猥な音を立てながら、シャフトにたっぷり唾液を絡ませ、舌先で先端をくすぐり、カリに軽く歯を立てる。そのどちらかといえば、ぽやっとしてこうした行為には縁の無さそうな美少女の、娼婦も顔負けのテクニックに、クルィエはたまらずうめいた。

「うぉおお……凄いぜお嬢ちゃん。あんたのテクニックは究極無敵銀河最強だぜ」
「んふぅ……はぁ……美味し……ぴちゃ……ですぅ」

 そして――

「んはぁぁぁあ!!」

 あすみの肢体がビクンと跳ね上がった。真沙羅の闇の触手が、あすみの膣口とアナルに突き刺さったのだ。もう愛液ですっかり熟れたあすみの秘所は、太く長くたくましい触手のピストンを難なく受け止めて、逆に貪ろうと淫肉が自ら咥え込み、決して離そうとしない。

「ふぁあああ!!きゃふぅ!!んぐぅぅ……ぷはぁ!!あああああん!!!」

 四つん這いにされたあすみの頭は、クルィエに押さえられて激しくフェラチオさせられ、ボリュームのあるお尻は真沙羅の触手ペニスが叩き付けられる。前後からの激しいピストンにあすみは喘ぎ、悶え、そして――

「んはあああぁ!!イクっ!!イっちうですぅぅぅ!!!」
「ううっ!!」

 下半身を激しく痙攣させながらあすみが達すると同時に、射精したクルィエのザーメンがあすみの顔に降り注ぐ。その白く汚されたあすみの可愛らしい顔は、今は淫乱な雌犬のように恍惚としていた……

 その時――

 バババッ――!!

 周囲の茂みが一斉に爆ぜるや、完全武装の兵士達――内閣特務戦闘部隊が踊り出た。
 間に合わなかったのだ!!
 四方八方から向けられる銃口に、もはやあすみ達は成す術もなく――
 爆音に等しい一斉射撃が、中央公園全体に轟いた……
 始まりと同じように、一斉に銃声が止まる。
 原型を留めぬ肉片が、雪のように兵士達に降り注ぎ、溶け消えた――消えた!?
 呆然としたように立ちすくむ戦闘部隊の視線の先には、弾痕の空いた複雑な印の書かれた3枚の呪符が青白い炎を立てて、嘲るが如く燃え踊っていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ――中央公園上空――
 満天の星々と漆黒の闇が半々に天球を支配する中――

「――上手くいったみたいだな」

 暗天の闇が喋った。
 と、次の瞬間には幕を降ろすように“闇の中の影”が翻るや、純白の猫へと姿を変えて、褐色の翼を広げた男の抱くピンク色の制服を着た女の胸元に降り立った。
 『本物の』あすみ、真沙羅、クルィエである。

「これも、あすみの符術で変身させた身代わり呪符ちゃんの演技力の賜物ですぅ」
『こうして、我等の身を隠せるのも我の御陰である事をお忘れなく』
「……全員かついで飛んでるのも、そもそも作戦立てたのも俺なんだが……っていうか、あの身代わり呪符の演技には色々突っ込みを入れたいんだけどな」

 薄紫色の煙が幾筋も立ち昇る中央公園が眼下に見える。真沙羅の影だけでは到底見逃さなかったであろう狙撃手の目を眩ませたのが、あの魔導弾の煙だと知ったら、百戦錬磨の内閣特務戦闘部隊の連中はどう思うだろう。
 何はともあれ、こうして2人と一匹は包囲網からの脱出に成功したのである。

「それにしてもぉ……ええとぉ、どうやってあすみを正気に戻せたのですかぁ?」

 流石にあすみも少し頬が赤い。珍しく照れているようだ。
 クルィエの表情は少々困惑気味だった。

「……まぁな、俺も若い頃は結構遊んでたからな。ZEXLパイロットがエリート揃いだっていう天界軍の宣伝は、正直眉唾だぜ」
『何処を如何遊べば、頭部マッサージで脳の快楽中枢を直接刺激できるようになるというのだ』
「うるせぇ」

 何時の間にか意気投合しているクルィエと真沙羅の姿に、あすみは嬉しそうに微笑んでいたが――それも一瞬、

「それよりもぉ、早くセリナお姉ちゃん達と合流するですぅ!!」

 そう、まだ戦いは始まったばかりなのだ――いや、始まってもいないかもしれない。

『そうは言っても、はたして彼奴等は何処に逃げ――』

 真沙羅の台詞に、派手な爆音が重なった。
 方角は――商店街。

「向こうも派手にやってるな」
「れっつごーですぅ」

 鳳(おおとり)の翼が魔天に羽ばたいた。
 新たなる戦場へと――

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